あけおメール
2015/01/01 02:30
『優馬、あけましておめでとう!新年だよ!』
元旦1月1日午前0時00分、兄からメールが来た。阿呆で能天気な文面は、此方をイラッとさせるものでしかない。
心底嫌そうな顔をして携帯をバクンと閉じる。今や殆どの人間がスマホとやらに乗り換え、数えるほどしかなくなった、昔「トウキョウ」で慢性していた所謂ガラケーというやつ。
使い古され流行から外れた世界の残骸は、境界を超えて此方の世界へ流れ込んでくる。
そんな携帯を懐に仕舞い一言舌打ちすると、すぐ隣からキョドったような声が飛んでくる。
「……あ、あの、優馬さん…それって、携帯なんです、よね…?なにか、あったんですか?」
【僕】。
ぼくではなく、しもべと読む。文字通り、僕の半強制的下僕であり、僕の嫌いな人間。
「決まってんだろ。あのチャラ男馬鹿が生意気にメールよこしてきたんだよ」
「はぁ……」
やっぱり。そう【僕】の声音が言っている。
人間の癖に、機械でもない癖に妙に敏いこいつは、僕の顔を見て一発で気が付いたんだろうが。だったら聞くなボケナス。今僕は機嫌が悪いんだよボケナス。
「そういえば、今日って元旦でしたっけ、あっちでは」
「まぁな」
「こっちはまだ、夏の始まりだってのになぁ」
そう。人間社会・東京の真裏。地球的な意味ではなく異次元的な意味合いの。
そんなこの「世界」・六部計は、東京とは一年の流れが反転している。
東京が1月ならば、六部計を含む此方の世界は7月。梅雨が明け、初夏に差し掛かろうという暑さ真っ盛りのこの時期。
そんな時期にあけおメールよこしやがって何を浮かれてんだあの馬鹿は。
「イラついてますね…」
「ロクでもない季節外れメールとお前のおかげでな」
「えェ!?俺も!?」
いきなり大声を上げて驚嘆した第二の馬鹿に一言「うるさい」と言って締め上げると、貧弱な人間馬鹿は瞬く間に気絶する。そのまま燃やして灰にしてもいいところなんだが、便利な椅子がいなくなるとそれはそれで不便なのでペッと下に落とした。
遠くでは、舞台上のコピー道化と観客席のマリオネットが舞台を超えた喜劇を演じている。
かつてここにいた人間。かつて彼女の隣にいた、恋人でも何でもなかった一端のドール。
連想ゲームのように記憶を手繰って手繰って手繰って、僕はあの子のことを思い出す。
「……あけましておめでとう、『 』」
もう、君が覚えていない筈のお人形が、季節外れのおめでとうを呟いた。
記憶の底、暗闇の奥
(きっと一生忘れられない)お題配布元:
累卵様