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似て非なる鏡合わせ



「なぁ、もしかして傑とヤった?」

五条悟にデリカシーなんてものを期待するのは、知り合ってからすぐにやめた。黙っていれば絵画のように美しい顔で、品のない言葉を吐く同級生に白い目を向ける。

「そういうとこだよ」
「は?」
「硝子にカスって言われるの」

青い瞳に浮かぶものが、好奇心であったり、興味であればまだましだろう。この男は私や傑のセックス事情を本心から知りたいわけでもない、ただの暇つぶしの話題として聞いてきただけなのだ。

「カスとかクソとか俺に言ってくる女の子って、名前と硝子ぐらいだからね?」
「私言ってないし」
「いつも硝子の言葉否定しないだろーが!」
「…否定できないでしょ」

ガードレールに腰掛けて無駄に大きな体をゆらゆらと前後に揺らしている悟と並んで、任務の終わった現場でピックアップを待つ。悟と任務に行くと、その才能と力の差をまざまざと見せつけられる。名家の血と、その術式を引き継ぐだけで、こんなに呪術師は強くなるのだろうか。いやきっとそうではない。悟だからだろう、と隣を見れば思いの外近くでこちらを見ていた青い目と視線が交わる。

「な、に?」

無表情だとフランス人形のようで、少し怖くなるくらい綺麗な顔をしている。

「名前ってさぁ、そうやって遠く見てるときの目よくやるよね」
「そうかな」
「傑がよくおんなじよーな顔して遠く見てるから、もしかして二人ってそう言う関係ー?!って」

両手を胸の前に引き寄せてきゃー、とわざとらしい高い声を出す悟に眉を寄せる。

「気のせいだよ」
「えー、好きなんじゃねーの?」
「……この狭い友人関係の中でどうこうとか、わだかまりができたら面倒でしょ」

黙っていれば、ここにはいないもう一人の同級生である夏油傑も、整った顔立ちで素敵だと思う。悟よりも落ち着いているように見えるけれど、彼は勝負事に持ち込みたがる男の子らしいところがある。そして二人揃って口を開けば、聞かなきゃよかったというようなことばかり話すのだ。
硝子は入学してすぐにこいつらカスだわ、付き合うなら一個上か、後輩の入学を待とうとタバコをふかしながら言って来た。ガールズトークと言うのは、歯に衣着せぬ本心の吐露である。かく言う私も同じことを思っていたので、気が合う同性に恵まれたことは幸運である。

「悟だって、最近硝子と口癖似て来てるよ」
「はぁ?俺あいつほど口悪くねーし」
「…似たようなもんだと思うけどな。なんか読んだことあるよ、こういうの。好きな人といるとその人の仕草とか、口調とか移るらしいから、だから夫婦ってだんだん似てくるらしいよ」

私たちは夫婦ではないけれど、家族よりも一緒に過ごす時間が多い。同じものを食べて、同じものを見て笑い、そして同じ悲しみを背負って生きている。

「つまりあれか、俺ら四人全員なんかしら似て来てんのか?」
「そうじゃないかな……私と悟で似てるとこあるとは思わないけど」

私はどちらかと言うと自分は傑と似てると思ってる。言葉の選び方など、硝子と悟の方が直接的で感情的だが、傑と私は婉曲的で嫌味ったらしい言い方をする。四人とも口が悪いと言うところは共通点か。
でも根本的に悟は次元が違いすぎて、私には少し遠い。他の二人と近いかといえば、あの二人も天才という部類なので近くもないのだが、それでも五条悟よりは、近い。

「…それって名前は俺のこと好きじゃないってことじゃん」

茶化した言い方でもなく、ぽつりと呟くようにこぼれ出た、拗ねたような悟の言葉に隣を見れば、青い目がじっとこちらを凝視していた。どうしたのだ、といつもの悟とは思えない反応に首を傾げる。

「いや、そういうわけではないけど・・・」
「じゃあなんか俺と似たところ早く作れよ」
「そんな無茶を言わないでよ」
「あーその言い方、やっぱ傑に似てんじゃねーか!」

子供のように突っかかってくる悟に頭が痛くなってくる。

「…悟のこと好きだよ、これでいい?」

ため息混じりの雑な愛の言葉に、またぎゃんぎゃん言われるのだろうと覚悟して目を瞑る。しかし一向に悟からは返事がないので、揶揄われたのだろうかと訝しむ。好きとか言ってんのだっせー!と小学生みたいなこと言って来たら絶交しよう、と顔をあげれば目元を柔らかく綻ばせて口元を大きな両手で覆う悟がいた。

「いいね、名前に好きって言われんの」
「……言わなきゃ良かったよ」

予想していたどの反応とも違うので、調子が狂う。隠された口元はきっとにやにやと笑みを作っているのだろう。上機嫌になった男の声は、ただのどこにでもいるティーンエイジャーのものに聞こえる。

見慣れたセダンが遠くに見えて来たので、ガードレールにもたれていた腰を上げる。同じく立ち上がった悟が私の視界を遮るので、仕方がなく上を向く。高身長にもほどがある男を見上げるのは、首が反って痛いのだ。

「なぁもっかい言って」
「嫌だよ」
「いーじゃん、言ってよ」

にやにやと嬉しそうにねだってくる男に、もう二度と言いたくないと口を横に結ぶ。口に出してしまえば、言霊のように本当になってしまいそうで怖いのだ。

この男は手に負えないと、よく知っているから。


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