melting chocolate

キャンディ


「名前ちゃん!チョコレートありがとうねっ!俺今でも生チョコの味思い出せるよぉ」

ホワイトデー、善逸くんはまたキンキンと高い声を出しながら、クラス中に律儀にお返しのお菓子を配り歩いていた。
誰に何をもらったかきちんと覚えているところは、流石だと思う。

「ありがとう」

好きなだけとって良いよ、と差し出された箱の中はキャンディがたくさん入っている。色とりどりのそれに目移りしながらどうしようかなぁと悩んでいると、チロルチョコをあげた友人はがばっと掴み取りで5、6個もぎとっていった。

「我妻、サンキュー」
「いいけどさっ!俺今名前ちゃんに選んでもらってるの!!」

「えーどうしよう、なんか知らない飴が多い」
「でしょっでしょ、かわいかったから輸入菓子のお店で買ったんだ」
「んー、じゃあコレ」

白っぽいものを選んでありがとう、と善逸くんを見ればにへらりと眉と目を下げて嬉しそうににやけている。
その顔…ほんとうにとろんとろんだなぁとくすりと笑うと、急に真顔に戻って頬を染めるものだからまたこちらまで赤くなってしまいそうだ。

「なに、我妻、ほんとうに名前がすきなの?」
「え、いまここでそれ聞くの?」
唐突な友人の質問に、思わず突っ込んでしまう。
バレンタインの帰り道を思い出すとちょっと意識してしまうから、恥ずかしいんだけどなぁと善逸君から視線を外す。
「それはちゃんと言いたいから、こういう感じでは言わない。なんてね!!それにあと335日あるから!!!!」

じゃあね、と席に戻っていた善逸君に何も返せずに見送る。

「意外と、がちっぽいね」
「…がちなのかな」
「なになに、ありよりのありな感じなの?名前もついに男に興味が出たか?」
「男っていうか、まぁ善逸君は気になる、かも」

少し照れながら友人に打ちあければぎゅうーと抱きしめられる。応援する!と言われて頷けばよしよしと頭を撫でられた。
女の子同士でつるんでいるのが楽しかったしそれで十分だったけど、あの日から善逸君だけ違って見える。


放課後、校門を抜けたところで後ろから名前を呼ばれた。
デジャブだなぁと思いながら振り返ると、やっぱり善逸君だった。
ぴゅーっと駆けてきた彼はにこにこしながら一緒に帰ろうと誘ってきた。

「飴、薄荷味だった」
「あ、もしかして薄荷きらいだった?」
「ううん、すっきりしてすき」

飴がすき、なのだが「すき」という言葉を口にするとすごく恥しい。
善逸君にはバレンタインから振り回されているなと思う。
少しこちらからもアピールすべきなのだろうか。

「あの、善逸君。335日はやっぱりちょっと長いかも」

伝わったかなと隣を歩く善逸君を見上げると、真っ赤な顔で固まってしまった。

「…聞いてる?」
「ちょっと待って、本当に待って!!!」

足を止めて言われた通りに待つけれど、え、これ夢?夢なの!?ときゃーきゃー叫んでいるので、またこだまが聞こえてくる。真っ赤な顔のままぎゅっと手を握られてどきりとする。

「名前ちゃん、俺がすきって告白するからね!だから先に言わないでねっっ!!」

きいんと耳鳴りがしそうな大声で叫ばれてしまって、これもすでに告白じゃないのかと思ったけれど真面目な顔で目をキラキラさせた善逸くんをみているとそんなこと言えないので、笑ってしまう。

「もうやめて、その笑顔眩しすぎっ!可愛い子が笑うとほんと可愛いからっ!」
「また笑わせてって、言ったよ」
「そうだけどっ!あーもう可愛いなっ!とりあえずデート行こう!!水族館とか、映画とか、デートっぽいの行こう!そこで告白するから!!」

思ったより形にこだわる人の様だ。
告白してもらえる様にデートに行くの初めてだけど、善逸君と行ったら楽しいと思うのでとりあえず頷いておこう。



(は?すきって言うためにデート行こうって言われたの?我妻ヤバイな)(うん、だから水族館行くの)(…名前がいいならいいんだけどさ)