ある災難の話


ドフィに頼まれてドレスローザからかなり遠い島にある街に足を運んでみたのだが、それにしたってこの街、海軍の監視が多くないか。

そこそこ綺麗な街で治安だってそんなに悪そうには見えないと言うのに、街角を歩いているとすれ違う人の中に海軍海軍海軍で、海軍があまりにも多すぎる。もしかするとこれは島の人、三分の一の割合で海軍なんじゃないのか。怖い。

そうなると、迂闊に変な真似をすれば牢獄に入れられそうで洒落にならないな。
まあ、その時はドフィに助けてもらうのであまり心配はいらないが、注意に越したことはないだろう。
とりあえず顔を見せないように深く帽子をかぶっておくことにする。海楼石で捕まってブタ箱にぶちこまれるなんて絶対に御免蒙るし、そもそもドフィに迷惑をかけるのはよくない。いい子にしてれば病院くれるって言ってたしな。


それにしてもどうしてこんなに海軍が多いのかと思いつつ、ふらふらと適当に街を眺めながら歩いていた俺の方に突然に横の路地の影から人が飛び出してきた。

「っ、」

一瞬その人物と目が合って、目の前の俺の存在に気がついて「うおっ!?」とそいつが驚いた表情でまの抜けた声をあげた。しかし、かなりのスピードで走っているのか勢いがありすぎて急に止まることができないらしくそのまま俺の方に突っ込んでくる。
俺もあまりの突然のことで、避けることも身構えることも叫ぶことも出来ずに結局、おもいっきりその人物とぶつかってしまった。
「ぐっ……」
吹っ飛ばされて仰向けに倒れて、地面に背中を強く打って鈍痛が走る。さらにその飛び出してきた奴が上に乗っていてプライスレスで痛い。ふざけんな。

街中だからと完璧に油断していたのがいけなかったらしい。しかも殺気や殺意がまるで感じられなかったのが盲点だった。
これからは、街中だし海軍いっぱいいるし、なんて思ったりして油断しないようにしようと心に決めた。絶対に。

「いってェ……」

「……」

痛いのはこっちの方だ。最悪だお前。

痛む背中を少し手で擦りながら目の前の人物をキッと睨み付けると、緑髪のそいつは結構反省しているのか「悪ィ、大丈夫か」謝ってきてすぐに立ち上がる。相当感じが悪い奴を想像していたので拍子抜けしたが、こんな所で路地から飛び出してくるなんて迷惑極まりない。
俺は歩いてただけだというのに、何で怪我しなくちゃならねぇんだよおかしいだろ。

かなり苛ついたが、取り敢えず俺は立ち上がって服についた埃を手で払った。思いっきり後ろに倒れてしまったので、よく確認すると服の後ろの生地が少しほつれてしまっている。帰ったら捨てよう。まったく最悪だ。

「……気を付けろよお前」

「ああ、急いでたもんでな。悪い」

いや、急ぎの用でもせめて曲がり角で人が来てるかどうかくらいは確認しろよ。
本当に、今日は災難だ。さっさと帰ってドフィに会いたい。



「おい!!こっちにいたぞ!」

もう帰ってしまおうか、なんて俺が考え始めた所で、唐突にそんな叫び声が聞こえその声のした方向を反射的に見ると、海兵がこちらを指差して何か叫んでいた。
は、なんだこれ、ちょっとまて。

隣にいるぶつかってきた緑髪のやつが「マズいな」と呟くのと同時に、すぐにその声につられて周りにいた海兵が集まってくる。その海兵の全員、こちらの方向を見ていた。いつのまにか周りにいたこの島の市民はいなくなっていて、周りにはもはや海軍しかいない。
なんだよこれ、結構不味い状態じゃないのか。そこら辺の海軍全員集まってきたんだが。
しかし、おれは海軍に目をつけられるようなことをした覚えはないし、追われる理由もない。だとすると、考えられる可能性は一つ。

「おい、お前のせいだろ……何をしたんだよ」

俺が少し呆れながらそう言うと、ぶつかってきたそいつは「あー、うちの船長がちょっとな」と表情一つ変えず言った。
やっぱりお前関係のやっかみかよ。最悪だ。というか、ちょっとな、じゃねぇだろ。明らかにちょっとじゃねぇだろ。まさかとは思うがこの数の海軍、全部お前の船長の仕業なのか。何をやらかした。むしろ何やらかしたらこんな状態に陥るんだ。ふざけんじゃねぇぞお前。

「二人とも、そこを動くな!!」

「……」

何故か一緒にいたせいで、俺もこいつの仲間扱いされているらしい。一緒にいただけで仲間扱いとか、洒落にならねぇ。災難ってレベルじゃない。まあ、俺が一般人とか市民っぽくないのは認めるが。

ともかく、ここで捕まるのはまずい。見たところ、話してわかってもらえるような感じでもなさそうだし、これは逃げた方が懸命か。
こうなれば当て付けに、適当に海軍全員の中身でも入れ換えてその混乱に紛れて逃げようかと考えたが、後々面倒なことになりそうなので止めにした。普通に能力で逃げて撒くか。


「逃げっぞ」

「っおい……!」

脱出経路を考えて俺が勝手に逃げようとする前に、横にいる緑髪のやつが俺の服を掴んで急に走り出した。
おい、おかしいだろ。ちょっとまてお前、なんで俺の服を掴むんだ。そんなことしなくとも一人で逃げれるんだよ。更にお前の仲間っぽくなったじゃねえかどうしてくれる。
振り払おうにも、かなり強い力で捕まれて引っ張られてどうしようもない。なんでこいつ無駄に手の力強いんだ。

走りながら後ろを振り返ると、結構な数の海兵が追ってきていた。最悪の状態。走ったせいで被害が拡大している。これ絶対大丈夫じゃないだろ。

「お前、ふざけんな……!どうするんだ」

苛々しながらそう聞くと、緑髪のそいつは「なんとか撒く」と真剣な表情で答えてただ走る。


巻き込んだ奴を見捨てずに荷物になるのを覚悟で手を引いて走るのは感心するが、もう少し計画的に逃げてくれないか。
俺の手を引いたままでは遅いし体力も削れるため、このままでは捕まってしまうだろう。それは俺にとってもよくない。
まあ、見捨てなかったのがまだ好感が持てるし、そんなに悪い奴というわけでもなさそうだし、仕方がない。

「ROOM」

取り敢えず緑髪のこいつも纏めて飛ばすことにした。

 

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