確かにそうっスね (2/3)







次の日の、朝。

朝練の時間より遥かに早く家を出発した私はある場所に向かっていた。





「(………ん?)」



やってきたのはストバス。
どうやら既に先客がいるようで、静かな朝にドリブル音が響いている。

カシャンとフェンスを開けて入ると、振り向く人影。



「!黄瀬君、」

「名前っち…?」



朝日が反射してその金髪が輝き、汗も光って。
なんだか彼が眩しい。

ベンチに荷物を置いていると、彼はボールを脇に抱えて駆け寄ってきた。



「おはよっス」

「おはよう。…なんか、こうして会うのも懐かしいな」

「…確かにそうっスね」



中学の頃、二年で退部した私と二年で入部した彼との接点は部活よりもストバスだった。
毎日ストバスにいた私は、朝練前や放課後に時々来る黄瀬君とそこでよく顔を合わせていたのだ。

しみじみと昔のことを思い出していると、彼は抱えていたボールをポンと投げてよこした。
笑って、私もまたポイッとそれを返す。





「……最近、よく練習するようになったんスよ」



不意に溢した黄瀬君。

また放られてきたボールを、しっかりと受け止めた。



「まだよく分かんないけど……負けてから、海常の皆とやるのが楽しいって思えるようになったんス」



へへ、と照れ笑いする彼。
初めての敗北を味わったあの試合直後に比べ、どこか大人っぽくて何かが吹っ切れた表情だ。

















「黄瀬君、なんか……かっこ良くなったね」

「──え?」



微笑む名前っちに目をぱちぱちと瞬かせる俺は、明らかに動揺していた。
彼女がそんなふうに言ったのは初めてだし、何よりそんなふうに言われるなんて思いもよらなかったからだ。

そんな自分に、彼女はまだ言葉を続けた。





「負けなしの前よりも──今の方が…すっごく、かっこ良いよ!」





──彼女は知らない、だろう。
その言葉にどれだけ勇気をもらったか、その笑顔にどれだけ励まされてきたのか。

どれほど、君に支えられてきたのか。
















「……あれ?もう行っちゃうの?」



汗を拭い、鞄を掴む黄瀬君に問いかける。
彼はこれから朝練があるのだと答えた。



「じゃあオレ、もう行くっス。名前っち達とまたバスケするの、楽しみにしてるっスよ!!」



彼は眩いばかりの笑顔でそう残し、そこから去っていったのだった。










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