「もう消灯時間ですよー。みんな早く寝なさーい」


音無先生の可愛らしい声が宿舎内に響き渡る。

それを聞きつけ、今までガールズトーク(好きな子の話、とか…ちょっと口に出しては言えないような話題とか)に花を咲かせていたクラスメイトが慌てて布団の中に潜り込んだ。

ガールズトークに参加せず、一人携帯のディスプレイとにらめっこ中だった私も時間を確認する。


『(22時…)』


なるほど、もうこんな時間か。

とりあえず、携帯を閉じて持ったまま、布団に潜り込んだクラスメイトと同様に頭まですっぽり掛け布団を被った。
声の近さから察するに、そろそろこの部屋にも来る頃だろう。

さっきまでの盛り上がりがまるで嘘のように、部屋はしん、と静まり返る。こういう時ばかりはガールズトーク派も一人で携帯にらめっこ派も関係なく、団結力と瞬発力が半端ない。
クラス担任がこれを見たら、その団結力と瞬発力をもっと日常にも生かしてくれればな、なんて言い出しそうだ。


予想通り、段々と足音が近くなってきた。

そして、すーっと。部屋の襖の滑る音が。


「……おやすみなさい」


私達が全員ちゃんと布団に入っているのを確認したのか、頭の上から音無先生が小さく呟いた。

同時にぱちり、電気も消える。

再び襖の滑る音がして、足音が遠ざかっていく。音無先生は次の部屋へ向かったらしい。

音無先生が出て行った後、さっきのおやすみなさい。に対しての返事ができなかったので、心の中で先生に向けてそっと、おやすみなさい。と返しておいた。



その直接、タイミングを見計らったかのように、今度は私の手の中にあった携帯が震え出す。メールだ。

ディスプレイを見なくても誰からのものなのかわかる。

だって、ずっと待っていたんだから。


《そっちは見回り終わったか?今から例の場所に行く。お前も早く来いよ》


電話なワケでもないのに嬉しさのあまり思わず、うん、と声に出してしまう。

あー…なんかちょっとドキドキするな。こういうの。
初めてデートした時以来の緊張感かも。これ。


気がつけば、いつの間にか周りはすやすやと寝息を立て始めていて、メールに書かれた“例の場所”に行く為、私はこっそり布団から抜け出した。





『きょーすけっ、お待たせ』

「ああ、早かったな。見つからなかったか?」

『うん、大丈夫。音無先生が他の部屋に入ってくの見て出てきたから』


それに私、一番隅っこの方だし中まで入らなきゃバレないよ。と付け加えながら、ゆっくりと音を立てないように襖を閉める。

そうか、なら安心だな。と笑顔を見せるのは私の彼氏、京介。

あ、やばい。きゅんときた。笑顔が眩し過ぎて。


今、私と京介がいるのは宿舎内の一室。
宿舎の人曰わく、元は客室だったが、現在は物置として使っている部屋だそうだ。

物置、というだけあって布団やら座布団やら、とにかく色々な物が沢山置かれている。
昼間に聞いた時はもう少し汚そうなイメージがあったのだが、割と綺麗に掃除されているらしく、部屋の中自体は私達が寝る部屋と変わりないように思う。


『私、すっごくドキドキしちゃった』

「オレもだ。こんなの初めてだからな」

『えー、そうなんだー。京介の事だから小学生の頃にはもうこういうの経験済みかと思ってたのに』

「おい、どういう意味だよ。それ」

『だってさ、京介ってこう…大人な感じするし。あと…キス、とかも上手いし。あっち系もなんか、手慣れてるし…』

「……へー、お前…そんないやらしい目でオレを見てたのか」

『い、いやらしいって。別にそんなつもりで言ったんじゃ…って、きょ、京介っ!?』


京介に迫られ、丁度後ろにあったきちんと折り畳まれた状態の布団に押し倒される。

ぼすん。鈍くて柔らかい音がして、視界は反転。天井をバックに京介の端正な顔が映る。


『きょ、京介…くん?』

「オレのキス、上手いって言ったよな」


低い声で囁いて、顔を近づける。と、そのまま私の唇に自分の唇を重ねた。

最初は軽く触れるだけの短いキス。一度、唇を離して私の表情を伺うように顔を覗き込む京介。

京介とのキスは初めてじゃないけど、した後すぐにこんなにまじまじと顔を見られたのは初めてで。…何となく気恥ずかしい、というか、くすぐったい。

それから、また唇を重ねる。

2回目のキスはお互いを求め合うような深くて長い、恋人のキス。


『…あ、ふっ…ん、ぁ』

「ん、口…もっと、開けろ」


キスをしながら京介に言われ、多少の躊躇い(場所的な意味で)もあったが思い切って口を大きく開けてみる。
歯列をなぞっていた京介の舌が、待ってましたとばかりにその先へ侵入。舌同士が絡み合い、唾液が卑猥な音を立てる。
口腔内が京介の舌先の熱で犯されていく。


『ふぁっ…んぅ、きょ、すけ…っ』


京介との深いキスに酔いしれて、脳内まで理性を保つのが難しい程に甘く痺れる。

いや、私も京介も理性なんてもうとっくに崩壊してしまっているんだろう。
そうでなければ、いくら眠っているとはいえ、隣の部屋に同級生達がいるという状況下でこんな事はできない。
先生だって、おそらくまだ起きている。
見回りの時に私達の声を聞きつけてここにやってくるかもしれない。それとも、部屋にいないと大騒ぎになるか。

どちらにしても、見つかったら修学旅行でこんな事、って大目玉を食らう。確実に。


でも、そんなのどうでもいい。

先生に怒られても京介と一緒だから。それで周りに冷やかされたって京介が守ってくれるから。


頭がぼうっとして京介の事以外考えられなくなってきた頃、ようやく唇が離された。

どちらともつかない唾液が私達の間で銀色の糸を引く。
窓から差し込む月の光に反射してきらきらと光るそれと、肩で荒く息をする余裕のない京介の表情を綺麗だと思う今の私は、相当彼の熱に浮かされてしまっているようだ。


「………いいか?」

『……うん、いいよ…』


ぎゅっ、と私をきつく抱きしめて遠慮がちに京介が尋ねる。

何が。なんてそんな野暮な質問はしたりしない。


『気持ちよくっても頑張って声出さないようにするから、ね?』

「ね?って、お前……ま、それは安心しろ。ヤバそうな時はオレがこうやって、」


ちゅう。軽く唇に吸い付いて、数秒で離す。

え?と目を丸くする私に向かって、にっと口角を上げた京介が。


「お前の声、全部飲み込んでやるから」


…もー、本当にカッコいい!
こんなカッコいい彼氏、他には絶対いないって。


『京介』

「…なんだ?」

『遠慮なんかしないでいいから…っ』

「え、それって…」

『だから…いつもみたいに、いっぱいいっぱい…愛してね?』

「っ、お前…可愛過ぎ…」


前髪をかきあげられ、露わになった額にもう何度目かわからない京介の優しいキスが降ってくる。

正直、誘い文句言ってるみたいで恥ずかしかったけど、京介も笑ってくれてるし、私も本当にそう思ってるし…

そういうのもいいのかな。たまには。


「言われなくても…」

『ひゃ…っ』


薄い部屋着の上から私の胸の膨らみを透き通るような純白の手で包み込んで、ゆっくりと動かし始める。

壊れ物を扱うみたいなやんわりとしたその動きに、身体がぴくぴくと反応を示す。


『や、んっ…そんな、触り方しちゃ…』

「手加減なんかしねーから。……覚悟しとけよ?」



ああ、どうしよう。さっきのでなんか変なスイッチ入れちゃったっぽい。
この分だと京介の気が済むまで終わりそうにない。長くなるの確定。



…さて、明日もまだ野外活動とかあるんだけど、無事に保ってくれるかな。私の身体は。








ありったけの愛を
(あなたから私へ。私からも、あなたへ)


― ― ― ―

過去の拍手お礼文です。

修旅で剣城くんと密会するという管理人の全力妄想←
エロチックな剣城くんが書きたかったのと、これを書く前に丁度弟が修学旅行から帰ってきたばかりだったので話のネタとして使わせてもらいました!
はい、修学旅行中に何やってんだって話ですね(笑)
相変わらず残念な感じの微裏ですが、こんな駄文でもお楽しみ頂けましたら幸いです。





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