『いっ、つ〜…っ』
「バカ、動くな。もう少し大人しくしてろって」
『そんな事言われて、も…っ、痛い痛いっ。明王、痛いっ』
「…よし、できたぞ」
できた、と擦り傷のできた私の頬に絆創膏を貼る明王。
顔の他にも膝やスネ、腕なんかにも(知らない間に)できていた無数の擦り傷があったらしく、それも明王に手当てしてもらった。
ありがとう。と言えば、明王はああ、とだけ短く返事をしながら私の傷の手当てに使った消毒液やら絆創膏やらを救急箱に戻す作業をしていた。因みに、救急箱は保健室から持ってきたらしい。
それにしても…
『うひゃー…すっごいね、傷。こんなにあったんだ』
絆創膏と包帯だらけの自分の身体を見つめ、よくもまぁ、ここまで傷を作りまくったなぁ。と思わず苦笑い。
でも、うん、これぐらいの傷はできてもしょうがない。
試合近いし、ここ最近はずっと練習頑張ってるもんなー私。
「あったんだ、ってお前…自分で自分の身体の傷に気づいてなかったのかよ」
『だってさ、そんな事考えてる余裕なんてなかったんだもん。私が強くならなきゃ、みんなもちゃんとついて来てくれないでしょ』
「だからってさすがにやり過ぎだろ。その“みんな”も心配してんだぞ、お前の傷が日に日に増えてくもんだから」
『え、ホント?そっか〜…でも、もう大丈夫。明王が手当てしてくれたし!』
「そういう問題かよ」
私の所属する女子バスケ部は只今、本選への切符を賭けた地区予選の真っ最中。
数日前の一回戦は何とか勝てた。そして、二回戦は明日。
一回戦での試合で、私は他校チームとの実力の差と自分の力不足を痛感した。
みんなをまとめて引っ張っていくのが私、キャプテンの役目。なのに、私はキャプテンとして何もできなかった。相手チームのプレーにずっと圧倒されっぱなしで、私達はただそれを追って走るだけ。一回戦を勝ちに導けたのは、みんなのフォローがあったからだ。
みんなは私が諦めないで頑張ったからだって言ってくれたけど、私は嬉しいと思った反面、すごく後悔した。
だから、強くなりたいと思った。人一倍練習すれば、人一倍諦めが悪ければ、人一倍必死になれば必ずパワーアップに繋がる。
まさか、それが傷も気にならなくなるくらい神経が全部そっちに向いていた、なんて。
明王に傷の手当てしてやる。とか言われるまで本当に全然気づかなった。
執念ってこわいね。
『さて、手当ても済んだ事だし…もういっちょ行ってきますかっ』
「あ、待て名前」
『んー?』
立ち上がろうとした私に、明王が待ったをかける。
それから、自身の制服のポケットから何か取り出し、それを私に向かって放り投げた。
反射的に動いた両手できっちりと受け止めると、そこに収まっていたのはご丁寧に可愛らしく真っ赤なリボン(女子力の高さが異常)で飾り付けされた、三角形の固体。
『わっ、おにぎりだ〜。ね、これ明王お手製?』
「ああ、練習前にせめてそれだけでも食ってけよ。お前の事だから、どーせ朝もろくに食ってきてねぇんだろ」
『え、なんでわかったの!すごい明王ってもしかしてエスパー!?』
「んなワケあるか。お前のパターンは全部お見通しだっつーの。何年お前と一緒にいると思ってんだ」
『………』
何年お前と一緒にいると思ってんだ、か…
私もなかなか言えないような可愛い事、ぽろっと簡単に言ってくれるんだから。この子は。
ああ、明王ってホントに。
『明王』
「あ?なんだよ」
『可愛い』
「は…か、かわ、いい…?」
ぼぼっ、と顔がみるみるうちに赤く染まっていく。
それで何言ってんだよ、お前とか、可愛いなんて言われてもオレ男だからなっ、とか。口調は明らかに不満げなのに思いっきり動揺してしどろもどろに返してくるものだから、ますますそんな明王を可愛いと思ってしまう。
『ふふ、男の子だってね、可愛いもんは可愛いんだよー。私、明王見てるといつもぎゅーってしたくなるもん』
「うわっ、おい名前…!」
『うんー?』
私のより少し広い肩に腕を回して、隣からがばりと抱きつく。
突然の事に驚き半分、戸惑い半分の明王は相変わらず真っ赤になったまま、何とも言えない(可愛らしい)表情で私の抱擁を受けてくれている。
今のこれが特別抱きつこう、なんて意識してとった行動じゃなかったから正直、自分でもちょっと驚いた。
んー、無意識で抱きつくとは…我ながら大胆だなぁ。私ってば。
「ほら、練習!練習行くんだろ!早く行けよ、明日試合だぞっ」
『あれ?なんかさっきは、やり過ぎだ的な事言ってなかったっけ?』
「っ、言ってねーよ。いいからいつまでも抱きついてねぇで行ってこい!バカ名前」
『ひっどいなー。バカはないでしょ。バカはバカでも、せめてバスケバカって言ってよ』
「…それは認めてんのか」
『うん。でも、そう言われるの割と嫌いじゃないよ。だって私、バスケ本当に大好きだから』
それはそれで嬉しいんだ。
私がそう言うと明王はあっそ。とだけ短く答えて、黙る。
何だか素っ気ない口調だった。
『明王ー?』
「……」
ありゃりゃ、応答なし。
急にどうしんだろう。
気になって(勿論、抱きついたまま)、明王の顔を覗き込んでみる。
それによってまた頬を赤らめたけれど、表情は明らかに口を尖らせてむすっ。不機嫌そのものだ。……って、なんで?
『ね、明王ってば。どーしたの?なんか喋ってよー』
「……名前、」
『ん?』
「バスケ大好き、って夢中になってんのもいいけどよ…たまには、常にお前の心配ばっかしてるオレの気持ちも考えろ」
『……え?』
…何、今の。
え、ホントに何、今の明王っ。なんかすっごい可愛かったんですけど!
ヤバい。めちゃくちゃお嫁さんにしたい。(あ、正確にはお婿さんにしたい、か)
『へぇ〜。つまり、バスケよりもオレに夢中になれ!好きだ!って事?』
「なっ…好きだとまでは言ってねぇよ!」
『じゃあ、夢中になれ!の方は合ってるんだねっ。やだ、明王くんったら大胆☆』
「っ、あーもう知らねー!知らねー!」
『ホント、明王ってば可愛いんだから〜』
私に言われて、自分の発言の意味に今更気づいた様子の明王の顔は既に茹で上がったタコ状態。耳まで赤くなってる辺り、本当にそこまで深く考えてなかったんだろう。
ちょっと悔しいかも。
そんな些細な嫉妬心を抱いてしまったから、ついつい意地悪くなった。明王には悪いと思うけど。
『明王、むくれないでよっ。ほら、スマイルスマイル!』
「できるか、バカ!」
『むー、しょーがないなぁ…じゃ、明王』
ちゅっ。
照れつつふてくされてる明王の横顔に軽いキスを一つ。
あ、やっとこっち向いてくれた。
『今度こそ練習行ってくるね。おにぎりと可愛い顔、ごちそうさまー』
「っ〜…」
本来ならきりりとしてるはずの鋭い瞳が、くりんと真ん丸に。ほとんど原型を留めていない。
顔を伏せて必死に恥ずかしさを堪えている明王を堪能しながら、私は彼お手製のおにぎりを片手に立ち上がって背を向ける。
「………練習頑張れよ。帰り、教室で待ってるから」
その場を離れようと歩き出してからすぐに、明王が絞り出した声。勿論、私はそれを聞き逃さなかった。
私のお嫁さん、もといお婿さん候補はホントに可愛くって仕方ない。
可愛くって仕方ない!
(候補、じゃ終わらせない。いつか現実にしてみせるんだから)
― ― ― ―
相互リンクをさせて頂いている『Iris』様、南瓜さんへの10000hitお祝い文として書かせて頂いたお話でした。
一応私からお祝い文書きます!って大見得切ったんですが…何とも言えない、このぐだぐだ感(汗)
嫁ポジ不動さん、という素敵過ぎる設定のリクエストまで頂いていたのに見事に沿えてない気がバリバリしてます。
不動さんの可愛さをまだまだ最大限に引き出せてないですから…っ!残念!←ギ○ー侍風
その他の設定ですが、とりあえず夢主ね(笑)
もう感づいている方もいらっしゃるかと思いますが、某熱血キャプテンの女の子&バスケ部バージョンです。サッカー大好きの純粋なサッカーバカならぬ、バスケ大好きの純粋なバスケバカ!←
何故かと言うと、そういう性格の方が扱いやすかったからですね。サバサバ、元気がある、不動さんに心配かける、の3拍子があまりにも揃っていたもので。
あと、学校でバスケ流行ってるんd(知らん
ではでは、最後までありがとうございました!
こちらのお話は南瓜さんのみお持ち帰りフリーです。
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