……ごめんね (3/3)
「すみません!遅くなりましたっ」
俺と一緒にチームの元へ戻ってきた名前は、謝罪と共にメモしてきた紙をカントクに渡す。
内容に変更がないことを確認したカントクは「ありがとう」と微笑み、何だか不安そうな表情の彼女の頭を撫でた。
「怒ってないから大丈夫よ。それじゃ、まずは控え室に行きましょうか!」
荷物を置いてからアップに入るため、カントクや主将を先頭にぞろぞろと歩き出す。
その後についていく名前は、先輩たちに気付かれないようにそっと溜め息を溢していた。
「───火神君。名前さんに何かあったんですか?」
「あ?」
「名前さんの様子が…変です」
名前の様子を見つつ列の最後尾にいた俺に、黒子がそう尋ねる。
「あー…名前の、帝光ん時の先輩と会ってよ。そいつら、意味分かんねーことばっか言いやがってさ」
「!」
「鞄に秀徳って書いてたし、応援に来てんだろーけど……なんつーか、」
話しながらその先輩とやらを思い出して「嫌な感じの女たちだった」と付け加えると、黒子は苦虫を噛み潰したような表情をする。
「そうですか……名前さんの先輩が、秀徳の……」
黒子の視線の先に、小金井先輩たちと楽しげに話す名前の姿。
「…………なあ、黒子」
ぽそりと珍しく周りを憚った小さな声に、黒子は顔を上げる。
「中学ん時、名前に何があったんだ?」
声を潜めて聞くのは彼女の過去。
黒子は一瞬躊躇ってから、しかしすぐに口を開いた。
「何で僕に訊くんですか?」
「は?いや、だってお前…」
「彼女に直接聞くか、彼女が話してくれるのを待つべきだと思います」
きっぱりと言い切った黒子に何も言い返せなくなり。
俺は悔しくも口をつぐむしかなかった。
「ただ…もし、一つだけ言えるとしたら」
「?」
「名前さんは今、きっと無理をしている筈ということです」
前を歩く名前を見つめるその目が語る───心配だ、と。
俺は乱雑に頭を掻いた。
「ったく、んなこたァ分かってんだよ」
通りすぎていく“秀徳高校控え室”や“正邦高校控え室”の文字を一瞥し、フンッと鼻を鳴らした。
「今日の試合に全部勝ちゃー、名前もスッキリすんだろ!」
「…それもそうですね」
俺らはそう意気込んで、控え室に入った。
なあ、名前。
俺たちは勝つからさ。
んな泣きそうな顔じゃなくて、いつもみたいに笑ってくれよ。
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