ほほえみ

マスターの助手だというマイルさんという人は、いつもニコニコ笑っていて優しくて、よく私たちと一緒に遊んでくれるとてもいい人。

「よし、じゃあ今日は何して遊ぼうか?」

そんなマイルさんの言葉に、周りに集まった皆が一斉に鬼ごっこだとか、お人形遊びしようと意見を出し合った。
するとそんな皆の様子を見てマイルさんは「じゃあ最初は鬼ごっこしようか。それがおわったら一緒にお人形遊びしよう」とにっこり笑って言う。いつもの優しい笑顔だった。


ここにいる皆、マイルさんが大好きだった。
私達以外の人がよくマイルさんは危険だとか、危ないとか、近づかない方がいいなんて話をしているのをよく聞くけれど私は全くそうは思えない。

それにマイルさんは、時々とても悲しそうな顔をする。

「マイルさん?」

私がそう呼ぶと、一点を見つめボーッとしていたマイルさんははっとしたような表情をして我に返ったようだった。
キョロキョロと辺りを見渡し、落ち着かないのか立ち上がる。

「マイルさん、泣いてるの……?どこか、痛いの?」

私がそう言うと、そこで初めてマイルさんは自分が涙を流していたことに気がついたのか「……え?あれ?」と呟くと、困惑したような表情で目を白衣の袖で荒っぽく拭った。

そしてその後、私が心配そうに見上げているのに気がついたのか、名前さんはいつものようににっこりと安心させるように「大丈夫、どこも痛くないよ。気にしないでね」と言って笑う。

ときどき、そんなことがある。
その事に関してマイルさんは何も言わないし、他の人は誰も教えてはくれない。モネさんに聞いてみても笑って誤魔化されてマイルさんのことは何も話してくれなかった。
だから、どうしてマイルさんがとても悲しそうな顔をしたり泣いたりするのか、私にはわからない。

マイルさんは痛い訳じゃないと言っていた。
なら、お父さんとお母さんに会いたい、とか?
「マイルさん……マイルさんは、お父さんとお母さんに会いたいの?」

すると、マイルさんはほんの一瞬だけ見たこともないような無表情になった。 「とう、さん、かあさん?」

「……う、うん」

マイルさんは何も言わない。
視点も、私を見ているようでどこか違う場所を見ているようだ。
どうしよう、聞いてはいけないことを聞いてしまったのだろうか。
表情もなんだか苦しそうだ。どうしよう、どうしよう。そのマイルさんの顔には生気がなくて、まるでマイルさんじゃないみたいな表情。

私が動揺していると、急にマイルさんは血の気のない表情で笑って「そんなことはないよ。どうしてそう思ったの?」と言うと私の頭を撫でる。マイルさんの手はなんだか不自然に冷たく感じる。まるで氷のような冷たい手。

「な、なんだかマイルさん、よく悲しそうな顔してるから……」

「ふふっ、そうかな。でも父さんと母さんが恋しいわけじゃないよ?だって、僕にはマスターも君達もいるからね。
それに、お父さんは空の上が浮かんで赤い薬は飲んでいるし、お母さんは涙の前が見えなくなってそのまま紫の霧で外に出ようとしてる。助からないよ、逃げられない」

「……マイル、さん?」

マイルさんは急にあはははと笑いだして、ビスケットルームを駆け足で出ていってしまった。
それに気がついた他の子が、どうしたのか私に聞いてくるけれど、それに答えるほどの知識は私にはない。マイルさんがどうしたのかも、何を言っていたかも。まるでわからなかった。
そのとき初めて、私はマイルさんが怖いと思った。

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