彼には弱点がある (3/3)
「もうテメーのお返しはいらねーよ!!」
ビーッと、激しい試合の終わりを告げるブザーが鳴り響くと同時に決まった火神君のダンク。
100対98。
誠凛と海常の練習試合はそんな結果で終わりを迎えた。
「ありがとうございました!!!」
整列そして挨拶を済ませた誠凛の選手たちは、皆勝利の嬉しさに明るい表情をしてベンチに戻ってくる。
私も労いと祝いの言葉をかけながら彼らを笑顔で迎えた。
「名前ちゃーん!」
「っわあ!?」
「んんー、やっぱ癒されるな〜」
「こ、小金井先輩!?」
タオルを受け取るのかと思いきや、ギューッと抱き締めてきた小金井先輩。
頬をすりすりとされて、無性に恥ずかしくなる。
あわあわと焦るのだが、彼は未だに離れてはくれなかった。
「何してんの、コガ」
「だって名前ちゃん可愛いんだも…のわっ?!」
「名前ちゃん平気?」
ぺいっと彼を引き剥がしてくれたのは伊月先輩で、心配そうに聞いてくれた。
「あ、はい。ありがとうございます、」
試合、お疲れ様です。
微笑んでタオルとドリンクを手渡そうとすると、すっと頬に手が添えられる。
「っ、伊月先輩?」
「こうやって迎えられると…確かに、コガの気持ちも分かるけどね」
「せ、せんぱ…」
普段とは違った、どこか大人の雰囲気漂う妖艶な笑み。
彼の親指が頬を撫ぜ、思わずカアアッと顔に熱が集まる。
「だアホ!何してんだ!」
「いてっ」
日向先輩が彼にボカリと一発喰らわせたらしく、痛みに顔を歪めて「また後でね」と残し更衣室に向かっていった。
まったく…と漏らす日向先輩だが、その表情にはやはり勝利の嬉しさが滲んでいる。
「お疲れ様です、日向先輩」
「…おお。名前もお疲れ様、」
くしゃりと頭を撫でられ、嬉しそうにはにかむ日向先輩に笑みを返す。
ほんの一瞬、視界に映った黄瀬君は涙を流していたけれど、私はくるりと背中を向けた。
勝ったものが負けたものに言えることなんて無いのだから。
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