『はい』

「……なんだよ、それ」

『ラブレター』

「誰の」

『キミへの。えーと、2組の…』


何さんだったかなー。と封筒に書かれた名前を見て確認する前にさっと取り上げられる。

でもって、そのままビリッ。
中に入っていたであろう、甘酸っぱい想いの詰まった手紙の文面を一文字も読まずに。


『うわ、剣城くんったら読まずに破ったー。せっかくかっわいい子からのラブレターだったのに〜』

「…お前、オレにケンカ売ってんのか?」

『えー、ケンカなんてそんなの売らないよ。私が剣城くんに力でかなうはずないもん。たださ、貰ったラブレターを読みもしないで破り捨てるのはいかがなものかと』

「オレはその貰ったラブレターを読めって彼氏に渡すお前の方がいかがなものかと思うよ。てか、その呼び方やめろ」

『あのねー、剣城くん』


破り捨てられたラブレターを拾い集めながら、ぴっと人差し指を立てて彼の額を軽くつつく。
予想通り何も可愛らしい反応(いたっ、とかい…っ、とか)は返ってこなくて、代わりに、何してんだよ。と鋭く睨み返された。不機嫌丸出しでつり目がいつもの倍くらいつり上がってるからか、ちょっと恐い。


『私はね、剣城く…京介にもっとマトモになってもらいたいの』

「……はぁ?マトモ?」

『だからね、京介にはもっとこう…女の子の扱い方を学んでほしいっていうか…』

「ほぉ…つまりは、今のオレのお前に対する態度に何か大きな不満がある、と?」

『…うーん、私に対する態度に不満っていうよりも……


他の女の子に対する態度に不満…?』


はぁ?とまた訝しげに眉を寄せる京介。

ああ、やっぱり…何の話だ、ってカオしてる。気づいてなかったんだ。


『京介ってさ、モテるじゃない』

「モテる…?モテるのか、オレ」

『あー…(自覚なしですか…)ていうかね、モテてるの!すっごく!現に何回も女の子に告白されてきてるでしょ?今みたいに』

「ああ…確かにラブレターとかそういうのは多いかもな。だけど、あんなの告白のうちに入らないだろ」

『そういうのがダメなんだって』



私の幼なじみ兼彼氏の剣城京介。
彼はとにかくモテる。小学校時代も女の子達からきゃあきゃあ騒がれてたけど、中学に入ってからはもっとすごくなった。

毎日、下駄箱いっぱいのラブレターに、その都度呼び出される休み時間、放課後。
所属するサッカー部にまで押しかけられて、頼んでもいない差し入れやら声援やらを勝手に送られたりもする。(まぁ、サッカー部には他にもモテる先輩方が沢山いるし、差ほど目立たなくはなるんだけど)

本人は“自分がモテる”という自覚がないのか、それともただ単に周りに興味がないのか、全て軽く受け流してしまっているようだが。

勿論、彼女の立場としてそれは嬉しいし、願ったり叶ったりかもしれない。こんなにカッコいい彼氏持ちでも全くやきもきしなくて済むし。

でも、最近の京介はそういう子達に対しての態度が急変した。なんて言うんだろ…なんか、異様に冷たくなった?
いやね、前から冷たかったは冷たかったんだけど。
少なくとも、今みたいにラブレターをびりびりに破ったりはしなかった、はず。きゃあきゃあと騒げば睨んでうるせえ、なんて怒鳴りつけるし、サッカー部に来た時も思いっきり睨みつけて追い返してたし。

私から見てもそう思うように、周りから見ても変わったと思われているんだろう。

今じゃ、京介宛のラブレターの枚数も随分と減った。サッカー部に京介目当てで来る子達の数も。


『ねぇ、京介』

「……まだ続けるのか、この話」

『このままじゃ、誰も近寄らなくなってモテなくなっちゃうよ。うざったくっても前みたいに黙って受け流してれば、』

「お前さ、本当にオレにモテて欲しいのか?」

『え?』


ふわっ。突然、頬に冷たい何かが触れる。

それが体温の低い京介特有の冷たくて真っ白な彼の手だとわかった時には、私の唇と京介の唇が重なっていて。

キスされてるんだと理解した。

それもひんやりと冷たかったけれど、心地よくて、だんだんと唇から発生する微熱についつい酔いしれる。


『ん、…きょ、京介…?』

「オレは他のヤツなんてどうでもいい。モテるとかモテないとか、そんなのも気にしてない」

『…で、でも、だからってそんなあからさまに冷たくしなくても…』

「ダメなんだよ、前のまんまじゃ。周りの反応気にしていつもそばにいねーだろ、お前」

『……だって、まだみんなに京介が彼氏だなんて言ってないもん…京介モテるから言ったら女の子達怖いし…』

「…はぁ…だから、だよ。何か勘違いしてるみてーだが、オレが好きなのはお前なんだぞ。オレはお前の彼氏で、お前はオレの彼女。つまり、オレとお前は恋人同士。それはわかるだろ、名前」

『う、うん…?』

「お前は周りで騒いでる女子とは違う。オレはお前がいればいいんだ。周りになんて思われようと、お前にはずっとオレの隣に並んでいてほしいって、そう思ってる。お前は、名前は違うのか?」


手を添えたまま、間髪入れずに荒々しく言い切る京介に私は心底驚いた。

いつもはクールな京介がこんな風に自分の感情を吐き出す、なんて今まで見たことなかったから。

…ていうか、周りで女の子達が騒いでるって自覚あったって事に実は一番驚いているんだけれども。それは敢えて言わないでおこうと思う。(空気読むのって大事だよね、うん)


「少なくとも、オレはそうだ」

『……京介』

「……みっともないな。けどさ、不安になるんだよ。恋人同士でも」


目から発せられる鋭い光がふう、と和らぐ。
視線を外しながら照れくさそうに呟いた京介の顔がほんのり赤くなる。

わ、珍しい。京介の顔が赤くなってる。
あれかな、我に返ったら急に今までの自分の行動とか言動なんかが色々恥ずかしくなってきた、ってヤツ。


…不安、かぁ。京介も不安になるんだ。
私、京介程モテないから心配なんてしなくてもいいのに。

……それにね。


『京介』

「……何だよ、…っ!?」


ぎゅうっと京介の学ランにしがみついて、今度は自分から唇を京介の唇に重ね合わせる。
赤くなっていた顔がさらに赤みを増した。

お、茹でタコならぬ茹で京介の出来上がり〜。とか言ってみたり。


「い、今…何…」

『私、大好きだから。京介の事』

「なっ…」

『付き合うのとか始めてだし、京介が周りの子に嫌われて孤立しちゃったらヤダな、ってそればっかり思ってて…』

「名前…」

『ごめんね、京介。彼女としての自覚が全然足りてなかった。…でも、京介が大好き!って。その気持ちはちゃんと自覚してるから』

「っ…反則だろ、それ…」

『え…?』


顎を引き寄せられ、本日3度目のキスが唇に落とされる。

何分も経たないうちにこんな風に何度もキスをし合う私達は、さっきの(無神経ラブレター騒動で)ギスギスした雰囲気がウソだと思えるくらい、見事なバカップルだ。


だけど、そうなったって仕方ない。



「なぁ、名前」

『ん?』

「今度は教室で堂々とやってみるか、キス」

『は?ちょ、何言って…っ』

「…で、その後は名字名前はオレのだって公言してやる。そしたらお前ももう余計な気ぃ遣わなくて済むだろ?」

『〜っ…もー、京介ってばカッコ良すぎ』



だって、私達。こう見えても相思相愛なんだから。








すれ違いバカップル
(え、バカップル?それ、誉め言葉でしょ)


― ― ― ―

何だか意味のわからない話に仕上がってしまいました(笑)

剣城くんとlet'sバカップルしたかったんですが見事に撃沈…
彼女の設定が明らかにおかしい!
いや…しかしですね、彼女はもし剣城くんが嫌われて孤立したら…って考えちゃってたワケで。彼女なりに心配してたんです、剣城くんを。
それで、“女の子に対しての乱暴な態度”を改めさせる為にわざとラブレターを渡そうとしてしまう、と。

でも、実は剣城くんも彼女の為にわざと“その乱暴な態度”をとっていたんですね〜。あれです。嫉妬させたり、不安にさせないようにって。モテるという自覚はあるんだけど、敢えて自分ではとぼけてるクールさ!好きだなぁ〜←

付き合う前とすっかり変わってしまった剣城くんを心配する彼女と、彼女を想って変わった剣城くんのすれ違い。

とりあえず、そんな感じに捉えて頂ければ。

今度はもっとまとまりのある糖度高めに挑戦します!←





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