今日、席替えがあった。

一番前の教卓付近の席から窓際の中間辺りへ。
教卓付近と違って教師の目が届きにくい、その上日当たりも良好な私にとっては非常に丁度良い引っ越し先だった。

これで授業を聞き流し放題、とまではいかないかもしれないが少なくとも前の席よりか大分気は楽である。

私の最悪なくじ運(3回連続教卓付近の席)がここに来てようやく上向きになってきたようだ。

脱、教卓付近バンザイ!
私のくじ運にもバンザイ!


『ん…?』


周りが机と椅子を動かしてがたんがたんと騒がしく指定の番号の席へ移動する最中。
丁度私の近くにやってきた1人の男子が、急に椅子を乗せた机を床に置いた。
がたたんっ。周りとは違う鈍い音が静かに響く。

そうしてから既に数分経ったが、何故かその場にじっと佇んだまま。
時々起こす行動といえば、困ったように眉を下がり気味に寄せて辺りをキョロキョロと見回す。それだけだ。

一体何をやっているんだか…って、あれ…?


『……(円堂…?)』


オレンジのヘアバンド。そのヘアバンドからぴょこんと飛び出した髪の毛。

すぐに誰かわかった。
いつもグラウンドで元気よくボールを追いかけてる、うちのサッカー部の熱血キャプテンだ…と。


ふと、気になって今まで窓の外に向けていた視線をその男子に固定。

そのまま暫く様子を伺ってみる。

何やら、手持ちの紙切れ、もとい席の番号とにらめっこ中のようだ。
眉を八の字にしたり、つり上げたり、目を細めてみたり。
面白いくらい見事にころころと表情が変わる。
いや、実際見ていてかなり面白いのは事実なのだが。

お、今度はうーんって唸りだした。


『円堂、どうかしたの?』


(笑いを堪えるのに)たまらなくなって思わず、彼、円堂に声をかける。

かけられた本人は相当驚いたらしく、へあ?なんて、何とも間の抜けたような声を出すものだから余計に可笑しくなった。


「名字かぁ…」

『驚かせてごめんね。でも、なんか困ってるみたいだったから。放っておけなくて、つい』

「あ、いやっ!寧ろありがたいっていうか…困ってたのは確かだったからさ…」

『そっか。で、何を困ってたの?』

「……あ、あのさ、この28番ってどの辺かわかるか?」

『え、28番?…ああ、それならここだよ。私の隣』


席の番号を見せられた私は、自分の隣の机一つ分程空いているスペースを人差し指で示してやる。

すると、バツが悪そうな困った表情から一転。

円堂は、にかっ。そんな効果音がつきそうなくらい溢れんばかりの笑顔を浮かべて。


「名字の隣…あ、ここか!名字、マジでサンキューなっ!」


机を持ち上げながら、その笑顔のまま返した。


これは常日頃思っていた事だけれど、彼はいつどんな時でもきらきらと輝いている。
自分自身で絶えず光ってて、周りを常に明るく照らす。まさにそう、太陽みたいな子。

あまり話した事はない。
でも、クラスの中でそれがずっと目立ってたから、私は知ってる。

要するに、こうして間近で見るのは初めてな訳だが、結果、円堂は私の予想以上に眩しかった。

…眩し過ぎて、目がちょっと痛くなったくらいだ。

太陽を直に見ちゃいけない理由。たった今、よーくわかった気がする。


『どーいたしまして』

「ああ、ほんとに助かった!オレだけ残ってたらまたからかわれるからさ〜」


ほら、こっちが素っ気なく返しても相変わらずの笑顔。
しかも、汚れなんか一つもなさそうな真っ白で爽やかなやつ。

きっと誰に対してもそんな感じなんだろう。円堂は。
さすが愛されキャプテン。

人懐っこいというか、屈託がないというか。うん、とにかくいい性格してるわ。


「なぁ、名字」


全員が席の移動をし終えたらしく、教室内からさっきまでの騒がしさが消える。

若干遠くに聞こえる(おそらく、全員移動できたかー。的な事を言っているのであろう)担任のくぐもった声を聞き流しながら、私は隣の席の円堂に小さく「何?」と、応答を返した。



「今日から暫くは隣同士だろ?オレ、お前に色々迷惑かけるかもしれないからさ…その、改めてよろしくなっ!」


ずい、とごく自然に手を出されたものだから条件反射でつい握る。

しかし、仮にも今は授業中。円堂も私も、もう少し気をつけるべきだったのだ。


この後担任にこれが見つかって怒られ、一部の生徒達から冷やかしの言葉を浴びせられた。…なんて、実によくある日常風景。








隣の席の
(太陽みたいな、彼)


― ― ― ―

続く…かもしれません。





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