すぷらったーらぶ


※ゆるい流血表現?


ハートの海賊団のクルー達は仲がいい。
といっても、もちろんたまには船員同士で喧嘩したりするし、文句を言い合うことはある。あと、結構くだらないことでもめたりだってする。
しかし、基本的にそこまで血の気が多い奴だとか血に飢えている奴がいないため戦闘はともかく日常はなかなか平和的だった。

仲間内でやりあうなんて馬鹿馬鹿しい。
何事にも、得にならないことはやらない主義だ。損をするなら、尚更。

しかし、今この瞬間だけはペンギンはその思考を停止してまで仲間に殴りかかりたくて仕方がなかった。

「……なにしてんだよ」

ペンギンがそうひきつった表情で言う。そんな視線の先には、この船のキャプテンに何故か膝枕してもらっているナマエの姿。
いや、おかしい。絵面がおかしい。どうしてこうなってる。

「俺というものがいながらなに他の男に膝枕されて笑顔なんだよ殴るぞというか刺し殺す」とペンギンは思ったが、そういえばペンギンは別にナマエと恋仲というわけでもないしあまつさえナマエはペンギンが自分に好意を寄せているということすら知らない。つまりは別にローに膝枕されていてもナマエに罪はない。
その証拠に、ナマエはそんなペンギンを見ても笑って「あ、ペンギン」と、能天気な回答だった。相手が自分を刺し殺してやろうかなどと考えているとは全く考えもしていないいつもの幸せそうな笑顔である。知ってたらこんな笑顔はまず出来ない。

「キャプテンに何してもらってんだよ!」

「怪我したついでに」

「キャプテンもいいって言ってくれたからな」と付け足したナマエに、いやキャプテンそんなキャラじゃないだろと半信半疑でキャプテンを見たら、ペンギンに見られたというのに大人しくナマエに膝枕してやっていた。しかもしかめっ面だが、よく見ると別に満更でもないような表情。おい、どういうことだ。

「へっへっへキャプテン、このまま寝てもいいかな」

「足が痺れる。駄目に決まってんだろ」

お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ、とペンギンは頭を抱えたくなったがそういえばこいつら以前から普通に仲がよかった。一緒にいたり、話しているのはよく見かけたし、二人で一つの本読んだりもしていた。ナマエはよく人に頼ったり甘えたりちょっかいかけたりする甘えたがり野郎だが、よく頼る人というのがペンギンの次にきっとキャプテンの名前が上がる。俺だけ頼ってくれればいいのになんて頭の隅で考えたが、それと同時に嫌な可能性も浮かび上がってきた。まさかとは思うがもしかしてこいつらデキてたりするのか。なんだよそれ聞いてないぞ。

「おまえキャプテンとそういう関係だったのか……!」

「……ん?」

「……」

一応確認のため「ドン引いてます」という感じでからかうようにペンギンが言うと、それを聞いたナマエは少し驚いた表情でまの抜けたような声を呟くときょとんとしていた。鳩が豆鉄砲をくらったような表情。
ローの方はそれを呆れたような表情で見ていて、別に肯定も否定もしない。


「んー……、そう……実はダーリンと付き合ってるのよ。ねぇダーリン!愛してるわァ」

この反応なら、まあべつに二人には何もなさそうだなとペンギンが思った矢先、ナマエは滅多に見せない真面目な顔つきになりなんか無駄に女言葉のような気持ちの悪い声色をしてそう言うとロー引き寄せて頬に軽くキスを落とし、無邪気な笑みを浮かべてげらげらと大笑いした。
ローはローで「……ああそうだな」と何故か唖然とするペンギンを見てニヤニヤ嫌な笑みを浮かべている。
なんなんだこいつら、一瞬にして心の中のモヤモヤしたものが大きくなった。というか、相当ムカつく。

ナマエがダーリンと呼んでいたりキャプテンが肯定したりしているが、そんな噂があるわけでもないため真偽の程は不明だしそもそも噂がないならきっと違うだろう、というよりこの二人のは確実に悪ふざけだ。ふざけんな。

この狭い船の上、そんな話があれば簡単に全員に知れ渡る。キャプテンの噂であるとすれば尚更。そんな話簡単に隠し通せるものではないため知れわたっていないなら二人は別になんでもない。
なんせ、ペンギンがナマエのことを気にしているのですら船内を一瞬にして知れ渡ったのだ。この船の情報網は恐ろしい。そしてそれだからこそ、キャプテンは今ペンギンの様子を見て嫌な笑みを浮かべているに違いない。変なところで性格が悪すぎる。

「……」

「……ん?どうしたペンギン」

ペンギンの様子が変なことに気がついて、ナマエが不思議そうにそう言った。
ぶすっとした、あからさまに不機嫌な表情を無意識の内にさらしていたらしい。しかし、こんな二人の様子を見ていれば嫌でもそんな表情したくなる。かといって「膝枕くらい言えばしてやる」なんてそんなこと、口がさけたってこんな何も知らない表情のナマエに言えるはずがない。
くそ、そんな表情しやがって。お前のせいで俺は。

「べつに。二人でイチャついてるとこ、邪魔して悪かったと思っただけだ」

ぶっきらぼうにそう言えば、今度はナマエから「………ペンギン!なにそれ、嫉妬ですかもしかして!妬いてる?妬いてくれちゃってるの?なにそれちょっと嬉しいんですけどおおおお」と相当ウザくて仕方がない言葉が返ってきて、思わず頭に血が上り「うっせぇ馬鹿野郎禿げろ!」と叫んで持っていたコップを投げつけた。それは幸いにも中身が入っておらず、ローには当たらずに綺麗にナマエの顔にクリーンヒットし「ぎゃっふん!」という謎の擬音を発してナマエは大人しくなった。

ナマエの言葉は冗談だとはわかっていたし、ナマエもからかっているだけというのは承知の上だったのだがどうしてもその冗談が的を得ていて本気にしてしまい今の行動に陥ってしまった。頭が冷静になってくるととんでもない。
ローには若干「そこまでやるのか」みたいな目で見られながらペンギンは反射的に部屋を出たが、そもそもキャプテンも煽ったよな、と思う。人の恋心を弄ぶなんて酷すぎるだろう。この船には敵しかいないのか。虚しすぎる。



「ベンギン、まっで、まっでぐれ、」

そんなことがあり、とぼとぼとどうやってナマエに謝ろうかなんて考えながらペンギンが歩いている所、すすり泣きのようなとんでもない鼻声で呼び止められて何だと振り返ってみれば、目は涙目、鼻からは鼻血を流しているナマエがフラフラとペンギンに手を伸ばしてついてきていた。
ギャグだと思うだろう。しかし、鼻血の量がなかなか多いせいでなかなかその姿はスプラッターだった。血が服や肌にまで付着し、床にまで垂れていてまるで何か事件の現場のような状態。ナマエが両手をペンギンの方に伸ばしているせいで、その姿はまるでゾンビに見える。仄かに恐怖すら感じるような現状だった。実際、ほかの船員なら間違いなく逃げているに違いない。
けれどそんなナマエの表情は必死の形相で、それで自分の名前を呼んで頑張ってついてきているのだからそれだけでなんだかキュンときてしまったペンギンはだいぶ頭がいかれてきていた。というより間違いなく感性の器官に支障をきたしている。いずれにしても正常じゃないのは確かだ。

「ごべんペンギンンンン!俺が悪かった!謝るから嫌いにならないでぐれ!」

「お、おお……」

ナマエががばっと抱きついてきて、ナマエの鼻血がペンギンの服に大量に付着する。しかし、その鼻血は確実にペンギンが投げたコップによる影響なのでどうこう言ったって仕方がないしそもそも重要なのはそこではない。

「あれは冗談だって!そこまで怒ると思わなかったんだ、もうしねぇよ!だから許してくれペンギン!」

「いや、別にそんなに怒って、ねぇよ」

なんだか妙に緊張しながらも、実際にただちょっと血が上っただけで怒ってはないし、ナマエのも冗談だとわかっていた。嫌いになるはずないだろう、ということをナマエに伝えると、ナマエは「うわあああよかった!」ととても安心したように笑ってみせた。

すると次の瞬間に、どうやってナマエに謝ろうかなんて思っていたがどうやらそれについて考える必要はないようだと考えて少し安心しているペンギンの頭を、ナマエは後ろに手を回して抱きしめたまま引き寄せる。
そしてナマエの顔が目の前にあって動揺しているペンギンの耳元まで口を近付けると、ナマエは小さく言った。

「ペンギンだけだからな、俺がこんなに気にするの」

──言っておくがナマエの顔面は、鼻血だらけのスプラッター状態である。

それでも、それだというのに、いたずらっ子のように微笑むナマエに耳元でそんな言葉を言われたペンギンはもはや何を言ったらいいのかわからなかった。言葉が出てこない。
こんなお約束みたいな言葉を言われてときめくわけないだろ、なんて前まで思っていたがどうやらそんなことはいようだ。たとえ鼻血だらけの相手でもその鼻血が自分の服に付着したとしても辺りが血なまぐさくても、ときめくときはときめく。
だからそう、今ペンギンの顔が誤魔化しきれないくらいに真っ赤なのはきっとペンギンの頭がいかれているからだ、なんて言うのは野暮な話である。
「俺だって、こんな気持ちになるのはナマエだけだ」と小さく小さく呟いたペンギンのその言葉は、ナマエの耳には届くことはなく辺りに充満している血のにおいに紛れて溶けて消えてしまった。

 

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