抜けてもいいですか? (3/3)







「先輩、ちょっといいですか」

「は?誰───」

「って、え?苗字?」



黄瀬君や笠松さんと別れ、やって来た秀徳の応援席。
後方の席で携帯をいじって喋っていたらしい先輩二人に声を掛ければ、驚いたようで目を丸くしていた。
しかし話し掛けたのが私だと分かると、すぐにプッと笑いだした。



「あはっ、負け犬がなに?うちら話すことないんだけど?」

「──先輩たち、試合見てないんですか」

「何言ってんのウケる!10番ガス欠でうちの勝ち見えてんじゃん」



泣いても笑ってもこの第4Qで勝敗が決まる。
再開直後にまた緑間君を止めた火神君だったけれど、やはりその様子からはかなりの疲れが見える。

けらけらと笑う彼女たちに、私は一枚のメモを差し出した。



「“第2体育館、使用許可証”?」

「この施設にある、もう一つの体育館です。ハーフコートですけど、2対1なら問題ないでしょう」

「はあ?」



意味がわからないといった二人。



「先輩たちは、私を負け犬だと言いましたよね」

「だから?怒ったとでも言いたいわけ?」

「私は自分を負け犬とは思いますが、あなたたちに言われる筋合いはない」

「へえ、言うじゃん苗字のくせにさ」



腐っても彼女たちは帝光女子バスケ部のレギュラーだった人たち。
私の言い方にピクリと反応した。



「で?使用許可証なんか渡して、どうしろっての?」

「まさか試合しろとか言わないよねぇ?」

「さすが先輩、察しがいいですね」



にこりと笑えばまた二人は笑いだした。
だけど気にせず、私は言葉を続けた。



「この試合が終わったあと、そこに来てください」

「……苗字アンタさァ、誰相手に物言ってんのか分かってる?」

「負け犬がほざいてんじゃねーっつの!」



プライドが傷付いたのか、声のトーンを下げて睨む二人。

私もまた、そんな二人に冷ややかな視線を向けた。



「先輩たちこそ、誰に喧嘩売ったのか……覚えてますか?」

「なっ…」

「私、根に持つし、負けず嫌いなんですよ」



私が踵を返すのと、同時に。

試合の終了を告げるブザーが鳴り響いた。





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