「……今日からお世話になる、剣城京介です」


よろしくお願いします。と無表情で言い切る少年。

ほぼぺしゃんこに近いようなスポーツバッグを持って、紫色の珍しい学ラン(改造制服かな?)を身にまとう彼には髪型とか腰につけてるしゃらんと音を立てるチェーンとか、他にも色々と突っ込みたい個所は盛り沢山にある。

が、丁寧な挨拶もくれたし、とりあえず玄関先に立たせておくのも悪いだろうと思い、笑顔を浮かべながらどうぞ。と奥のリビングへ通した。




本日、私の部屋(アパート)にやってきた剣城京介と名乗った彼。

私の家とは遠い親戚にあたる剣城家の息子さんだそうで、まだ中学校に上がったばかりなんだとか。

勿論、遠い親戚な訳だから会った事も聞いた事も一切なくて。そう、今日初めて会った。

それなのに、何故か私は任されてしまったのだ。



この一風変わった感じの少年、剣城京介くんのお世話を。



『えーっと…お茶でも飲む?』

「いえ、お構いなく」

『そ、そう…あ、そーいえばまだ私の名前言ってなかったよねっ。私は、』

「名字名前さん、ですよね。K大生の」

『え…』

「母から聞きました」

『あ、あー…そうだったんだ…うん。私、K大生の名字名前です。よろしくね』

「はい」


「………」

『………』


か、会話が続かない…っ!


なんだこの子。ホントに中学生?剣城母からは「中学生になったばかりなのよ〜」とかって聞いてたのに。全然想像してたのと違うんですけど。

ほとんど無表情だし無反応だし。言う事全部10文字以上30文字未満みたいなのばっかりだし…

やばい。めちゃくちゃ私の苦手なタイプだ。これ。


「あの、名字さん」

『え…あ、何かな?』


頭を抱えたい心境になっていたところに、剣城くんが自分から話しかけてきた。

物言いは柔らかいのだが無表情のままだからか、それが逆に怖い。

しかも名字呼びである。中学生ならもっとこう、名前さん、とか名前お姉さん、とか呼びそうなもんなのに。

そんな風に思いつつも、まさか無視する訳にはいかなかったのでまた笑顔で応える。

若干引きつり気味で取り繕った感丸出しなのは敢えて気にしない。気にしちゃいけない。


「オレはどこの部屋を使えば?」

『ああ、部屋ね。部屋はあそこを使って』


あそこ。と自分の部屋の隣に見えるもう一方のドアを人差し指で示す。

そこは彼専用に用意した部屋であり、前は物置代わりだった場所。

自室以外に空き部屋というのがそこだけで、連絡を受けた翌日、つまり昨日。丸一日かけて懸命に掃除をした。…まぁ、その結果、何とか部屋らしくはなった訳だが。


「……少し埃っぽいですね」


がちゃり。ドアを開け放って早速出た言葉がこれだ。

至極ご丁寧に口元に手をあてがい、眉までしかめている。


ふむ、この少年かなりのキレイ好きと見た。

ていうか、男のくせにいちいち埃っぽいとか気にするなっての。


『埃っぽい?んー、昨日掃除したからかな〜』

「名字さん」

『何?』

「…料理とかします?」


壁についた掃除しきれなかったのであろう、小さな埃を指でなぞってじっと見つめる。

もう埃は気にするな!と剣城くんに対して軽く嫌悪感を抱きながらも、再びされた答えにくい質問に。


『り、料理…ね。私はちょっとしないかな〜…いやっ、かといって全然できない訳じゃないんだけど、』

「“大学にバイトで忙しいからなかなかそーいう時間がない”でしょ?……やっぱり、



見たまんまズボラって訳ですか」


『……はい?』


み、見たまんま、ずぼら…?


自分が何を言われたのか理解するのに大分時間を要した。

意味が分かって呆然と剣城くんの顔を凝視すれば、ふ、と鼻で笑ってもう一言。


「ま、せいぜい頑張ってください。オレはオレでできる事は勝手にやりますから」


物静かな口調に感じる強烈な悪意。

あまりにも衝撃的過ぎて、ぱたんと閉まったドアから暫くは目が離せなかった。


そして我に返った時、真っ先に襲ってきたのは後悔。

でも、もう遅い。引き受けてしまった。

後悔先に立たず。何かの授業で何度となく聞いたこの言葉の意味、今はよくわかる気がする。
…その対処法については一つも聞いた覚えなんてないけど。






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