『宗正、書いた〜?』
「ああ、一応書いたけど…」
『へぇー早いね』
テーブルに向かい合う形で短冊という細長い紙と数十分にらめっこしていた私と宗正。
宗正がペンを走らせたのを確認し、尋ねる。もう決まったのか、と感心する反面そういや言い出しっぺだったな、こいつ。と再び短冊とにらめっこを始める。
書きたい願い事はたくさんあった。でも、短冊は目の前の一枚のみ。つまり必然的に書ける願い事も一つという事になる。
私は好きなだけ書いて吊せばいい、と提案したのだが古風なのかただの純粋バカなのか宗正が短冊に書く願いは一つだけだと昔から決まってるだの欲張りだの言うものだから、結局一枚。無数にある願い事の中から一つを絞り込まなくてはならなくなったのである。
笹の葉に吊す短冊なんて私と宗正のしかないっていうのにぽつんと2つだけの願いを吊したところで果たしてそんな寂しい笹の葉の願い事を叶えてもらえるのだろうか。ほんと、宗正は面倒くさい。中学に上がって、月山国光中に通い始めてからは特にそう思う。(因みに宗正から聞く限り、月山国光中には宗正以上にめんどくさいのがいるらしい)
まだ一つに決められず何も書かれていない短冊と睨み合いを続けながら、ペンをくるくると回す。
あー…何書けばいいのかわかんない!ていうか、一つに決めるなんて絶対ムリだから!
…もうこの際、短冊の裏表使って全部書き込んでやろっかな。
小さく唸り声を上げ始めた頃、ふと、余裕綽々で早速短冊を笹の葉に吊しに行く宗正の姿を横目で捉えた。
全く…自分はさっさと願い事書いてあーとかうーとか唸ってる私の前で余裕かましてくれちゃってさ……
それにしてもよくもまぁ、たった一つしか決められない願い事を数分も立たないうちに決められたものだと。悩む素振りなんて一切見せなかったぞ、宗正のヤツ。
私と違って宗正には叶えてほしいという願いが幾多もないのだろうか?
『ねぇねぇ、宗正は願い事なんて書いたの?』
少し願い事の内容が気になった私は、短冊を吊し終えてこちらに戻ってきた宗正に尋ねてみる。
しかし、宗正は答えてはくれずそれどころか意地の悪い笑みを浮かべて。
「そう言うお前はなんて書いたんだ?」
『え、私?…えーと…まだ書いてな〜い』
「まだか…じゃあ、教えねー」
……何それ、すっごいムカつくんですけど。
聞いた私がバカだったと呆れてもういい、なんて強い口調で言う。すると、宗正は私の隣に腰を下ろして頬杖をつき、ぐっと顔を寄せてまだ空白のままの短冊を覗き見た。
「ほんとに何も書いてないんだな」
『っ、仕方ないじゃない。そんなすぐに決まらないのよ。女の子には悩み事とかやりたい事とかたっくさんあるんですからねー』
「女の子?あー、そうか。お前女だったんだっけ、一応」
くすくすと、さも愉しげに失礼過ぎる発言をする宗正にごちんと鉄拳(勿論、手加減なしで)を多少クセのある跳ねた柔らかな白髪に食らわせる。
いてっ。そう漏らして頭を片手で軽く押さえていたがそんなのは絶対にウソだ。私の鉄拳ごときで痛がるような柔なヤツじゃないのは私が一番よくわかってる。悔しいけれど。
『何よ。どーせアンタはバスケで世界一になりたい!とかそんなとこでしょーが。あーあ、ほっんと宗正ってわかりやすいっていうか単細胞っていうか、』
「お、よくわかったな〜。でも、残念。書いたのはそれじゃない」
『え、違うの?ウソ〜宗正に限って…』
「おいおい、お前はオレにどんな印象持ってんだよ」
『バスケバカ』
「あー…うん、そうだな。確かにしょっちゅうバスケバスケ言ってるバスケバカだよなオレは、うん。ま、とりあえずバスケで世界一は自力でやるからそっちはいいんだよ。それよりも…」
オレにはもっと、真剣に。確実に叶えたい事がある。
不意に耳元でいつもより低く、囁かれるように言われてびくり。肩が跳ねる。
隣からまたくすりと小さく吹き出すのが聞こえてきて、心底驚いたのとまたからかわれたと思ったのの怒りで宗正ああっ!と。大声で私はぱっと、視線と顔を真横にいる宗正へと向けた。
「名前、お前無防備過ぎ」
『え?』
近い。近過ぎる。ちょっとでも動けば宗正の鼻と私の鼻同士がこつんとぶつかりそうで、下手をしたら唇まで一緒に触れてしまいそうだ。…って、一体何を考えてるんだ私は!バカ!
隣に座られたり軽いスキンシップくらいならいつもしてるから慣れている。だが、これはいくらなんでも近いし…何より、中学生の、しかも男のくせに(私なんかよりも)色っぽく熱い息を吐き出すものだから、どうしても意識してしまう。
『ちょ、宗正…近いって。離れてよ、暑苦しい』
「……なぁ、もしオレがこのままもう少し近づいたらさ……」
『近づいたら……何よ』
「いや…キス、できそうだなー…って」
『な…っ!?ちょっと、バカ!変態!何考えてんのよ、離れろー!』
「名前、」
何これ。何この雰囲気。なんか…もしかしなくても……危ない?
『あのー、宗正くーん…あ、ほら!私早く短冊のお願い事を書かないと…』
「なんだよ。まだ決まんねーのか?じゃあ、オレが適当に書いといてやるから短冊貸せよ」
『え、は……?あ、ちょっと!なんでアンタが勝手に私の願い事書くのよ!ああっ、こらっ!宗正あああーっ!!』
急にいつもの空気に戻って若干拍子抜けしてしまったが、テーブルの上にあった私の短冊を奪って勝手にペンを走らせ始めた宗正を見てはっと我に返る。
短冊を奪還するべく、(ここが自室で一戸建ての二階だという事実も忘れて)立ち上がって逃げる宗正を追いかけた。
不覚にも高鳴った胸、火照った顔の熱をわざと隠してしまうようにして。
かくして始まった私達の子供じみたドタバタ追いかけっこは、恐い顔をしたお母さんが静かにしなさい!と部屋の中へ乗り込んで来るまで繰り広げられたのだった。
【これから先もずっと一番大切なものを守り抜いていきたい 井吹宗正】
【
胸が大きく 宗正がバスケで世界一になれますように! 名字名前】
簡単には決められないんです!(とりあえずあのバスケバカは殴っておきました)
― ― ― ―
はい!というワケで、七夕(大遅刻)+初の二期世界編の新キャラ井吹くん夢でしたっ!
わーい、見事にグダグダだ〜(笑)←
一応七夕ネタでちょっぴり甘めを目指してみたんですがね。やっぱり私には甘いの書く才能はないのだろうか……うーん、難しい……
さてさて、それではこの辺りで毎回恒例の補足をさせて頂きたいと思います。
だから毎回ややこしい設定作りあげて書くなよ、って話ですよね!わかります←
夢主と井吹くんは一応幼なじみというか、とりあえず長い付き合いでいつも一緒な2人です。
それでいて多分、何となくお分かり頂けた(?)とは思いますが2人ともお互いに少しずつ意識してます。今の時点では井吹くんの方ははっきり自覚、夢主は気になっているのにまだ気づいていない=無自覚な感じですね。
それについては、最後の井吹くんと夢主のそれぞれの願い事を見て頂ければわかりやすいかと…
あ、因みに夢主の願い事の訂正されている胸が大きく、というのは夢主から短冊を奪った井吹くんが勝手に書いていたものだったり←
丁度七夕の時期で時期ネタを通して、まだまだこれからな2人を書きたかったので個人的には楽しく執筆できました!
あと、井吹くん書きたかったのでね!←もはや七夕など関係ない(笑)
こんなグダグダネタでしたが、最後までお付き合いありがとうございました!マジで感謝です!!
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