無題
2014/07/02 00:42





犬神。
人にとり憑く犬の霊。非常に強力な力をもつとされる。
この犬神を操るものを「犬神使い」という。

犬神持ちの家は富み栄えるとされている場合もあるが、従順ではなく時として、犬神持ちの家族をかみ殺すこともあると伝えられ、タタリガミとして忌み嫌われる場合もある。
(とあるHPにて抜粋)





最初は、ただの犬だった。
家人に遣え、時として護り、戦うただの飼い犬。
飼い主の人間達は、それは大層オレを可愛がってくれた。
良い餌も与えてくれたし、散歩にも連れて行ってくれた。
ある程度は、家を抜け出しても怒られなかった。

全部全部、犬神を創るルールに則って。




あの日の事は忘れもしない。
いきなり地面に埋められて、届きそうで届かない場所に餌を置かれて。
手を伸ばしたいのに、喰らいつきたいのに肝心の身体は土の中。
なんどもなんども抜け出そうとして、しかし首から下は固く埋められてびくともしなかった。

空腹が続き飢餓に陥り、満足に自我を保てない。
渇望すれど届かないそれに、俺の平静はどこかへ飛んでいってしまった。
吠えて吠えて懇願して、それにも飽きた頃、死神はオレの首を狩っていった。

そこからの記憶はない。
気が付いた時既にオレの意識は、この常世に辿り着いていた。








ただ、それでも。
あの日最期に見た影は、今でも鮮明に頭の片隅に落ち着いている。





誰もいない家屋の近くで、行き倒れていた黒い子猫。
昔其処に住んでいたらしい、大人しく気弱い小さな猫。
捨て猫、あるいは元飼い猫。
ほんの少し気がかりで、それとなく与えた餌を夢中で食べていたあの日の事。
猫は死ぬ直前に、オレの前に座っていた。
近寄りがたいと言いたげに、少し離れた視界の中央に。








「にゃーん」


あの時の鳴き声と、


『犬神さん、遊びましょ』


あの泣き声とは納得のいくくらいに記憶の中で一致して。




「……ユキ」
その時のことは何一つ知らないけれど、
「?」
それが分からないほど、馬鹿でもないよ。
「あんがと」
「??」


「あの時、さ。死んでたオレを、呼び戻してくれて」

「………うん」


黒猫のユキ。
オレを、此処へ呼んでくれた黒い猫又。
目を覚ました直後に、オレとユキは恋人になった。








「ちょっと、出掛けてくるね。『先生』に、呼ばれたからさ」
「うん」

常世でのオレの仕事は、『先生』の管理する【ゴク前機関】の門番及び、不法侵入者の拘束。
閻魔の御前を通らずして浄土へ出ようとする悪質な死者を通せんぼする業務。
または、誤って地獄へ堕ちかけた迷子の魂を導く役目。

昔となんら変わらない。
敵は阻み、主に従い、自らの役目を全うするだけ。

以前捕まえた反逆者も含め、違反者は全て『先生』へと引き渡す。
その後あいつらがどうなったかなんて、知らないし知りたくもないけどね。


常世暮らしは思いの外充実している。
仕事して、ご飯食べて、恋人もいて。
一時、学校にも通った。オレと同じゴク前屋敷暮らしの腐れ縁や、商店街で顔を見る友人も出来た。















―以前の飼い主に、呼び戻されたりしないのかって?


大丈夫大丈夫、俺は犬神なんだから。









「ばうっ」




あの後、一家全員一人残らず噛み殺してやったに決まってるじゃんか。













ID.04000生存説
(所詮は全部、私利私欲の為の嘘っ八)






お題配布元:累卵




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