花と獅子

白紙に還る記憶


夏の日差しの下でも一等鮮やかな色彩を放つゆきさんは水に濡れたような瑞々しい美しさを纏っていた。人波にのまれそうな彼女の元へ足を向けると周囲がちらちらとその容姿に視線を向ける気配がよく分かり、これは一日油断ならないなと気を引き締める。

「煉獄様、お待たせ致しました」
「なに、こちらも今来た所だ。さぁ行こうか」

夏の最中でも透けるような白い肌に海のような蒼と満開の白牡丹の着物がよく似合っていた。いつもと雰囲気が違う装いを眺めて何を着てもよく似合うと褒めれば頬を薄く染めて恥じらう様子が新鮮だ。今まではありがとうございます、と隙のない微笑みで返していた彼女が、自分の言葉に対してここまで感情を見せてくれる事が嬉しかった。
ゆきさんに向けられた視線を断ち切るようにその細い肩へ腕を回して歩き出す。人混みを抜けたところで手を離すとほぅと小さくゆきさんが息を吐く。

「すまない、肩を抱いて、、気を悪くしただろうか」
「いえ、そんなことは…ただ少し緊張しております」
「そうか…、俺も緊張しているのでお互い様と言うことにしておこう。今日は一日ゆきさんのお手を借りてもいいだろうか」
腕を差し出すと遠慮がちにそろりと白い華奢な手が杏寿郎の腕を着物越しにを掴む。顔を上げた彼女と目が合うとふい、と足元に視線を逸らされてしまった。杏寿郎の肩ほどまでしかないゆきが俯くと白いうなじが視界に入り、薄い耳の淵が薄紅に染まっている様子がよく見えた。緊張しているというのが本当に言葉通りなのだと分かり、胸の奥から幸福感が溢れ出る。


「1軒、店に寄ってもいいだろうか?もちろん道中気になるものがあればどこでも付き合うが…」
「はい、お供します。私はこうして賑やかな店先を見ているだけでもとても楽しいです」

事実、杏寿郎の腕からゆきの手が離れることはなかったが、彼女は市井の暮らしが珍しいのかきょろきょろと興味深げに店先や行き交う人々を目で追っていた。無理をさせないように歩幅を合わせてゆっくりと歩きながら、すぐ隣にゆきがいることが未だ現実感がなかった。手の届かない人だと、伸ばしかけた手を諦めた相手がこうして自分の手中にあると思うと得も言えない気持ちになる。新雪の如き手付かずの美しい彼女が自らこの手を選んでくれたのだと。誰にも渡したくないと強く願った結果が今日に繋がっていると思うと、やはり気持ちはきちんと口にせねばなるまい。


「あれは、なんでしょうか」
「ん?あぁあれは芝居小屋だな。あまり俺も見ないがなかなか人気なようだ、今度寄ってみようか?」
こくりと一つ頷いたゆきさんはなんとも言えない顔で杏寿郎を見上げる。

「煉獄様はこういったことに慣れてらっしゃるのですね」

上手く笑おうとして失敗したような表情で、口に出したことを悔やむようにすみません、と続けるゆきさんに慌てて否定の言葉を並べる。たまたま仲間内から聞いただけだと、女性とよく出かけている訳ではないと、説明すればするほど墓穴を掘っている気がした。可愛らしい嫉妬のような感情を見せてくれたことは嬉しかったけれど、あらぬ誤解を抱かれては困ると杏寿郎は空いている手で頭を掻く。

そんなことを話しているうちに目的の小物や装飾品を扱う店に着いた。暖簾を潜ると数人の先客がおりそこそこ賑わっている。お金持ちのご令嬢であるゆきさんからしたら大したものではないだろうが、丁寧な仕事ぶりがよく分かる品物はどれも長持ちするのでちょっとした入用でよく足を運んでいる店であった。兄弟がやっているという呉服屋も隣にあり、どちらとも千寿郎と共に何度か利用するうちに顔見知りになった主人がこちらに気付いて人の良い笑みを浮かべてやってきた。

「兄さん、今日は別嬪さんと一緒かい?いつものチビは留守番か」
「ご主人、揶揄うのはやめてくれ」
店の主人に小さく会釈して微笑みを浮かべるゆきさんはすっかりいつもの調子に戻っており、彼女の人前での振る舞いは流石だなと舌を巻く。先ほどの可愛らしい素振りは夢ではないのかと思うほどに、高貴な気配を振りまく彼女にこんな下世話な話を聞かせるのが申し訳なくなる。
「これはこれは、…こんな上等なおひいさん、どこで引っ掛けてきたんだよ」
にやりと唇を上げてじろじろとゆきさんを見る主人の目から隠すように前に立ち、放っておいてくれと有無を言わせぬ視線を向ければ面白そうに笑いながら、ゆっくりしていきな、と他の客の方へ離れていった。

「お姫さん、なのでしょうか。今日はなるべく街中の女性の服装に似せてもらったのですが…」
浮いているのでしょうかと別方向に悩んでいるゆきさんは服を変えようが、しゃんと伸びた背筋や流れる様な所作から漂う深窓のご令嬢感は消えない。生まれ持った美しい容姿だけではない、彼女の品のある佇まいはたとえ襤褸を纏おうがそこにあるのだろう。
「そんなことはない、本当によく似合っているぞ。君がいい家の子女だと言うことは隠しようもないと言うことだ。だがゆきさんはそれで良い!」
にこりと笑って思わず千寿郎にするように流れる黒髪をよしよしと撫でてしまった。
途端にかぁっと白い頬を赤く染めるゆきさんの可愛らしい反応にこちらも熱が移る。

ただでさえ暑い夏だというのに、余計に熱を感じてしまった。

「…何をお求めなのですか?」
恥ずかしさから逃れるように商品を手に取り杏寿郎から視線を逸らしたゆきさんは物珍しいのか蜻蛉玉の帯留めや組紐の飾りや根付をそっと細い指先で触っていく。その手の後を無意識で目で追いながら今日の買い物の目的を思いだす。
「髪紐が傷んでしまったんだ
千寿郎もそろそろ新調してやらねばならん」
煉獄家は皆髪の量が多い。縛っておかねば戦闘中も視界を覆うので必需品であった。それでも切ろうと思わないのは、父の大きな背中で揺れていた長い髪を忘れられないからだろう。
今はあるものでなんでもいいという惰性で髪を縛っている父上には幾つか無難な黒い紐が家にあるが、自身は記憶の中の父上と同じ紅色の紐を好んで使っていた。しかし頭部を打ったり額を割ったりするうちに随分古くなってしまった。

「今日は…墨紺ですか?」
ゆきさんが見上げてくるので首を回すと視界に入ったようだ。首筋で藍色に黒糸の混じった紐が揺れる。
そうだ今日は彼女に選んでもらおうか、せっかくの逢引だ。髪紐の並んだ棚の前へ移動して二人並んであれやこれやと手に取る。選んで欲しいと言えば、嬉しそうに頬を緩ませた彼女のなんと愛らしいことか。真剣に悩んでくれる横顔を盗み見しながら、ゆきさんが選んでくれるだけで特別な一本になるとこちらも嬉しくなる。
杏寿郎の髪と見比べて納得した様に二色を指差すゆきはどうでしょうかと上目遣いで杏寿郎を伺う。
「朱色か緋色がお似合いになるのではないでしょうか」
同じ赤でも今まで使っていたものより少し明るい色味を見ながら二本とも手に取る。朱色の方は中間からだんだんと淡くなりちょうど真ん中で白色になっており、なんとなくゆきさんの肌の白さや清廉な印象と相まってこちらの方が惹かれた。そんな理由を伝えるのは流石に恥ずかしく、こちらにすると伝えるだけに留める。
千寿郎にはどれが良いかとまた二人であれやこれやと見繕い、鶯色の髪紐に決めた。


「なんだい兄さん、おひいさんには無しかい?」
ゆきさんには商品を見ながら待ってもらい、支払いのため店主の元まで行くと露骨に顔を顰められた。
「ご主人それを今相談したかったのだ…!」
「そう言うことなら任せな
流行りの髪留め、ハンカチ、あとは最近入ったばかりの髪を結うリボンなんかもご婦人に人気だ」
細く光沢のある色とりどりのリボンは確かに洋装の多い彼女に似合いそうであった。
ちょうど自分の手にあるゆきさんに選んでもらった朱色と同じ色合いのものがあるのを目に留めてこれを、と指差すと店主はまけといてやるからまた連れて来な、と太っ腹に対応してくれた。
礼を言って店の入り口付近で待っていてくれたゆきさんを連れて表に出る。

昼食には馴染みの蕎麦屋で、笊蕎麦を二人で食べることにした。
暑いと食欲が落ちるというゆきさんは冷たいお蕎麦なら食べられそうだと笑顔を見せる。こちらは暑かろうが寒かろうが腹が空くのでいつも通り大盛り三人前であった。鬼殺隊士と来るのならもう何人前か食べたところだがゆきさんの手前やめておいた。ズルッと一口で吸い込む様に食べていると、その様子を唖然と見ていたゆきさんが煉獄様の食べっぷりを見るととても美味しそうです、私もずるっと啜ってみますと宣言してちゅるんと蕎麦を啜る様子が可愛いらしい。音を立てずに食事をするように躾けられてきただろう彼女には蕎麦を豪快に啜ることも初めてであったのかそのあとも何度も楽しそうに食べるので、食の細い彼女にしては珍しく完食していた。


そのあとも日陰を歩きながら市中を散策する。
書店に寄って読んだことのある本や好きな物語について語ったり、帽子やステッキを試してみたり、ゆきさんの持っている香水のショーケースを覗いたり、二人で街を歩くだけでこんなに心躍るとは思わなかった。
しばらくするとゆきさんの歩みが遅くなった気がして注意深く足元を見ればやはりどこかおかしい。

「…足が痛いのではないか?」
「…すみません、下ろし立ての草履で…」
「こちらこそ早く気づけば良かったものを、無理をさせてしまったな
あそこで少し見てみよう」
ちょうど庭園の外堀が腰掛けられる高さであったので木陰を選んで座らせると足元に膝をついて草履を脱がす。
裏を返して鼻緒を少し緩めて反対も同じ様にして両手で再度草履をゆきさんの足に履かせなおすと、ゆきさんに肩を貸して立ってもらった。杏寿郎の肩に手を置いて指の間へ鼻緒を調整するゆきさんとぐっと距離が近づいて様子を見るために顔をあげると思いの外近い距離に整った顔がありお互いにじっと見合ってしまう。
潤んだ様な優しい瞳が瞬いて、杏寿郎の奥まで入ってくる様な視線に心の内を全てを曝け出してしまいたくなる。

「痛くないか?」
「はい…まるで王子様の様です」
「おうじさま?」
「シンデレラの、王子様です」

ゆきさんの手が肩から離れるとそこだけひどく熱をもったような心地がした。
屈んでいた姿勢から立ち上がって「しんでれらの王子様」とは何だろうかと思ったがゆきさんが照れた様子を見せるので、これは帰ってから女性陣に聞いてみようと思う。
不意に近くで彼女の視線を感じたことで、胸の奥から言葉が浮いては沈んでいく。言いたいことが言葉になる前に弾けて消えていく様で、言葉にして声に出さなければ伝わらないのに、感情だけがどんどん膨らんでいく。
自然と再度手を差し出していて、いつかの青紅葉の庭と同じ様に丸く整えられた爪の並んだ小さな手が杏寿郎の手におさまる。

ずっとこの手を離したくないと、改めて思う。
風に煽られればひらひらと飛んでいってしまいそうな頼りない手を、こうして引く役目を自分に与えて欲しいと。


「あ、アイスクリーム」
しばらく歩いていると、ぽつりと呟かれた声に釣られてゆきさんの視線を追うと甘味処の外のテーブルで女性が二人、白い甘味を口にしていた。
足もまだきっと痛いだろうし、そろそろ休憩しようかと思っていたのでそのまま二人でその甘味処に入ることにした。木造の奥に広い中庭を持つ茶店の窓側席に通されると、解放された窓からは青々とした木々の木陰を抜ける涼しい風が入り心地よかった。
アイスクリームと緑茶を二人分頼み、ゆっくりと席に向かい合って座るとどこか現実味がないように思う。
ゆきさんは白いハンカチで首筋を抑え、杏寿郎と目が合うと柔らかい笑みを浮かべて涼しいですねと庭先に顔を向ける。

「お手紙、とても嬉しかったです」
そよそよと流れる風を感じているとゆきさんが小さな声でもう一度とても、と付け足す。
鴉が明け方に彼女からの返事を持ち帰ってくれた時のことを思い出して頬が緩む。
「俺も嬉しかった。返事が来てほっとしたくらいだ」
「…本当はお断りするべきなのだと、何度も辞退する言葉を書こうとしたのです。貴方に私は相応しくない」

目を合わせないまま予想外の言葉を告げられて思わず返答に詰まる。
相応しくないというのならそれは、こちらの台詞だ。社会的な地位も無い上に、命を落とす危険のある鬼殺隊に籍を置いている杏寿郎は心底彼女に惹かれていたが彼女に渡せるものをこの身以外何も持っていない。

「ですが、どうしてももう一度こうして二人でお会いしたいと思う心を止められませんでした。煉獄様と一時でもいいから、心のままにともに過ごしてみたかったのです」

流れるように窓辺からこちらに視線を向けてくれたゆきさんはその黒々としたまあるい瞳の奥に確かな熱を灯していた。春の夢のような柔らかな眼差しからは彼女がどれほど今日を悩み、待ち焦がれて、葛藤の末に自分に会いにきてくれたのかはまるで見えなかった。その心の内側の慟哭を覆い隠してただただ幸福を溶かした瞳で杏寿郎を愛おしそうに見つめるゆきさんを、出来るだけそっと抱き締めて自分の腕の中にずっと閉じ込めておければどんなにいいか。

「一時でいいなどと、寂しいことを言わないでくれ。俺が鬼殺隊士だから不安が大きいことは分かっているつもりだ。だが俺はどんな窮地であっても君の元へ帰るという一心で最後まで諦めずに剣を振るう。君が待っていてくれるからだ」
「…貴方が帰ってきてくださるのなら、いつまでもお待ちできます」

涙など一滴も出ていないのに、泣いているのだと思った。美しい顔を歪めて無理に浮かべた笑顔は慕情とやるせ無さの混じった悲しい色をしていた。そんな顔をさせていることが自分であることが胸を突く。
惚れた腫れたでは無いなどと思っていた過去の自分が見ればきっと驚くだろう。
こんなに人思って心が痛いと感じたことなど無い。これが恋でなければ、何だというのだ。
この痛みも喜びも全て、ゆきさんも感じているのならば喜んで受け入れよう。

「明日を諦めないのは君がいるからだ…どうかそれだけは忘れないで欲しい」

はい、と静かに答えてくれたゆきさんはもう凛とした強さをその目に取り戻していた。自分を待つと言ってくれた事がどれだけ生きる希望となるか。命を燃やして闘う中で、灯台の様に暗闇で光を放ち続けてくれる君の存在がこれから先どれだけ俺を救うのだろう。きっとそれは数え切れないほどの死線の中で確かに生へと導く光になる。
心の声に体は正直だから。

「とにかく…もう一度会いたいと思ってくれた、その気持ちだけで俺は十分嬉しい」

あの手紙の言葉通り、今はただ会いたいと言葉にしてくれて、こうして会いにきてくれたことが何より嬉しかった。
この関係はまだ始まったばかりであり、愛しく思う気持ちは日に日に増していく一方だがそれをぶつけて彼女を困らせたいわけではない。ただ一時でも長く彼女と過ごしたい。今はそれだけでいい。

「私もこうして二人で過ごしていることが夢のように思います…街を歩くのも、お蕎麦をいただくのも、こうしてお話しできることも、とても楽しいです」

思いがけず素直な言葉を貰ってしまい、どくんと心音が大きくなる。
憎からず思ってくれていることは、彼女の抑制の効いた言葉の間に現れる赤い頬や、はにかむような口元や、言葉より雄弁に愛おしいと伝えてくれる眼差しから分かってはいた。
このような関係において軽薄なことをする方ではないと、知ってるからこそ直接的に好意を認めるような言葉を聞くとどうしようもなく嬉しくなる。
杏寿郎は柔らかく微笑むゆきを見ながら、やはり共に過ごすだけでいいという事はないなと考えを改めた。


お待たせしました、と明るい掛け声と共にガラスの器に盛られたアイスクリームがテーブルに並ぶ。こういった甘味を見るとすぐに千寿郎に食べさせてやりたくなる。
「今度は千寿郎さんとも来たいですね」
「ちょうど同じことを考えていた!夏が終わる前にもう一度来たいものだ」
口に入れるととろりと溶けてしまう氷菓を楽しんでお茶を飲む頃にはゆきさんも年頃の女の子の顔になっていた。やはり甘味は女性の心をよく掴んでいる。二人の時間を一秒も無駄にしたく無いと思うと話したい事がたくさんあるのに、じっとこうして彼女をみていたいとも思う。
髪を耳にかける仕草や、スプーンを運ぶ小さな口元を見ると触りたくなる様に、人の欲は限りがなく、次は少しでも長く共にいたいと、もっと近くで触れたいと、望んでしまう。

茶店を出て歩けそうかと確認すると大丈夫です、と笑顔で答えるゆきさんは今日一日そうしていた様に自然と杏寿郎の腕へ手を添えてくれた。
身長差も合って賑やかな町中で歩きながら話すと、声を拾おうと必然的に顔をゆきさんの方に傾けていた。それと同じ様に出来るだけ耳許で話そうとゆきさんがこちらを見上げて口元を寄せてくれるので艶々した柔らかそうな唇が視界には入ってしょうがなかった。けれどこうして仲睦まじく寄り添って歩いていれば、不埒な視線も気にならなくなる。いつまでもこうして二人で歩いていたらどこまで行けるのだろうか。早く会いたいと待ち焦がれた1日はやってきてしまえばあっという間に終わってしまう。


「そろそろお姫様を返さないと、君の兄上が心配するな」
陽が傾いてくる前に家に帰さなくては面目が立たないと、人力車の前で足を止める。ゆきさんが少し寂しそうな顔をしているように見えるのは、俺の都合の良い幻想だろうか。
「…また、お手紙を頂けますか?」
「あぁ、鎹鴉は一度覚えた場所はどこからでも行けるからな。またあの潔い返事を期待している!」
「あれはっ…!次からはきちんとお手紙の形にしたものをお送りします」
やはりあの手紙はいつもの彼女の書くものとは違ったようだ。目線を泳がせたゆきは笑わないでください、と恥いっていた。

「また誘っても?」

赤くなった頬を指の背で撫でて、顔を覗き込むように屈むとさらにゆきさんの顔が赤くなる。
柔らかいすべすべの肌の感触を楽しんでいると小さな手に撫でていた指を掴まれる。
「そうやって、私の返事を知っていてお聞きになる」
「君の口から聞きたいからな!」
「…煉獄様はお優しいのに少し、意地が悪いです」
「ははは、意地悪ときたか。意地悪というよりは俺は欲深いのだと思う。君を俺だけの人にしたいし、またこうやって出かけたいし、芝居や歌舞伎もみたいし、君の好きなものをもっと知りたいし俺のことも知って欲しいし…俺はもっと深く君と関わりたいのだな!」

ゆきさんの小さな手に捕まった己の指先ごと引き寄せて白い指先に軽く唇を当てる。
大きな目を見開いて驚いた表情を見せる彼女に、いいだろうか?と再度問えば羞恥に潤んだ瞳でお待ちしております、と小さな声の返事をもらう。


その約束だけで安心してまた戦いに身を投じられる。君の元に帰らねばならないという約束がきっとこの身が燃え尽きる前に暗闇から救い出してくれるだろう。