ある災難の話2


「……お前、能力者だったのか」

「そうだな」

心底意外そうに言った緑髪のそいつに、俺は短くそう返した。
むしろ能力者じゃなかったらこんなことできないだろ。

なんとか海軍に捕まらずにこの島の海岸までついたが、こうなってしまえば船にも海軍の情報が行っているに違いない。ふざけんな俺帰れねぇじゃねぇか。ここで野宿とか絶対に嫌だぞ。
そうなると、なんとか連絡をとって迎えに来てもらうか、それか泳いで帰るか。後者は確実に溺れて死ぬだろうから無理だな。そもそもここからドレスローザは遠すぎる。
ドフィになんとか連絡しよう。俺は何も悪くないのに結局面倒なことになってやがる。全部この緑髪のせいだふざけんな。

「まあ、なんにせよお前のお陰で助かった」

「ああそうかよ……」

むしろ土下座しろ。何で見ず知らずの俺が、お前のために能力使わなきゃならねぇんだよ。本当は放っておくつもりだったのを一緒に逃がしてやったことに少し位は感謝してほしい所だ。
まあ、こいつが俺を巻き込んどいて見捨ててたなら、バラバラにして海軍にぶん投げてたけどな。我ながら恐ろしい。

それで気がついたのだが、こいつ腕から結構な量の血が流れていた。地面に血が滴るくらい深い傷だ。
さっきまでそんなことはなかったと思ったのだが、もしかすると走ったせいで更に出血が酷くなったのか。なんだか見た目がなかなかに痛々しい。というか治療しないと細菌が入ったりすると危険だろう。


「……手、見せてみろ」

「あ?」

そういえば手術用の道具とか救急用の道具とか色々もっているため、止血くらいならしてやろうと緑髪の腕を掴んで傷口を見た。どうやら切り傷らしく弾丸だとか何かしらの異物は入っていない。
これなら圧迫して安静にしてれば普通に止まるだろう。取り敢えず少し洗って薬を塗って包帯を少しきつめに巻きさえすれば大丈夫か。

持っていた消毒用の水で洗って薬を塗ると「痛ェ」と言われたが無視する。というかそこまで痛そうじゃねぇじゃねぇか。無表情じゃ説得力ないんだよ。
薬をわざと多めにグリグリ塗ってやろうかと思ったが止めておいて包帯を巻いてやった。

「……上手いもんだな」

緑髪が少し感心したようにそう言って、それに対して俺は仏頂面しながらも得意気に「医者だからな」と答える。包帯なんて過去に何百回も何千回も巻いてきたんだから、上手く巻けて当たり前だ。むしろ、それで上手く巻けなかったらどれだけ才能ないんだ。
するとそれを聞いた緑髪に「は?お前医者なのか」と意外そうな顔をされた。ちょっと待て、なんだその心底意外そうな顔。俺はそんなに医者に見えないか。いや、格好からじゃ医者に見えないのは確かだが。もしかして白衣とか着た方がいいのか。
ただ傷口に薬塗って包帯巻いただけだが、一応手術とか毒の治療とかいろいろ出来るからな。ドフィも認めてくれてる医者だぞ。俺の病院があればもっと嬉しい。というか認めてくれてるなら、ドフィそろそろ病院くれよ。部下の治療だけじゃ人数少ねぇよ。


「いつか万人に知れ渡る医者になってやる……」

ぼそりと呟いた。
誰もが認める凄腕の医者になる。不治の病すら完璧に治してやる。寿命の壁すら越えてやる。
どんな難病でもどんな重症の患者でも治して、そして憧れのあの人みたいになるんだ。絶対諦めねぇぞ、ちくしょう。

そうやって一人、野心にも近い夢を膨らませていると、緑髪のやつが何か思い付いたように「ああ」と呟いた。なんだよ。

「そういえばお前、名前は」

「……ボウシ」

すると緑髪は「そうか、俺はゾロだ」と言った。ちなみに、俺はボウシとかいうふざけた名前じゃなく本当の名前はナマエだ。この緑髪、簡単に信じてどうするんだよ。
それにしても、ゾロってどっかで聞いたことあるような気がするんだよな。情報系統は俺は疎いためどうも思い出せないが。

「たしか、うちの船長が医者探してたな」

「……それがどうしたんだ」

「お前、そんなことならうちの船に来ねぇか。お前なら乗せてくれんだろ」

緑髪に平気な表情でそう言われて、なんかげんなりした。
うわ、やっぱりこいつ海賊かよ。
船長だとか言ってたり、海軍に追われている時点でなんとなく察しはついていたが、やっぱりそうか。

緑髪のコイツはこう言っているが、出会って少ししか経ってないやつを勧誘するのは絶対によくないと思うのだが。
しかも俺がお前を助けたのは成り行きと偶然だし、 薬塗って止血してやったのもなんとなく気分でだからな。俺は別にお前のことを信用しているわけでも、気に入っているわけでも好きなわけでもない。

「無理に決まってんだろ」

そもそも、ドフィを裏切って他の奴の船に乗るとか考えられないな。そんなことをしたら天罰が下りそうだ。物理的な天罰も来そうだ。
そう思いながら言うと、緑髪が「理由でもあんのか」と聞いてくる。別になんだっていいだろ。というかお前には関係ないだろ。

「無理なもんは無理だ。医者なら他を当たってくれ」

「……そうか。そりゃ残念だな」

そんな会話をしている所でようやく船が一隻遠くにあるのが見えた。よくよく見ると海賊旗っぽいものが船の帆なので、もしかすると緑髪のとこの船か。

「あれ、お前の船か」

俺が指差してそう言うと、緑髪がぱっと顔を上げて「ああ、そうだ」と少し笑って頷いたので、面倒くさくなってそのまま能力で船の方まで飛ばしてやった。少々雑だがまあいいだろう。
やっと煩くなくなったが、耳をすませるとその海賊船の方からなかなか騒がしそうな声が聞こえてくる。無事再会できてよかったんじゃないのか。わりとどうでもいいが。
なんにせよ今日は相当疲れた。こんなことはもう一生したくない。


×××


「もう一生あの島にはいかねぇ」

俺があからさまにぶすっとした表情をしてそう言うと、ドフィが笑いながら「それで、何があった」と聞いてきた。
やっと休息が訪れたと思いつつ、小さくため息をついて「緑髪のやつせいで海軍に追われた挙げ句に島から出られなくなってその後なぜか海賊に勧誘されて緑髪を船に飛ばしてドフィに連絡して迎えの船で帰ってきた」息継ぎせずにそう言うと、ドフィは楽しそうに「それは災難だったな」と笑う。
もう少し、俺のこといたわってほしいんだが。まあ死んでないし怪我も全くしてないから心配する必要性なんてないのだけれど。

「もう行きたくねぇドレスローザから出ない。嫌だ。嫌だ」

あんな疲れることは二度としたくないし、ドレスローザに帰れなくなるなんて絶対に嫌だ。

「フフフフフ!俺が頼んでもか」

「いや行ってくる」

ドフィの頼みなら仕方がない。ドフィが行けというなら行く、死ねというなら死ぬ、殺せというなら殺す。
簡単に手のひらを返した俺に、ドフィは「そうか」と楽しそうに笑っていた。

 

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