絶対に、勝ちますから (1/2)









例えば、根っからの負けず嫌いで努力の量が半端ないこと。
例えば、いつも明るく無邪気に笑うその裏で、人知れず不安を抱いていること。

君のことは誰よりも、ずっとずっと知っていました。











新緑が爽やかに揺らめく───中学2年、5月のこと。

突然、いや、正確にはそんな予感もしていたのだけれど。
僕はいつものように着替えを終えて足を踏み入れた体育館で、監督の持つ一枚の書類に不安が現実になったことを直感した。





「っ、名前さん!!」



体育館を飛び出し、校門を過ぎたところで後ろから腕を掴む。
驚かせてしまったのか、振り向いた彼女はぱちくりと瞬きを繰り返した。



「く、黒子君?何で此処に──」

「監督から聞いて抜けてきたんです。…退部届けを出したって、本気なんですか」



掴んでいる手にギュッと力が入ってしまう。

どうして、どうして。



「……理由なんてこの前の試合見てたら分かるでしょ?」



思い出すのはあの時の、名前さんの愕然とする姿。

決して彼女に回らないパス、合うことがないハイタッチ。
チームでコートに立っていたはずなのに───いつの間にか、チームというものは四人だけで構成されていた試合。



『うっわ、女ってやること汚ェんだな』

『タチが悪いといった方が正しいのだよ』



観客席で後ろに座る彼らがそんな風に話していたのを覚えている。





「あのね、黒子君。バスケは一人でも出来るよ、だけど独りじゃ出来ない──少なくとも私はそう思ってる」

「…名前さん…」

「逃げるみたいで悔しいけど、」



──もう、あのチームでバスケは出来ないよ。

泣きそうになのが分かるのに努めて笑って言った名前さん。
それ以上は引き留めることが出来なくなって、自然と力の抜けた手から彼女の手がスッと離れていった。



「……私、もう帰るね。……黒子君もそろそろ戻った方がいいんじゃないかな?」

「………」

「迷惑かけてごめん。…部活、頑張ってね」

「…っ…名前さん!」



帰ろうとする彼女の名前を呼ぶ。
ぴた、と動きを止めた彼女は背中を向けたままだ。



「僕は名前さんのバスケが大好きです。また、一緒にやりましょう」

「───黒子君、」



彼女がゆっくりと顔だけで振り返る瞬間、ザアッと強い風が吹き荒ぶ。



「ごめん、ね」



一筋の涙を流しながら、彼女は哀しそうに笑った。











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