マジックならあるけど (2/2)







そんなこんなで引き上げようかと動き出そうとした時、不意に観客席からのどよめきが耳に入る。



「秀徳だ!」

「今年は一段と凄いらしいな…!」



観客の視線の先、コートに向かってくる足音にふと振り向いてみれば、そこには東京都の三大王者と謳われる秀徳高校の選手の姿があった。



「(秀徳高校…!緑間君のところだ)」

「書くモン、持ってるか?」



彼の姿を探そうとするところで、ポンと肩を叩かれる。



「?マジックならあるけど…」

「ちょっと貸りてくぜ」



ニヤリと不敵な笑みを浮かべる火神君に持っていたマジックを渡せば、彼は日向先輩に一言残してスタスタと歩いていく。

向かった先は。





「よう。オマエが緑間真太郎…だろ?」

「……そうだが。誰なのだよキミは?」



なんと彼は挑発的に緑間君に話し掛け、更に驚くことに彼自身の名前を緑間君の手のひらに書いたのだ。
たった今、私に借りていったマジックで。



「センパイ達のリベンジの相手にはキッチリ覚えてもらわねーと」

「…フン。リベンジ?ずいぶんと無謀なことを言うのだな」



火神君の所業が勘に障ったのか、額に青筋が浮かんでいるように見えた。



「あ?」

「誠凛さんでしょ?てかそのセンパイから何も聞いてねーの?」

「…高尾」



クイッと眼鏡のブリッジを上げる緑間君の背後から、黒髪の選手──高尾君(らしい)が言葉を挟む。
そして彼は、誠凛は去年決勝リーグで三大王者全てにトリプルスコアで大敗したのだと続けた。



「トリプル、スコアで……?」



思わずそう漏らしてしまう。

その言葉が聞こえていたのか、火神君から視線を移した緑間君と目が合う。



「───、」

「落ちましたよ」



緑間君がこちらに一歩近づこうとした時、ぽてりと落ちたぬいぐるみを拾う黒子君が声を発す。
それを渡しながら、彼に告げるのは。



「勝負はやってみなければわからないと思います。緑間君」



言われた緑間君はより一層眉間に皺を寄せて「オマエは気にくわん」と吐き捨てた。





「…キミが気に入るのは名前さんくらいでしょう」



それまでの雰囲気をぶち壊すみたいに黒子君が言うものだから、傍観していた私は目を丸くする。



「へ、私が…何?」

「黒子、訳の分からないことを言うな」

「否定はしないんですね」

「ちょっあの…二人とも、私を置いて話を進めないで…!」



話がどうなってるのか見えないのを伝えるが、ふうと息を吐いた緑間君に一蹴され結局は分からずに終わってしまった。





「……黒子、見ておけ」



秀徳側の主将に呼ばれてベンチに向かうその寸前、緑間君が口を開いた。



「オマエの考えがどれほど甘いか教えてやろう。それから───名前、」



ちら、と移される視線。



「IHの間、この前のように迷子になるなよ」

「なっ…ならないよ!!」

「どうだかな」



様々な火種をばら蒔いた緑間君はプンッと怒ったように反論してもフッと笑みを浮かべ、長らく黒子君に絡んでいた高尾君を連れて立ち去っていくのだった。





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