無題
2014/07/02 13:23
常世獄立学園高等部1年A組、出席番号は27番。
父母は物心ついた時からいなかった。
というより、この常世に来たのはきっと僕だけだった。
所謂、みなしご。
だけども別段、独りで生きているわけでもない。
数年前。此処に辿り着いた日。
右も左も分からず立ち尽くしていた僕は、通りすがりの狐に拾われた。
狐は地獄から来た野干で、随分昔から常世の死者先導機関『ゴク前』で働いていたらしい。
今は僕も、そんなゴク前の屋敷で暮らしている。
義母は狐。女に化けるのが好きで、見るからに贅沢そうな着物に身を包んで笑う、狐。
狐は、僕が五、六つほどになった頃になると、この学校の初等部に入学させてくれた。
君は、これからいろいろなことを学んでいかなきゃいけないからと。
『先生』の見てくれるこの学校は、僕も昔通っていたところだから、大丈夫だと。
最初は窓際の席で大人しくしていたけれど、縁とは妙なもので、いつしか近くには2人の同学年が並んでいた。
今は専ら、その3人であちらこちらを奔走している状態。
ちょっとした探偵気分で始めた悩み相談は思ったよりも評判が良くて。
やれ猫捜しだの、落し物捜索だの、コソ泥の撃退だの…。
主に最後は、B組の喧嘩馬鹿の独走で成り立っているから何とも言えない。
そんな中偶に、母らゴク前機関の仕事に繋がる大事にぶつかることもある。
前に舞い込んできた悪戯狸の捕獲には大分苦戦した。
それも其のはずで、当の狸がゴク前機関の一員且つ脱走魔だったから仕方ない。
結局その案件は、母の力を借りて無事に解決したからいいけれど。
まさか、ブルーベリー蒔いただけで飛び込んでくるとは思わなかったよ。
母曰く、あれは特別なブルーベリーだったらしいんだけど…見た目がただのブルーベリーだった為よく分からなかった。
今日も僕は、朝から母さんに突然のキス目覚ましを喰らって飛び起きて、一通り怒った後、身支度をして学校へ向かう。
庭の落ち葉掃除をしている猫又さんに挨拶をして、通り道の獄門の前で門番の犬神さんに頭を下げて。
それから通学路で狸貉にちょっかいを出されながらの登校はいつものこと。
どうせ学校へ着いた途端に『先生』に捕まってお仕置きになるのは目に見えてるってのに、よく飽きないなぁと思う。
そして僕は、学校で普通に授業を受けて、放課後になると3人並んで家に帰る。
その際に、お悩み相談ポストの中身を確認していくのだけれど、今日は特に何もなかったので真っ直ぐ帰宅した。
通学路沿いにある商店街を通り抜けて、道中声をかけてくれる店の人達に手を振って。
母さんの話では、今商店街で働く人たちの中には、うちの学校のOBやOG、母さんたちの元・同級生もいるという。
誰がその人たちなのかは、聞いていないけれど。
(光君、おかえり)
「…何でその姿なの…」
家に帰りつくと、一匹の狐がちょこんと鎮座していた。
いつもは女に化けている母さんだ。
(光君好きでしょ?もふもふ)
「好きだけど別に帰ったらもふもふしたいとか一言も言ってないから」
(いいのいいのー)
膝に乗っかってくる狐の母さん。
対応に困りながらも抱き締めろとうるさいので、それとなく腕を回したら温かかった。
(そろそろ、淋しがる時期かなーと思って)
「え?」
(光君と初めて会ったのは、確か昔の今頃だったよね)
「……」
ぎゅ、と母さんを抱き締めて、初めであった時のことをぼんやりと思い出す。
7月初旬の丑三つ時。墓石の前に母さんは座っていた。
不思議なくらいに何でも知ってる母さんは、もしかすると気付いているのだろうか。
【狐に祟られるぞ、逃げろ逃げろ!】
僕が元々、人間ではなかったことすらも。
ID.03000の秘密
(ずっと昔の侮蔑の声。あの日の非難は、本当は)
お題配布元:
累卵様