kmt short story



ドーナツの輪の真ん中から考える



※ 芸能人パロディです。
鬼殺隊とか鬼とかじゃないです。全員芸能人で同じマンションだったらのif話。くだらない男性人の会話のみ。夢じゃないです。

表通りからは見えないようにぐるりと高い塀と樹木に囲まれたオートロックのタワーマンションは、入り口に24時間制でコンシェルジュが駐在、セキュリティは万全である。地下の駐車場からなら誰にも見られず裏口から出入りも出来るまさに芸能人や政財界のVIPにうってつけの物件である。事務所が借り上げたワンフロアには同性の俳優やアイドルが住んでおり仕事柄か昼夜問わず静かなものだった。各部屋は一人で住むには十分な広さがあるのだが、毎日一人の部屋に帰って夕食を食べるのも寂しいものがあるので最近知りあった最上階のペントハウスに住う男のもとへ晩酌のワインを手土産に今日も上がり込もうと算段をつけてエレベーターへと乗り込む。

チン、と上品な音色で到着を告げたエレベーターを後にしてインターホンを押せばどうぞーと間延びした声が聞こえてきた。ガチャリとドアノブを回すと広い玄関にサイズもバラバラの男の靴が幾つか並んでいる。先客がいるのかと、数人の顔を思い浮かべながらリビングに続く廊下を進む。

「おー不死川、撮影終わったのか?」
「…またこんなに男ばっかり連れ込んでんのかァ」
広いリビングにはメディアで人気の顔ぶれが揃っていた。残念なことに野郎しかいないが、軽く手を挙げてお疲れさんと挨拶をすると既にアルコールを片手にゆるい宴会が始まっているようであった。
「宇髄、土産だァ」
「お!赤いいね、開けるか!」
「すきにしろ、俺は明日も昼から撮影あるから一杯しか飲まねぇ」

ストイックだなー、という宇髄の声を背中に聞きながら勝手にグラスを取り出してワインが開くのを待っていると、大きなテレビの前のこれまたでかいソファから身軽に身を起こした煉獄杏寿郎がにこにことやってきた。派手な金色の髪をはラフに縛られて後頭部で歩くたびにふさふさと揺れる。

「お疲れ、不死川!喧々諤々の会議だったな!」
「あ?あー、ドラマか。ありがとなぁ、煉獄観てくれてんのか」
「うむ!玄弥くんも格好いいと千寿郎が褒めていた!」
「梨園のご兄弟揃って観てんのかァ…ありがてぇこった」
正直兄弟で本当に兄弟役をやる日が来るとは思っていなかったが、憧れは確かにあった。ゴールデンの主演は何度やっても緊張するが、今回は玄弥もいるのでさらに力が入る。

「開いたぞー、グラス寄越せ」
宇髄はアメリカやヨーロッパでも舞台美術や演出で賞を貰っている男だが、鼻に掛けたところもなく面倒見のいい男だ。意外なことに歌舞伎の名門の跡取りである煉獄とは元々仲が良かったらしく、二人はよく外でも飯を食いにいく仲らしい。
遠慮なくなみなみと注がれる赤ワインは定位置を超えている。文句を言えば継ぎ足すのがめんどくさいと返って来たので諦めてグラスを持つと宴会場の中心地であるソファに向かう。

「冨岡・・・テメェいるならもっと主張しろよ」
座ろうとしたところでラグに座り込みソファの足を背もたれにしている男に気が付く。気配がないんだよ、と言えばなぜか嬉しそうに笑いかけられた。
「不死川、今日は俺が作った鮭大根があるぞ」
「いや俺赤ワイン持ってんだぞ?食うけどよォ・・・」
どう考えても合わないだろうが仕方がない。人が作った料理にケチつけるのは良くないなと冨岡の隣に座るとテーブルの上には一貫性のない料理が並んでいる。既に宴会は中盤なのであろう、料理はどれも手をつけられた様子なので遠慮なく頂こう。
おにぎり、、これはたぶん煉獄だな、地味に料亭の外箱じゃねぇかと高そうな握り飯に頬が引きつる。鮭大根、これが冨岡か、こいつ毎回魚料理持ってくるがどれも普通に美味い。水餃子と焼き餃子、そのほか名称不明の謎の異国料理が嗅ぎ慣れないスパイスの香りを放っていた。これは宇髄だな、あいつは飯に対するこだわりも盛り付けも異常だ。美味いものしか食わん!と宣言しており、仕事で海外にも長く滞在するので自分で作った方が良いと言う結論に達したらしく料理の腕はかなりのものだ。

「いただきます」
食べ始めると煉獄と宇髄もグラス片手にソファにやってくるが冨岡と俺が下に座っているので2人も同じようにラグに座る。乾杯していないぞ!という煉獄の声で各々のグラスをカチンと合わせる。
「お、この赤なかなかウメェな!」
「そうか?なら良かった。俺も貰いもんだからなァ」
「こっちの九州の焼酎もうまいぞ!」
「いや、俺この一杯しか飲まないから」
煉獄と冨岡の手にある透き通った焼酎も美味いだろうが、明日もあるので残念だが断ると目に見えて二人がしょんぼりと眉を下げる。宇髄が俺が全部飲むからまかせろ!と親指を立てているのでここは家主に任せよう。

「あ、名前」
宇髄の声で流しっぱなしの大型テレビに目を向けると深夜番組がちょうど始まったようで可愛らしい三人がセットの中できゃいきゃいと喋り始めた。
「あ?こいつ胡蝶の妹の方か??でかくなってんなー」
胡蝶かなえは芸能科がある高校の同級生だった。彼女は女優になり、妹は確かアナウンサーだったか。バラエティの司会までもやっていたとは姉妹揃って人気なようだ。
「む!甘露寺蜜璃か!先日伊黒が彼女の人間性が素晴らしいと電話して来たぞ!」
「伊黒、あいつもう次の映画の撮影で今北海道だろ?
まだ共演者気にしてるってことは、、あれか!スクープか!!」
「スクープにならねぇよーに黙っとけよォ」
映画俳優として引っ張りだこの伊黒はこの中で一番スケジュールが過密であり、滅多にこの夜会にも来ない。オフは一人で過ごすとすぐに海外に高飛びするような孤独な奴だ。
甘露寺は俺も共演したことがあるが、こいつは天然だ。急にアドリブぶっ込んできたりするので演技が引きずられるので俺にとっては要注意人物になっている。
「つーか名前って、名字名前ちゃん?」
「お?不死川タイプ?紹介してやろうか?」
宇髄の卑猥なジェスチャーに中指を立てて返事をする。
「玄弥がめっちゃかわいいってずっとキンスタ見てるから知ってるだけだ」
「俺もこの前撮影で一緒になった。とてもいい香りがした…」
「冨岡もメディアでは儚げ美青年だもんなァ、詐欺だぜ」
「何故…!?」

番組は三人のトークのみらしく、女子会というものを覗き見している感覚になる。これが売りなのだろう、うまくはまってしまっている気がする。
「可愛いな!三人とも可愛い!」
「煉獄、テメェの可愛いは軽い!
女はなぁ、もっと褒めなきゃダメだ、まず甘露寺ならどうする?!」
「む・・・可愛い!」
「胡蝶は!」
「可愛い!」
「名前は!」
「可愛い!」
「だからそれじゃダメだっつてんだろうが!!もっとよく見て相手が欲しい言葉を言うんだよ、分かったか!」
突然始まる酔っ払いのナンパテク講座を無視して鮭大根を飲み込んで、次は餃子に手を伸ばす。水餃子のつるんとした食感を噛み締めてもう一つ焼き餃子も口に運ぶ。冨岡に無言で手を差し出せばちゃんと醤油を取ってくれたのでこいつもやれば出来るのだと驚いた。

「ほら!今胡蝶も言っただろう、ギャップだ!ギャップが大事なんだ」
「ぎゃっぷ、、胸が小さいと思っていた彼女が、脱いだら実は結構ある時のことだな?」
「いや、まぁ、それも嬉しいギャップだが…
それなら俺はTシャツにデニムのラフな格好なのにクソエロい下着つけてる方が派手にいいな」
「あ?下着なんてどうせ取っちまうんだしどうでもよくねぇかァ?」
「俺もそう思う…やっぱり脱がせるならエプロンがいいだろう」
三人の顔が冨岡の発言でぴたりと固まる。
「裸エプロンは男のロマンだな!!」
即座に煉獄の溌剌とした声で肯定されて冨岡はムフフと口角をあげている。つーか声がでかい。この部屋がペントハウスで良かった。夜中に煉獄の声量でこんなクソみたいな話していると苦情くるぞ。
「コスプレかー、俺あんまそっちは知らねぇな。肉体美に勝る美はないぜ!」

そのときちょうどテレビの三人の話題も宇髄の話になり、皆で黙って彼女たちの会話に聞き言ってしまう。テレビに知り合いが出て、この部屋にいる人物について語っているってよく考えたらすごい状況だな。
名前ちゃんと宇髄のスクープ記事でショックを受けていた玄弥に絶対嘘だから安心しろと言ったことを思い出しながら、彼女の口からも否定の言葉が出ると宇髄はちょっとはアリって思ってるくせにぃ、とテレビに向かって茶々を入れる。

『でもちょっとあの私服でデート来られると、隣歩く自信がありませんねぇ』

胡蝶妹のセリフに思わず煉獄と二人で吹き出して笑ってしまう。
「ははは!女性陣もそう思っていたのか!俺は歩けるがな!」
「煉獄テメェ…!もう飯食わせないからな!」
「宇髄の服ダメなのか…?おれは似合っていると思うぞ…?」
「冨岡、フォローされるほど俺の服はおかしくない!芸術的だ!」
眉間に皺を寄せてこれだから凡人は天才を理解できないんだとブツブツ文句を言う宇髄は、半目で女性陣のにこやかな談笑を見ながら背後のソファに移動してその2m弱ある長躯を広い座面に横たえる。
「宇髄さん相手だとめかしこんでいった方がいいだと?当たり前だろ、この美の神とデートだろ?入念に手入れしてから来い」
「お前神だったのかァ」

「俺は胡蝶の服がいい」
体のラインがわかるニットワンピースか。冨岡にしては趣味がいい。見えるけど見えないものへの探究はやはり奥が深いと改めて思う。
「ニットワンピか、悪くないがあれがいいとはムッツリだな冨岡」
そんなことはない、と心外そうな顔をする冨岡を放っておいて赤ワインを飲み干し、そうかムッツリなのかと、俺もいいと思ってしまったことを悔やむ。
「むぅ、洋服はどれも可愛いぞ?甘露寺も名字もよく似合っている!」
「これきて欲しいとかないわけ?」
「特にないな!だが見慣れているせいか着物が好きだな」
煉獄はお家柄そうだよな、と思う。こいつ自体も顔が派手で和装がよく似合っているので梨園の妻になる相手だろうし着物は着れた方がいいだろう。

食べ続ける俺と煉獄のせいで机の上は大方食べ物がなくなった。満腹だし後は寝るだけだなと宇髄の寝転んでいないソファに座ってもたれるとちょうどいい高さでテレビが見れる。
番組の中ではきゃいきゃいとそれぞれの身体を触り合っており、女ってこういうの普通にやるんだなと思う。もしかして胸とか揉まれたりもすんのかと女子という生態の行動には謎ばかりだ。
「よもや、名前さんの腰の細さは大丈夫なのか?
冨岡、モデルはみんなああなのか?」
「そうだな…みんな細いぞ。ほとんど食べないし…俺も腹は薄いぞ?」
徐ろに立ち上がった冨岡がゆったりしたスウェットのトップスを捲ると白い肌が出てくる。薄く腹筋のついた腹も骨張った背中もこのメンツの誰より細いだろう。しかしそうも簡単に脱ぐなよ。
「意外に細いんだな、お前…いつも飯めっちゃ食ってんのにな」
「昔から太らないからな」
「いるよねぇ、そういうやつ。はーてか男の肌なんぞ見てもなー…やっぱりこう柔らかい肌がいいわ。女って感じの」
「むっちり感ということか?宇髄は胸一択だと思ったが、違ったんだな。俺は首筋とか鎖骨が好きだな」
冨岡の言葉についつい画面の中の三人の首筋を見てしまう。こうして酒のつまみに話されているとは思ってもないだろうと罪悪感を感じる。
「いや胸は言うまでもなく全員好きだろ、でかいほどいいじゃん」
「適度でいいだろォ、それより脚だろ」
宇髄の言葉を否定すれば、あぁ?と凶悪な顔で下から睨まれた。
「むぅ、そうだなぁ。どれも捨てがたいがセックスの相性が良ければ体格にはこだわらないぞ」
快活な笑顔で一番どうしようもないことを言う煉獄の言葉にはぁああと深いため息を吐く。

低い宇髄の声と溌剌とした煉獄の声の狭間に冨岡のゆっくりしたテンポの声をBGMにうとうとと眠たくなってくる。明日は昼からだから朝には部屋に戻ればいいだろうともうここで寝てしまおうと決めて目を瞑る。
くだらない男ばかりの宴会はまだまだ続くようである。
ドラマの撮影が終わったら俺も朝まで飲もう。この下世話な話をつまみに、またワインを手土産にして、この部屋で。



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