※途中ちょっとだけやらしい。





「おりゃっ、」

「はっ、」

「くっ……あ、」



すかっ。
思い切り振りかぶった井吹くんの板をすり抜けて、羽根が地面に落ちる。ぽて、と鈍いような軽いような音を立てて落ちたそれを彼の近くにいた私が拾い上げた。



「ありゃりゃ、また井吹の負けかー」

「なぁ、何回目だっけ?これ」

「3回目くらいじゃない?ていうか、井吹弱すぎ」

「ど、ドンマイだぞ、井吹!また次がある!」


上からキャプテン、瞬木くん、さくらちゃん、鉄角くんのコメントである。
キャプテンは苦笑い、瞬木くんとさくらちゃんはすっかり呆れ果て、鉄角くんに至っては懸命にフォローに回っている。
鉄角くんの言葉を受けて、瞬木くんがうわ、次って…まだやらせんのかよ。なんてうんざりした表情で肩をすくめた。

羽根を拾った私も何か言わなければと歩み寄ってはみたものの。井吹くんがあんまり悔しそうにしているものだから、何だか声が掛けづらい。プライドの高い彼の事だ、下手に軽々しく頑張れ!やドンマイだよ!と言わない方がいいんだろう。何かしら声をかけてあげたいんだけどね。

仕方なしに井吹くんではなく、その場にいたもう一人の人物にお疲れ様、と一言添えて羽根を渡す。
でも、一応心の中で井吹くんファイト!とこっそりエールは送っておいた。


「くそっ…!」

「またオレの勝ちだな」

「神童、お前…羽根突きが初めてとか本当はウソだろ…」

「いや、ウソじゃない。本当に今日が初めてだ。だが…」


わりと楽しいな、羽根突き。
羽子板を手に至極爽やかな笑顔でそう述べた対戦相手の神童くん。そのまま、空振り三振でへたり込んでしまった井吹くんの目の前に近づくと、キャプテンが持参してきたらしい墨をたっぷり吸った筆を持って慣れた手つきで顔にバツ印を書き込む。さらさらー、と。

いや…多分、神童くんが言う楽しいって……絶対羽根突きに対する楽しいじゃないな。うん。


「よしっ、それじゃ少し休憩するか」

「っ、まだだ!」


書き終えて満足気にふう、と息をついた神童くんが告げる。しかし、納得がいかない様子の井吹くんは尚も果敢に噛みついて食い下がった。そんな井吹くんに、先程からやや不服そうにしていたさくらちゃんと瞬木くんが不満の声を漏らす。


「えー、まだやるのー?もういいんじゃない?」

「井吹さーもうやめとけって。いい加減にしないと、そのうち真っ黒になってせっかくの端麗なお顔が目もあてられないようになっちまうぞ」

「ちょ、瞬木…っ!」

「うん、お前はちょっと黙ろうな」


「とにかく、」


呆れ顔で面倒くさいと言わんばかりに毒を吐く瞬木くんをキャプテンが制し、鉄角くんが強制的にここから少し離れたベンチまで連行する中。神童くんがぐるぐると(なんか大型犬みたい)うなって睨みつける井吹くんに視線を落として。


「お前も大分疲れてるだろう。いいからちゃんと休んでおけ」


ふ、と笑みを浮かべて今度は私に向けられた視線。ばち、絡み合って暫く見つめられる。え、なんだろう…

不思議に思って神童くんの次の動きを待っていると何故かタオルを手渡され、名字、頼むな。と。すれ違い際に耳もとで低く囁かれた。
耳に息がかかってくすぐったい。それに反応してしまってびくり、肩を揺らす。


「なっ…おいっ、神童ふざけんな!」

『あ、い、井吹くん井吹くんっ。大丈夫だから落ち着いて』


それを見た井吹くんが怒りからか、すくっと立ち上がって神童くんに向かってまた噛みつき始める。鉄角くんじゃないけれど、私も自分より一回りも二回りも大きい体を力一杯押して神童くんに突っかかろうとする彼を何とかその場に留めたのだった。

神童くんってば、多分あれ確信犯だ。からかうのを悪いとは言わないけど、井吹くん宥めるのすごく大変なんだからこういう厄介なのはホントやめて頂きたい。





「ったく、神童のヤツ…ちょっと羽根突きが強いからって調子に乗りやがって」

『ねー、とても初めてだなんて思えなかったよ』


素直に感想を述べると、タオルでがしがし顔を拭いていた井吹くんにものすごく睨まれた。ぎろり、って。
わ、ちょっとそれ恐いよ、そんな睨まないでよ井吹くん。


神童くん達のいる所とは別の場所で休憩をとる事にした私と井吹くんは、蒼い海がよく見える港に一番近いベンチに並んで腰掛けた。
顔を上げた彼の肌にもう黒は残っていない。代わりに黒く汚れた元は真っ白だったタオルを受け取る。首に下ろしていたヘアバンドを額に戻しながら、大体なぁ、と声に怒りの感情を込めて言葉を続けた。


「お前さ、もう少し自覚とか警戒心とか持てよ」

『え…』


自覚とか…警戒、心……?

腕を組み、眉をしかめる井吹くんを横目に私は首を捻る。全く意味がわからない。というか、言いたい事が見えてこないんですが。自覚?警戒心?何に対しての?


「……さっきのだよ、」

『さっき?』


数秒程、うーん…と考え込む。が、やっぱり思い当たる節はなくて。なんだったっけ?と苦笑交じりに付け加えると顔を伏せて盛大にため息を吐かれた。
ついでに、鈍感無警戒無自覚女というあまりよろしくない名称も頂きました。なんだそれ、さすがに色々ひどいな。


『だからさ、井吹くんは結局のところ何が言いたいの?』

「…わざわざ言わないとわかんねーの?」

『え、いや…わかんないから聞いてるんですけど…』


だって、本当にわからない。なんでそんなに不機嫌そうにしてるのかも、鈍感無警戒無自覚女って呼ばれる意味も。
まぁ、百歩譲って鈍感は認めよう。確かに察する能力は低い。言ってもらわなきゃ相手が何を言いたいのかも皆目見当がつかないのだから。


『ちゃんと言ってよ。私、鈍感だから言ってくれなきゃわかんな、んう……っ』


伏せられた顔を覗き込もうとぐっ、と近づく。すると、突然伸びてきた彼の長い手に顎を引かれ、唇を塞がれた。しかもただぴったりくっつけるだけの可愛いキスじゃなくて、無理やり舌を捻じ入れてきたのだ。

驚いて、彼のそれから逃れようと必死に身じろぐ。が、もう一つの空いていた方の腕で頭を押さえつけられてさらに深くなる。激しい、苦しい、息が続かない。生理的な涙も滲んできた。

熱と、息と、私の涙とがぐちゃぐちゃに混ざり合ってもう。冷静な思考なんてどこかへぶっ飛んでしまった。どうしよう、何も考えられない。

口内への侵入だけは、と頑なに閉じていた歯列を熱い舌がいやらしくなぞる。時折漏れる井吹くんの熱を帯びた熱い息と欲情した色っぽい視線が私の胸の奥の理性を甘く掻き乱す。

…やばい。だめ。その先はさすがにここではまずいって。

いよいよ最終防衛だった(豊満ではない)胸の膨らみに手をかけてくる。やんわりとそれに触れた後、ジャージとTシャツをに捲り上げて下から手を滑らせる。


「……オレ、じゃなくて…神童の方が……」


そこで動きが止まった。やっとまともに息ができる。潮風の混じった新しい空気を一気に吸い込んで、はあ、肩で息をしながら呼吸を整える。

離された彼の湿った唇が発した第一声には神童、という名前が出てきた。

神童……?え、ちょっと待って。今なんで神童くんが出てくるかな。


『神童くん、が……一体、どうしたって…?』


途切れ途切れに尋ねると、私が神童くん、その名前を口に出した瞬間また不機嫌そうな表情に早変わり。いやいやいや、今あなたが先に言ったんですよ。神童、って。


「お前、神童が好きなのかよ」

『は…?』


なんでそうなるの。
言われて一等先に思ったのがこれだった。私が神童くんが好きとかどこからどう見てそんな事を言ってるんだろうか。というか、そもそも私達恋人じゃないか。神童くんが好きなら君とは付き合っていないのだよ。わかるだろう。それくらい。


『あー……あれ、私ってさ、井吹くんと付き合ってるんじゃなかったっけ?』

「……オレはそのつもりだ」

『じゃあ、おかしくない?私が神童くん好きだったら井吹くんとは何?キスとか、今みたいなのは井吹くんじゃなきゃ受け入れたりしてないよ』

「名字…」

『まぁ……たまに神童くんの方が優しそうだなぁ、って思っちゃったりする時もちょっとだけあるんだけど、』

「っ、神童神童言うんじゃねーよ!優しくされたいなら最初っから言えよ、いくらでも甘やかして優しくしてやるからっ」

『い、井吹くん…?』


本当に今日の井吹くんは何かおかしい。
いきなり外でこんな事してくるし、なんかずっと怒ってるし、大体神童神童言ってるのは私じゃなくて井吹くんの方だし、挙句の果てに私が神童くんを好き………………あれ?


『あの、井吹くん』

「なんだよ…」

『もしかして……それって嫉妬?』


まさか、とは思いつつ興味本位に聞いてみる。
私が神童くんに羽根を渡してお疲れ様、と声をかけている辺りから彼は見ている。それに加えて神童くんの、あのちょっとした悪戯。あ、あとは神童くんすごいみたいな事も言ったんだっけ。

それら全てが私にとっては何気ない行動や行為で、特にこれといって何とも思っていなかったのだが。


「〜っ…ああ、そうだよ、嫉妬だ嫉妬!!お前が神童にばっかお疲れ様、とか言うし、あんな事されても平気な顔してるし……」


やっぱりそうだった。納得。納得はしたけど、でも、それって…そんなに嫉妬するようなレベルかな。ちょっと大袈裟じゃ……

思ったのと似たような事を言えば、井吹くんは首を横に振った。


「そりゃ、不安にもなんだろ……オレより仲良さそうに話したり、普通に楽しそうに声掛け合ったり。特に神童は…あいつは、何もかもオレとは違う。だから、」

『なーんだ、そんな事で不安がってたんだ?』

「そんな事ってな…!」


オレにとっちゃ大問題なんだからなっ。なんてきっ、と睨みつけて力説する井吹くん。耳まで真っ赤にしながら睨みつけられても全然恐くないんだけどねー。寧ろかわいい。そんな事を言ったらものすごく怒るだろうから井吹くんには絶対に言えないけど。


『ね、井吹くん井吹くん』


好きだよ。大好き。
そう言って自分から唇をくっつける。口はさすがに恥ずかしいからりんごみたいに真っ赤になったほっぺに。あ、すごい冷たい。


「オレは……愛してるんだけど、」

『中学生が愛してるとかませ過ぎだよ。大好きで十分』

「いつかぜってー言わせてやる」

『はいはい、いつかねー』


茶化すなよ。と気恥しそうに目を細めて顔を近づけてくる。またお互いの唇同士が重なりかけた時、遠くの方から神童くんと松風くんのハスキーな声と子犬の鳴き声みたいな可愛らしい声が響く。
井吹ー、名字ー羽根突き再開するぞー。に、2人ともー早くおいでよー。だって。


「………」

『残念、2回目のキスはお預けだねー』

「…してからじゃダメか?」

『ダメだよ、呼んでるんだから早く行かなくちゃ』

「はあ……仕方ねーか…」

『じゃあさ、神童くんに羽根突き勝とう!勝ったら私が井吹くんにしてあげる』

「今度はちゃんと口にしろよ?」

『君の頑張り次第かな』

「絶対負けねぇ」








羽根突きと嫉妬と甘い欲

(神童、いつでも来いっ)
(やる気満々だな。それじゃ、遠慮なく行かせてもらうぞ)


(あらら、また負けてる。本当に羽根突き下手だなー)


− − − −

井吹くんに羽根突きしてもらいましたー。基本的に井吹くんは神童さんに負けてる感じが理想的←

あれ、なんでこれちょっとエロいの入ってるんだろ(笑)とりあえず嫉妬させたくて色々考えて書いてたらなんかちょっと入っちゃったんですよね……しかも、舌入れてるよ舌。相変わらず上手く表現できないです。でも、微裏まではいかないような感じなので表記もあえてノーマルに。

ジャパンメンバー少し出てきましたが、みんなで羽根突きしたいねー。楽しそう。

負けて悔しがってたり嫉妬してむすっとしてる井吹くんと毒を吐く瞬木くんがほんと好きです。





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