私と同じクラスでサッカー部キャプテンの神童はとにかくよくモテる。成績優秀で容姿端麗、何でもこなせてしまうような才能を持ち合わせてて言うことなし。おまけに家柄も良い。
そして、その幼なじみの霧野もそうだ。彼の場合は見た目と中身のギャップがモテる要因。外見は女子と見間違う程可愛らしいのに、実際は男らしくてたくましい。頼れる。その上優しい。…のだそうだ。以上、彼らに多大な好意を抱く女子の意見より。

それを聞く度にま、確かにわからなくもないけどねー。なんて言い続けているが、だからといって私はそれに混じって黄色い声を上げたりしない。

だってそれ……2人の表面的な部分だけ見てたらって話でしょ?

そりゃあ何も知らなかったら、神童だ霧野だと黄色い声できゃあきゃあ騒いでいられるんだろうけど。
何もかもわかってる。知り尽くしてる私からしたら思わず叫んでやりたくなる。

本当の神童と霧野はキミ達が思い描いてるようなご立派な人物じゃないんだよ、って。


「なーに辛気臭い顔してんだよ、名字」

『…ああ、倉間か』

「あ?何だよそれ。わざわざ声かけてやってんのに」

『べっつにー。辛気臭い顔なのはもともとなんで、心配はご無用でーす』

「へいへい、そーですかー」


いつものように教室内で響き渡る黄色い声に嫌気がさしてきた頃。

それが表情にも出てしまっていたらしく、前の席に座って漫画を読んでた(それ持ち込み禁止じゃなかったっけ?)倉間に指摘された。


「けどさ、お前ホントに元気ねーよな最近」

『………そ、そう?気のせいだよ。全然元気だもん』

「いや…なんか、らしくねーっていうか…」


倉間に言われ、若干ドキリとする。
冗談かとも思ったが、片方しか露出していない目の奥が揺らいでるし声もそういう感じじゃなくて至って真面目だったから悟った。あ、これ本気で心配してくれてるんだ。と。


らしくない、ね。

うん、そう言われればそうなのかも。


『ねぇ、倉間。倉間が思う私らしさって何?』

「は…?何だよ唐突に」

『んー、何となく。ちょっと言ってみてよ』

「えーと…お前ってさ、前はもっと楽しそうにしてたよな?必ず周りには誰かいたし、一人きりなのとか見たことなかったし」

『へぇ、つまり今は友達いない寂しい子に成り下がった、と?』

「そんなつもりじゃねぇけど…」


あんまり笑わなくなった気がするからよ。

付け加えて言われた言葉に、私の中の何かがもうそれ以上は危険だと知らせる。
倉間は私の変化に気づいてる。

そうだ。前の私は一人でいる事なんかほとんどなかった。友達と呼べる子もそんなにいっぱいじゃなかったけどいて、楽しかった。くだらないお喋り、好きな子の話題…今思うとそれは全て遠い昔の出来事のようで。ほんの1ヶ月前までの事なのに、だ。


自然に自己防衛機能が働いて、さっと首もとに手をあてがう。
見られたくないものが見透かされてしまいそうで怖かった。

もう、ダメ。倉間は何も知らないのだから。
いや、それ以前に彼は絶対知ってはいけない。


「名字」


ひどく聞き覚えのある声に体が強張る。

私の代わりに倉間がお、神童じゃん。なんてのん気な声で応えた。


「おい、名字。神童が呼んでんぞ」

「いや、倉間にも用があったんだ。突然で悪いんだが今日の放課後は部室でミーティングだと速水と浜野に伝えてきてくれないか?」

「結局ミーティングになったのか。ああ、わかった。行ってくる」


軽く頷いてから、漫画をしまって席を立つ倉間。

一度(様子がおかしいと感じたのか)私の方をちらりと見てきたものの、そのまま教室を出て行った。


それを見届けた数秒後、神童が私の腕を掴んだ。


「名字、ちょっといいか?」

『…ちょ、神童』


ほら、また神童ファンの女子に見られちゃってる。というか、すごい形相で睨まれちゃってる。怖い。

神童ファン、霧野ファンという女子の大多数を敵に回してる状態でどうやって友達とか話相手をつくれと?
無理な話である。


「霧野も待ってる」


表面はいつもと何ら変わりない。
皆、あの倉間もサッカー部員達も信頼して疑わない、頼れるキャプテンの神童のはずなのに。

声は思いっきり素の、ウラの彼のものだった。





『……』

「教室で倉間と仲良さげに話してたんだって?」

「ダメだろ、名前。せっかくオレ達が変な虫を寄せつけないようにしてやってるんだから」

『え、で、でも、倉間とはクラスメイトだから喋るのは当たり前だし…そもそも、私そんな事してほしいなんて頼んでないかと…』


壁際に追いつめられ、とん、と両サイドから神童と霧野の腕が逃げ場を塞ぐ。

半ば強引に誰も使っていない視聴覚室なんかに連れてこられたかと思えば、いきなり倉間との事を問い詰められてこの始末。
顔の整った、容姿端麗な2人にこんな風にされるんなら悪い気はしない。ワケもなくて、それはもうただただ恐怖。
いくら整ってる顔でも異常に近過ぎるし、口から出てくる言葉も相当危ないし。うん、恐怖。


「言い訳なんか聞かない」


いやいや、聞かないってあなた。ちゃんと聞いてください、人の話。


『だから、そんなんじゃないって……ん、…っ』


言い切る前に神童が乱暴に唇を重ねてきて遮る。
貪るように噛みつかれ、このまま食べられてしまうんじゃないか。と深いキスをされながらもどこか冷静に考えてる私がいた。

敢えて、抵抗はしない。したって無意味なのはわかりきってるから。相手はサッカー部の部員で、しかも男。女の私が力任せにじたばたしてみたところで簡単にねじ伏せられてしまう。
それに、もう大分慣れた。


『んっ、ふぁ…』

「…名前はオレ達の、だったろ?」

『んふっ…あ、いっ、』


神童に唇を持っていかれている最中、霧野がリボンをするりと解き器用な手つきでブラウスのボタンを外していく。
ばっと広げられ、今度は霧野に首もとを噛まれた。

チクリ。緩やかな痛みがじんと全身に広がる。


『や…また、痕っ…』

「結構残ってるもんだよな、キスの痕って」

「ああ、だから誰も名前を独占なんてできない。オレ達だけが独占できればいいんだ。一番名前を想ってる、オレと霧野だけが」

「ん、ここにもつけとかないとな…」

『ひゃ…っ』


ちゅ、とわざとらしくリップ音を立ててキャミソールの上から胸の膨らみに近い個所にキスを落とす霧野。
何度か経験してきたとはいえ、これだけはなかなか慣れない。正直、未だに恥ずかしい。
キャミソールのおかげでブラが露わにならなかったのがせめてもの救いだったが、それもそろそろ役に立たなくなるのだろう。


「名前、好きだ」

「オレも、好きだ」


2人の異性に好きだ。と言われて唇を重ねられる。
この関係は恋人なのか、はたまた二股なのか。


彼らのオモテは周りも知っての通り、立派だ。私も認められる。
けれど、周りが知らない彼らの本当の姿。ウラは好きだから、離したくないから、そう言って我慢できなくなってこんな風に心と身体全部で私を求める依存者なのだ。



「…名前は?」

「オレ達の事…好き?」


『……好き、だよ…神童も霧野も、好き』


安堵の笑みを浮かべる神童と霧野。
霧野に深く口づけられ、神童は私の背中に手を回してくしゃくしゃのブラウス越しに指を這わせる。



異様な熱気を帯びた視聴覚室内で、ぷつん。ブラのホックの外れる音がした。








オモテとウラ
(そして、私も依存していく)


― ― ― ―

微裏ってこんな感じでいいですかね…?
この先は皆さんのご想像にお任せ致します!←軽く責任放棄(笑)

倉間くんはただ出したかっただけ。





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