抜けてもいいですか? (2/3)
渋々ながらもカントクに許しを貰って、私がやって来たのは観客席。
本当はインターバルの間だけ、ということだったんだけど……不運にも迷い癖が発揮され、観客席に辿り着いた時には第3Qが始まっていた。
「あ、黄瀬く…」
「えっ、あ!名前っちー!」
「ふぶっ」
目立つ綺麗な金髪に見覚えがあり、そっと声をかければ振り向き様にギュッと抱き締められる。
彼は会う度にこうだなあ、なんて笑っていると不意に感じる視線。
黄瀬君から離れつつ目をやれば、彼の隣に座っていた人物に気付いた。
「あ……笠松さん、ですよね。お久しぶりです」
「確か苗字だよな。いつぞやはどーも」
「いえ……」
練習試合の時に顔を合わせて以来だったが覚えてくれていたようだ。
「つーか誠凛のマネがこんなとこに居ていいのか?」
「それは俺も思ったっス」
「ん、実はちょっと話したい人たちがいて───」
二人と話していると、急に辺りが騒がしくなる。
コートに目を向けると、火神君が緑間君のシュートを止めていた。
「火神っち、ついに開花させたっスね」
「天賦の跳躍力ってとこか……」
黄瀬君と笠松さんのそんな会話を耳に入れながら、私はベンチに座る黒子君に目をやった。
そして彼の目に真っ直ぐ火神君が映っているのを見て──やっぱり、と小さく呟く。
「名前っち?」
「…私、男の子に生まれたかったなあ」
「え、ちょ、それは俺が困るっていうかなんでっスか」
「だって──ほら、」
私が示した先にはベンチで何かを言い合う火神君と黒子君の姿。
鋭い空気を纏っていた火神君は、黒子君の言葉でハッと気を落ち着かせていた。
そして先輩たちともアイコンタクトを交わし、入れ直す気合い。
「私もああいう風に──」
仲間が欲しかった。
「名前っち……大丈夫、君は独りなんかじゃないっスよ。黒子っちも火神っちも、俺もいるから」
ギュッと抱き締める黄瀬君は、まるで私をあやすように優しい声色でそう言った。
「……ありがとう。うん、じゃあ私は、これで」
「そう言えば、話したい人って誰なんスか?」
まだ心配そうに、でも首を傾げて聞いてきた彼に答える。
「お世話になった先輩、だよ」
秀徳の応援席を指差すと、案の定「え、えっ?」と目を見開く黄瀬君。
私以上にわたわたと慌てる彼がなんだか可笑しくて、くすりと笑いが漏れた。
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