melting chocolate

お揃い


名前からチョコレートと告白を貰ってからの数日はとても気分良く過ごしていた。少し強引と言われればそうなのかもしれないけれど、もじもじうだうだと焦ったい名前には押しが強いくらいでないとなにも進まないのは昔からだ。

けれどここ数日、彼女が付き合ってる人はいない、と言ったとか言わないとかそんな噂を耳にした。
名前のことだから、気の強い女子に詰め寄られて時透君とは付き合ってない、と言ってしまったとしても不思議ではない。
けどそんなこと言われて僕が怒らないとでも思ってるんだろうか。

「名前、帰ろう」
クラスまで迎えにいくと慌てて駆け寄ってくる名前に笑顔を向けると顔を赤くしたり白くしたりと忙しそうだ。
「無一郎くん、昇降口で待ちあわせじゃなかったっけ…?」
「早く彼女に会いたかったんだよ。さ、帰ろう」
クラス中からこちらの様子を伺う視線を感じながらわざと「彼女」という言葉が教室中に聞こえるように話す。さーっと青ざめる名前の手を取って騒つく同級生にじゃあね、と満面の笑顔を向けて教室を後にする。

「無一郎くん、あの手が」
「ん?手繋いで帰るくらい普通でしょ?僕たち付き合ってるもんね、名前」
真っ赤になって狼狽る名前が可愛いけど僕は怒ってるからね、と付けてして細い指と指の間を縫うようにしっかりと所謂「恋人繋ぎ」にして校内を歩く。
騒ついている他人など放っておけばいいって、あの日言ったのに名前は全然僕のいうこと聞かないんだから困ったものだ。

見せ付けるように2人でで歩くと、名前が真っ赤な顔で泣きそうになっている。名前は自覚がないけど人気あるんだから男子に対してもこのくらいアピールして牽制しないと。自分が大人しいからって好意を向けられてることに気づかない鈍さは一級だ。

駅までの帰り道もずっと手を繋いで歩いていると、名前がぽつりぽつりと話し出した。

「無一郎くん、ごめんね。私が付き合ってないって答えちゃったの。ほんとは付き合ってるって言いたかったけど、いろいろ言われて…勇気が出なくて」
ぐすりと鼻を啜る音にぎょっとして横を見れば俯いた彼女の頬からぽたりぽりと大粒の涙が溢れている。

「ごめん、名前。僕がやり過ぎた、ごめんね、泣かないで」

慌てて立ち止まって両手で名前の顔を掴むと、大きな目に涙をいっぱい溜めてぐすぐすと泣く彼女に申し訳なさと可愛らしくて無茶苦茶に抱きしめたい気持ちが溢れる。

登下校の通学路では人目があるので、近くの公園まで名前を引っ張っていってベンチに座らせてやると、少し落ち着いたみたいでウサギのように赤い目でスピっと鼻を啜る。

「僕が悪かったね、嫌な思いさせてごめん」
「そんなことないよ、無一郎くんのせいじゃなくて…もっと自信持ちたいんだけど、上手くできなくて」
「自信?」
「うん、彼女ですってちゃんと言いたい、とは、思ってるんだけど…」
「今日は少しやり過ぎたって反省してる。でも、隠されるは嫌だ。名前が僕の彼女だってことは絶対に譲らないから」
かぁっと頬を赤くした名前がこくんと一つ頷いてくれてほっとする。
「それは本当に、ごめんなさい。今思えば馬鹿みたいだなって思うんだけど…なんであんなこと言っちゃったんだろう。大事なのは無一郎くんだって分かってるのに」
「…それが分かってるなら、もういいよ」

スピっとまた間抜けな音を立てて鼻を啜った名前の言葉が嬉しい。本当はもっと手を繋いでたいしそれ以上のこともしたいけど今日は泣かせてしまったし、このくらいにしておこう。
泣き止んで落ち着いた名前とそろそろ帰ろうと、いつもの通学路に向かって歩き始める。

「…無一郎くん」
「なに?コンビニよる?」
「ううん、そうじゃなくて…もう手は…手は、繋ぎませんか」

可愛いお誘いに込み上げてくるものがあり、嬉しいのだけど素直に顔に出せずに何ともいえない顔をしていると名前の足が遅くなっていく。あぁまた勝手に勘違いしてる。絶対そうだ。

「繋ぐ…繋ぐから、ほら手出して」

しょんぼりした顔から分かりやすくほっとした顔で差し出された柔らかく小さな手に今度は優しく指を絡める。
名前の掌から伝わる熱に仕方ないなぁと可愛い彼女にどんどん絆されていく自分が情けない。
こんなに真剣にすきだって分かってるのかな?名前の言葉と行動でどれだけ感情が揺れるのか、きっと分かっていないんだ。

僕が振り回すはずなのに、いつも立場逆転するんだ。


「ホワイトデー、楽しみにしてなよ
自信がつくものあげるからね」
名前に振り回されてばかりの一日だったので、別れ際にそう言ってにっこりと笑顔を向けるとほくほくした顔をしていた名前の顔がまた白くなっていく。
お返しなんかいいよ、と引きつった顔の名前が喜ぶものをあげようじゃないか。


ホワイトデー当日の朝、学校に行く前に家の前でクッキーの詰め合わせと一緒に学校指定のネクタイを渡せばキョトンとした名前がありがとうと受け取ってくれたのを確認してそのまま名前の首に腕を回す。
「へっ、あの無一郎くん?!」
「なに?大人しくしてよ取れないじゃん」
スルスルと名前の胸元についていた色違いのネクタイを抜き取って自分の首元に結び直すと、ようやく意味を理解した彼女は真っ赤になってそんなことできない!と叫ぶ。
朝からやってんなー、と遅れて出てきた兄さんににやりと笑われて、余計に名前が恥ずかしそうに眉を下げる。

「ほら、早く僕のネクタイつけて?」

すりっと指先で赤い頬を撫でて頼めば名前断らないって知っている。
もたもたとカッターシャツの上に結ばれた名前には少し長いネクタイに気を良くして、行こうと手を出せばおずおずと名前の右手が掴んでくれた。


(もうこんなのバカップルだよ・・・)(いいじゃん、似合ってる、俺のものって感じ)(いつもはお、おれとか言わないくせにっ・・・)