fate short story



0214



「おい雑種、我に用があるであろう」

間違えようのない特徴的な口調にぱっと後ろを振り向けば、ギルガメッシュが腕を組んで仁王立ちしていた。二月十四日、今日この日に彼に渡すべきものは、ダ・ヴィンチ工房からもらった特攻アイテムのあれしかないだろう、と笑顔で答える。

「はい!もちろんスーパーロックオンチョコは王様にあげますよ。エネミーをガンガン倒してたくさん素材集めましょうね」
「…よい心がけだ。献上を赦す」

いつもならば特攻礼装などはもっと目に見えて喜んでくれるし、微小特異点は祭りだと積極的に参加してくれるのだが、些か反応が悪い。腕を組んだまま威圧的な鋭い視線を向けてくる王様の様子に、何か間違えただろうかと焦りを感じる。

「あ、あのロックオンチョコは、一人にしか渡せないんですよ…?王様にしかあげないんですよ?」
「そんなことは言われずとも知っている。……他には本当にないというのか?」

もしや価値を知らないのかと、言葉を重ねると鋭い舌打ちとともに睨まれてしまった。他に、彼に用事があっただろうか、と必死に考えていると目に見えてギルガメッシュは表情を無くしていく。美しい人に冷たい目で見下ろされると、恐ろしさで心臓がきゅっと痛くなる。

「貴様今日がなんの日か分かっているのか?」
「えと、新しいイベントの初日です…」
「本来はなんだ」

じり、と間合いを詰める王様に追い詰められ、いつの間にか後退していた背中に冷たい壁が当たる。視界がギルガメッシュでいっぱいになり、目線のやり場がなくなって視線を下げる。

「王様、あの近いです…」

恥ずかしくなってきて小さく抗議するも、頭の横に彼の腕が置かれ、余計に距離が近くなる。呼吸までつぶさに観察されているようで、浅い呼吸を繰り返していると、顎を擽るように硬い指先が耳の付け根から後頭部に回る。顔を片手で固定されて首筋を小指で撫でられるとひくりと肩が跳ねた。そろそろと目線を上にあげれば、満足そうな顔のギルガメッシュが口元に笑みを浮かべている。

「ふん、そのような顔もできるではないか。で、本来はなんの日か分かったか?」
「……バレンタイン」
「何をする日だ」
「…チョコを」
「違う、それは貴様の極東の国のみに限った話だ。本来は、愛を祝うものであろうが」

愛、などと彼の口から聞けるとは思っておらず、固まってしまう。ずっと気付かぬふりでひた隠しにしていたギルガメッシュへの恋心も、彼には容易く見抜けてしまったのだろうか。そう思うといても立ってもいられずにこの腕の中から逃げ出したくて堪らなくなった。

「も、もうすぐブリーフィングです…!」

距離をとろうと、手を胸の前に上げるも、彼の鍛えられた剥き出しの肌に手をつくことは躊躇われて指先をもぞりと組み合わせることしかできない。

「殊勝にも玉体に触れるは憚られるか。赦す、と言いたいがまずは貴様がその胸の内を詳に聞かせるべきではないか?」

冴えとした美麗な顔に、意地の悪い笑みを浮かべるギルガメッシュは首筋に添えた手を好き勝手に動かしていく。襟元の内側に指が滑り、鎖骨まで長い指が這うと、ぞわりとした感覚に背中が震える。

「あっ、あの、王様、言います、言いますからっ」

堪らなくなってその手首に両手を添えて動きを止めると、くすりと喉の奥で笑われてしまう。赤い瞳を見上げると、そこには確かな愉悦が浮かんでいて、恥ずかしくて堪らない。彼はこの目線だけでいとも容易く私を屈服させるのだ。そこに加虐が加わる前に、大人しく降参するしかないだろう。
聖人であるバレンタイン司教が見守っていてくれることを祈って、私は唇に愛の言葉を乗せるのだった。


return