……ごめんね (2/3)









───それから、あっという間に数日が経って。
とうとうIH予選の準決勝の日を迎えていた。





「名前ちゃん、悪いんだけど…」

「はい、確認してきます!」



試合の時間が変更されてないか、また他に何か伝えられてることはないかなどを確認しに本部へ向かう。
会場のロビーは選手や観客など沢山の人で溢れ返っていた。

人垣を抜けて本部の横に掲示された予定表や連絡事項をメモしていると、背後から声が近付いてくる。



「てか試合どことだっけ?」

「銀望。まあ普通に勝てるでしょ。で、隣が正邦と…誠凛?」

「あー、去年トリプルスコアでボロ負けしたとこか!今年は何点差になるんだろうね」

「何にせよ秀徳の勝利に変わりはないっしょ」



会話を聞いていた私はぐっと怒りで拳を握る。

秀徳の女バスの部員だろうがマネージャーだろうが、そんなふうに言われると此方としても黙ってはいられない。
くるっと振り返り、キッと秀徳の女子生徒を見て───私は、ピタリ、と止まった。




「…………!?」

「……あっれえ?苗字じゃん!」

「ええ?うわ、ほんとだー。何で此処にいんの?」



嘲笑うように此方を見てくる2人───彼女たちは、帝光中バスケ部の時のチームメイトだった先輩だ。

思いもよらない再会に心臓がドクンと跳ねる。
ケラケラと笑いながら聞いてくる彼女たちを見据えれば、それが不快だったのか2人は睨み返してきた。



「つーかそれ誠凛の制服じゃない?」

「わ、ほんとだ!」

「バスケ部のメンバーに会わないように、ショボいとこに行ったわけだ」

「あはは、超ウケる!」



耳につく笑い声がいつかのあの日と重なる。
握った手のひらが汗ばんでいる気がした。

蘇るのは、あの時の───




「っ、せんぱ」

「何やってんだ、名前」



ぐ、と引かれた腕。



「皆待ってんぞ、早く来いよ」

「か、がみ…く」



辿々しく名前を呼ぶ私の様子に首を傾げた火神君は、それから前にいた女子2人に視線をやった。
先輩たち2人は気圧されるも、彼のことを知っていたのか「あ!」と口を開いた。



「誠凛の10番じゃん!…ってことは、苗字ってマネージャーなの?」

「だったら何だよ」



眉間にぐぐっと皺を寄せて肯定した彼に、彼女達は堰を切ったみたいに笑い出して。
火神君に掴まれた腕がぴくりと震える。



「あー、笑った!苗字がまさかマネージャーとはね!!」

「…何言ってんだ?」

「ま、君には関係ないか。…じゃあね苗字、二度とうちらに会わないように気を付けなよ!」



愉快だと言わんばかりに笑い、2人はさっさと居なくなっていった。

何なんだ!と苛ついた様子の火神君の手を、くいっと引く。





「火神君、ありがとう。……ごめんね」

「お前──」

「…皆待ってるんだよね、急ごっか!」

「っ、お、おい!」

「早くいこ!」



言いかけた彼の腕を引っ張る。

聞かれたくないというような、思い出したくないというような、……誤魔化すような。
そんな笑みを浮かべた私に、彼は喉まで出かかった疑問を飲み込んだみたいに、「おう、」と返した。










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