にげだす

マイルにとっての世界は、ここパンクハザードの研究所であり、マイルにとっての全てはマスターであるシーザー・クラウンであり、マイルはシーザーのものだった。
つまりは単純にマイルにとっての世界の住人は、シーザーとその部下と、モネとローと子供達くらいのものである。

その記憶に偽りはなく、またマイルもそのことに対して疑問にも思っていない。


だからこそ──マイルの世界はそれだけで完結していたために、今ここで誰とも知らない相手に手を差しのべられるのは予想外で考えもしないことだった。

「ほら、あんたもいっしょに行くわよ!」

そう言ってマイルに手を差しのべてきた名前も知らないオレンジの髪の女性は、とても必死な表情をしていて、なんだかわからないが複雑な気持ちになった。
何故だかマイルは、胸の奥から込み上げてくるような感情を感じたが、その気持ちはなんなのかマイルには想像もつかない。知らないが、懐かしいような感覚。何処かで見たことがあるような、ないような。

シーザーの部下達が声を上げてそのオレンジの髪の女性達を追い掛けていることから、きっとその女性は危険なんだろうとマイルでも薄々理解できる。

しかし、そうだと頭で理解できても、どうしてかその自分に手を差しのべてくれる女性についていかなければならないような気がした。理由はわからないし知らない。
そして女性のまわりの子供達も「マイルさんも一緒に行こう!」だとか「マイルさんも来て!」だとか言ってくるのだ。

だからその言葉に背を押されるように、マイルは女性の手を取ろうとして、

「マイル様!」

そうシーザーの部下に肩を捕まれ、マイルの伸ばした手は虚空を掴んだだけだった。

女性と子供達はどんどん遠ざかっていく。
きっとここから逃げ出すつもりなのだろう。マイルの世界から逃げ出すつもりなのだろう。

そんな中、マイルはシーザーの部下達にここは危険だから、 と部屋を出て安全な場所に連れられていくのだ。

「あーあ、」

彼等はどこに行くのだろう。ついていったらどうなっていたのだろうか。
そう思ったが、そういえばそんなことをすればマスターが怒るだろうとあまり考えないことにした。考えるのは頭が痛くなる。考えるな。考えるな。

まえへ 

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