I sleep in you after understanding, the talk with offense and defense during one hour, and reconciliation.


 
 
 
 「ぐずっ……う、ひっぐ……。……ふえぇん、シェフの馬鹿ぁ……」
 みっともなく嗚咽をあげてめそめそめそ。服の袖で涙と鼻水とちょっとの涎を拭いなが
ら、僕は罅割れた廊下をとぼとぼと歩く。
 僕はboy。愚かで馬鹿で愚図で甘ったれ、しかも究極的に自虐的な性格が起因して、現実
から弾き出された社会不適合者だ。
 「シェフなんかぁ……シェフなんかぁ……ううっ……」
 そんな僕に唯一残された居場所、それがこのグレゴリーハウス。僕自身が作りだした、
僕の僕による僕のためだけの都合の良い妄想空間だ。
 だからだろうか、こんな人生も人間性も最底辺の僕には、れっきとした恋人がいた。
 さらさら靡く金色の髪に、宝石みたいにキラキラ光る赤い瞳。僕の故郷では滅多に見か
けないその色に、僕は一瞬で惚れこんだ。
 「……シェフなんか……大嫌いだぁ……!」
 けれどもどうやら僕は今、失恋をしているらしい。
 きっかけは些細な事だった。
 ――――――『シェフに触れた者も物も、僕が殆ど壊してあげた』だけ。
 僕はシェフの恋人だから、シェフに触れるモノが全部羨ましい。というかそれは僕の特
権だ。だからそれを邪魔するのは駄目なんだ。今まで生きていて碌な事がなかったんだか
ら、せめてこれくらいは許してほしい。許してくれるよね?許さなきゃ、駄目だよ。
 「なんでシェフは怒るの……? 僕はシェフ大好きだから、シェフも僕が大好きな筈な
のにぃ……! そんなの、そんなの有り得ない筈なのに……!」
 ちょうどあのピンク色のトカゲさんと、老いた鼠さんのお片付けをしている時だった。
いきなり部屋に扉を壊す勢いで入ってきて、僕は当然褒められると思って喜んだのに、こ
のニキビとそばかすだらけの頬を引っ叩いたんだ。
 その時、鈍い音と一緒に何か声が耳に入った気がするけれど、ショックが大きすぎてよ
く分からなかった。
 暴走した感情の思うままに部屋を飛び出して、今。シェフの隣という立ち位置を失った
僕は、休む事なくホテル中を歩き続ける。
 肌色の肉塊とか割れた鏡の破片だとか壊れた公衆電話だとかを踏まない様に気を付けつ
つ放浪していたら、僕は厨の前に立っていた。
 「……シェフぅ……」
 震度六強の震えた声音は、鉄の扉をバラバラに砕いた。
 「……boy、か……」
 崩れ落ちる僕とシェフの間の壁を取り除いたのに、シェフは何だか眉間に皺を寄せて、
剣呑そうな顔をしていた。あれはいくら鈍感でコミュ障な僕でも分かる、僕を嫌っている
雰囲気だ。
 「僕……。僕、いっぱいシェフのお手伝いしたもん! 料理だって、たくさん勉強した
から出来るもん! なんでっ……なんでシェフは僕に美味しい料理を作ってくれるの!? 
僕だったら、僕だったらシェフにシェフのよりも美味しい料理作ってあげられるもん!!」
 咆哮、絶叫、狂乱の末に、僕の皮膚から湧きあがった鱗上の刃物が飛ぶ。
 「……boyっ……!」
 どこか憎らしげに、それでいて悲痛な呟きを零した元恋人は、僕でも唯一壊せなかった
愛用のくじら包丁を盾にして身を守る。
 愛用のくじら包丁。
 愛用の。
 愛、の。
 「っ、あああああぁぁぁぁぁっっ!!」
 欲望のままに、衝動のままに壊そうと思ったその足は、もう僕の知っている僕の足では
なかった。床を抉り地響きを生む波状運動は、大蛇のそれにも竜のそれにも似ていた。
 怯み隙の生まれたシェフに急接近し、上顎に張り付く毒牙を愛おしい首筋に突き立てよ
うとした―――――――。
 その、間際。
 シェフがこれ以上なく優しく微笑んだのを見た僕は、びっくりしてバランスを崩し、勢
いが止まらないまま彼の懐に頭から突っ込んだ。
 「うあ、あ、ああ!?」
 「……っ。……無事、か?」
 視界が何回転もし、頭がくらくらふらふらし始めたその時、僕の世界は真っ白に包まれ
た。シェフが咄嗟に抱きついて、僕を護ってくれていたのだ。
 「……な、何を言っているの!? 君はどうせ僕の事が……!「良かった」……へっ?」
 再び威嚇して今度こそ噛み付いてやろうと思った時、無口なシェフから意外な一言が漏
れた。
 「……お前が……無事で……良かった……。……怪我をしていないのが……嬉しい……」
 何を白々しい事を、と喉元にまでつっかえた言葉は。するすると胃に沈下していく。
 「あの時も……あんな危ない事をして……返り討ちにでも会っていたらと思うと……肝
が冷えた……。何を馬鹿な事をしているのかと……つい手が出た……」
 「……シェフ……?」
 もしかして、僕の事を。
 こんな自分勝手で嫉妬深くて君を本気で殺しかけた、この僕の事を。
 「……心配、したんだぞ」
 ――――――――――――――――――――答えが一致した瞬間、僕から鱗がバラバラ
と剥がれ落ちた。
 憑きモノが落ちた様に。嫉妬が堕ちた様に。
 
 「だから……戻っておいで、俺の愛した『少年』よ」
 
 身体が、心が、ただの僕へと昇華されていく。
 おかしいな、僕はこんな事を望んでいたのだろうか。
 嬉しいのか悔しいのかよく分からないけれど、兎に角涙で視界がはっきりしない。
 ただ、言えるのは。
 「……うん。ごめんなさい、シェフ」
 シェフの言葉が、これ以上なく以下もなく、嬉しかったって事ぐらいだった。









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しぇふぼい。(真顔)

「無音異空間」の蛍鬼さんから恒例のお誕生日小説を戴きました!
恒例…恒例なんですよねぇ…お付き合いして戴き始めてから毎年毎年、忘れずに贈って戴いて…感慨深いですし有難いですし嬉しいです(ゴロゴロゴロゴロ
今まで本当に色々あったけれど、4年5年になってくると軽く奇跡ですよね、クズとずっとお付き合い下さってる方がいるってなんかもう(ゴロゴロガシャァァァァァン
いつもありがとう、Kさん。
これからもずっと仲良くしてくれるとすごく嬉しい。


海の怪物・レヴィアタンは一般的に嫉妬の悪魔で竜にも蛇にも見える外見なんですよね。
でも旧約聖書かなんかには魚表記なんですよね。笑

博識で優しいKさんらしい素敵な贈り物だなぁって思いながら30分で90回くらいの割合で読み直しました
嘘ですすいません。でも何回も読み直したのは本当ですよ。
Kさん大好き(メキメキバキッドンガラガッシャァァァァァン)
有難う御座いましぇふぼい(語尾) 家宝(保管)


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