「ね、択人!明後日は夏祭りだね!」

「……あぁ、その日は部活で天馬と剣城の三人で必殺技をするんだ」

「じ、じゃあ今からどこか食べに行かない?」

「明日も部活が忙しいから止めておくよ」

「……う、うん。ごめん」


そう断られて約30回。そろそろ泣いても許されるよね。

私の恋人は元サッカー部キャプテン。怪我のせいでキャプテンを辞めたけど完治してからは司令塔として頑張っている。

そこまではいいんだけど。

前までは一緒にどこかへ出かけたり寄り道をしていたのに最近はサッカー部のことばかり。 さっき話していた夏祭りのことだって二、三週間前に誘っ た話だ。

その日のために、浴衣は揃えたし少しでも痩せるために努力していたのに。


「もう、どうにかしてよ!霧野!」

「と、言われてもなぁ」

アハハ、と笑うからバン、と目の前の机を叩くとかなり驚く目の前の霧野。

「拓人、私の事嫌いになっちゃったのかなぁ……」

だから、冷たい態度を取ってサッカーばかりしているんだ。

拓人がサッカーを楽しくやっている姿は好きだし、応援している。 私の約束より優先して欲しいっていう気持ちはあるけどで も何度もやられると傷付く。

「霧野、私どうしたらいいのかな……」

彼は優しいから私をフッていないのかも。だったら私から言った方がいいんじゃないかって思う。

「だったらさ、こんなのはどうだ?神童なら、引っ掛かるさ」

ニィッと自信ありげに笑う彼の話を私は聞いた。


それはもういい作戦で。

「もし成功したら神童は名字を嫌ってないってことさ。 大丈夫だ、神童はお前を嫌ってなんかないからさ」

な、と肩を叩く霧野の手に安心して、ありがとうと述べた。

拓人と付き合ったのも、幼なじみである霧野のお陰。

いつかお礼をしたいな、と頭の中で考えながら明日に備えた。



◇◆◇



「よし、今回の協力者を紹介するぞ」

「霧野さん、俺、人の恋路の為に使われるんすか」

「こんにちは!俺、頑張りますね!」

「……何で俺が」

「こんにちは!私、名字先輩を応援しますから!」


またカラフルな面子なこと。四人の温度差が激しいし。

次の日、午前中に部活があった私は普通に終わらし今は午後。

「よし、じゃあ改めて説明するぞ。先ず、名字が俺に出来るだけ話す。この時、神童に目を向けるなよ。 次に、狩屋と天馬で指示したら神童をこっちに誘導して欲 しい。方法は何でもいいし、空野の方へ連れていってもいい。 最後に、剣城は暴走しそうな神童のストッパー役だ。ある意味、一番苦戦するかもな」

ふぅ、と何度か切ったものの長々と話して疲れたのだろう。 一方、指示された中で一人不服そうな顔をしていた。

「つまり、神童さんがさんに嫉妬するようにし ろってことですよね? それって結局名前さんの恋を応援しろってことですよね」

はぁ、と冷めたような顔で狩屋は私を見た。どうしよう、と思っていると霧野が笑う。

「なぁ、名字。今度の放送部の奴って、地域のに出るんだろ?」

「う、うん」

それがどうした、と尋ねると霧野がよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにドヤ顔をした。

「狩屋。そのテレビにじゅんじゅんが出るらしいな」

ピク、と肩が揺れた。

「もし手伝ってくれたらその現場に連れていって貰えるかもなー……」

ゲスい。霧野がかなりゲスい。 狩屋はプルプルと身体を震わし、突然此方を振り向き、

「……やります」

唇を尖らして言った。可愛いな畜生。じゅんじゅんそんなに好きなんだ。



兎に角、メンバーは確認できたし早速実行。皆には先に帰って貰い、私は途中から入ってきたことにする。

「あ、霧野!」

「名字じゃんか!部活、終わったのか?」

霧野の演技力が半端じゃない。さっきまで一緒にいたのに今はこの反応だ。

「うん、今度テレビに出るからその練習」

楽しみにしていてね、と本心を口にするとあぁ、と明るく笑う。

「名前……!」

と、後ろから拓人の声が聞こえた。けれど私は無視し、霧野と話す。

「神童さん?行きましょうよ」

「そうですよ!水分補給をしないと倒れちゃいますよ」

実はこの作戦を実行するまでこの子達は拓人と私が付き 合っているなんて知らなかった。 つまり、拓人はその事情を知らない。だから迂闊にも私には近付けない。

だって接点が霧野しかないから。

「……作戦1は成功だな」

拓人の影が遠くなると霧野は小さく私に話しかけた。

「じゃあ、作戦2に……?」

「いや、最後のに行くぞ」

効果あったから、と霧野は笑うと私の手を握ってグラウンドへ向かった。



◇◆◇


最後に、というのは部活の終わりに私が夏祭りを霧野に誘 うということ。 霧野曰く拓人は大分キてるらしく、あと一発大きいのを食 らわせば大きく行動に出るそうだ。

でも、拓人がするイメージがない。あんまり気にしなさそうというか……


そんなことが頭の中で出ていると狩屋が拓人を連れているのを見た。 霧野と目を合わせると彼は一度首を縦に振ると口を開けた。

「名字、明後日夏祭りあるけどさ、久しぶりに一緒に行かないか?」

「夏祭り?私、拓人と約束したしなぁ……」

「でも、神童は部活に出るんだろ?俺、居残りしないから 行けるぞ?」

出来るだけ、大きな声で、拓人にハッキリと声が聞こえるように。 そして、私は霧野に言われた言葉を言うために息を吸っ た。

「そうだね。じゃあ、久しぶりに行こっか」

拓人がどんな反応をするのかは分からない。それでも、こうするしか他はない。 ニコ、と少し嘘が混じった悲しい笑顔を浮かべると突然待ってください、と狩屋が言い、剣城が倒れるのを見た。


瞬間、右手に痛みが走る。思わず顔をしかめた。


痛みの理由を見るとそこには拓人がいて、私をどこかへ連れていこうとした。


……怒ってる。

助けて、と涙目ながら霧野に助けを求めたけど彼は頑張れ、と口パクでしか答えなかった。


彼等には沢山手伝って貰ったんだ。最後くらい、頑張らなくちゃ。


「……名前」

私の名前を呼ぶと彼は歩くのを止めた。私はただ彼を見つめる。

「俺のこと、嫌いに……なったのか?」

「え……?」

何で、どうして。


寧ろ、嫌われているのは私じゃないの?

驚きで口を動かすことが出来ず、ただジッと彼を見つめていた。

「だから、霧野の誘いを断らなかったんだよな。 ……俺が名前の彼氏なのにな…!!」

ギリ、と捕まれている手に痛みが走る。爪が腕に突き刺さっているようだ。

「ち、違うよ「何が違うって言うんだ!」

言葉を遮られ、初めて見る言動に私は戸惑いを覚えた。 確かに彼氏の前で幼なじみとはいえ男子の誘いを受けるのはよくないかもしれない。

でも、私がこんな行動をしたのにも訳がある。

「だって拓人、最近サッカーばっかりで全然構ってくれないじゃん!」

言った。その言葉の中に、"寂しい"という想いも乗せて。

「寧ろ、私が嫌われたんじゃないかって思って霧野に頼んだの! 拓人に、嫉妬して欲しかったの!」

沢山の想いをぶつけると同時に、ボロボロと涙の粒が溢れる。

格好悪い。泣いているからって許される訳でもないのに。

止まれ、と願っても止まらない涙を流しながら私は拓人を見ると顔を押さえていた。

「……拓人?」

「……つまり、霧野と名前はグルで、名前はサッカーに嫉妬して、俺は霧野に嫉妬したという訳か?」

簡潔に纏められたこの作戦。でも、霧野に拓人は嫉妬したんだ。 それだけで心に安心が出来た。

止まらなかった涙もさよならと挨拶をし、疑問をつけた彼の台詞にコクりと頷いた。 すると顔がトマトみたいに真っ赤になって彼はうつ向いて しまった。

「えっとー…拓人?」

反応がない彼の肩を叩こうと近付くと突然がばっと引き寄せられた。

「………!」

急すぎて頭が働かない。そんな私を無視し、彼はこう言った。

「……明後日、行こうか」

と。でも部活があるんじゃ、と聞いた。私より サッカーじゃなかったっけ。

「夜、俺の家でしよう。夏祭りみたいに屋台は出せないが……一緒に花火を見よう」

そう言うと恥ずかしいな、と照れ臭そうに笑って肩に顔をすり寄せてきた。


恥ずかしいのは、こっちもだよ。

狩屋みたいに口を尖らして言ったら、笑われて、結局笑い合った。

こうして、無事に作戦は成功し、夏祭りにも行けたのです。


因みにその後は。


「……霧野、俺どうしたらいいんだ」

「ん?何がだ?」

「前、名前がサッカー部に来ただろ?あれ以来サッカーにハマったらしくって」

「……ま、神童ならいけるさ!(……結局サッカーに嫉妬か)」


ということがありました。






EnvyRush


(お互いに嫉妬し合って)

(最後には仲直り)


― ― ― ―

南瓜さんから一万打突破のお祝い文としてリクエストさせて頂いた神童さん夢です!
いつもながら南瓜さんの書かれるお話は本当に素敵で今回も嫉妬するイケメンな神童さんにきゅんきゅんしちゃいました〜。

霧野さんもさすがですよね。神童さんと夢主を応援して温かく見守る霧野さんほんと素晴らしい…天馬くん達も登場でかなりテンション上がりました!特に狩屋がかわいいかわいい。神童さんが夢主に嫉妬するというシチュエーションをお願いしたのですが、もう見事にどストライクで私はもうお腹一杯です。

私もいつかこんなイケメンな神童さんを書けたらいいな〜と密かに思っております。南瓜さん本当に素敵なお話をありがとうございました!それから、ごちそうさまです〜←




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