楽しみにしてるから! (2/3)
「おいコラ黄瀬!あの連中なんとかしろ!」
「ええっ?」
「お前のせいだろーが!」
「用が済んだなら早く帰った方がいいと思います」
「わ、」
ズカズカとやって来た火神君が黄瀬君をむんずと掴み、その隣にいた黒子君にギュッと手を握られる。
「?黒子く、」
「名前さんに会えて嬉しいのは分かりますが──彼女は僕たちの仲間だ。海常の君とは違う」
「…そんな敵意むき出しにしないでよ、黒子っち。さっきの今でオレ悲しいんスから」
さっきの今?
状況が解らずに目を瞬かせているのに気付いて、火神君が軽くこれまでの流れを話してくれた。
今度誠凛と海常で練習試合をやること、黒子君に会うのも兼ねて様子見に来たこと、プレイをコピーしてみせたこと、……黒子君を引き抜こうとして見事に断られたことなど。
「それにしても仲間、か。…黒子っちがこんな学校に居るのもそうだけど、名前っちがマネージャーやるなんて思いもしなかったっス」
先程までの花が飛ぶような笑顔とはうって変わった、真剣な眼差し。
「バスケから離れた名前っちがまたバスケを始めたのが、オレらの側じゃなくて誠凛だなんて……」
私はそっと口を開く。
「それは…このチームとなら大丈夫だって思ったからだよ」
「………こんなとこを選んだんスか?」
「あの場所では失われていたものが、ここには沢山あるの」
「………」
わかった、と彼が呟く。
「黒子っちのこともあるし、…今度の練習試合、絶対に勝つ」
語尾につく「っス」が落ちているということは、それだけ彼が本気だということ。
それでも空気がずっしりと重量を増したのを無視し、私は立ち去ろうとする彼の裾をキュッと握った。
「あのね、私、黄瀬君に会えて嬉しかったよ!…練習試合、楽しみにしてるから!」
「……っス、」
驚きと喜び、それから決意に瞳を揺らして。
彼は誠凛から帰っていった。
「───楽しみにしてる、ね。名前ちゃんも言うじゃない」
体育館の入り口付近でのやり取りを一部始終見ていたカントクは、愉しいと言わんばかりに口元を歪めていたのだが───私は全く気付かなかった。
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