結局彼は


扉を開けると、話で聞いた不法侵入者のテロリストであろう黒髪の青年と王下七武海が話をしているという、不思議な光景が広がっていた。

──いや、なんでこいつら、こんな仲良くなってるみたいな空気なんだ。

七武海と鉢合わせたなら、その青年は死んでいるかもしれないと思っていたのに、何故か七武海と予想外に無駄に打ち解けているこの状況。
いや、なんだこれ。

しかもなんで窓のガラス割れてるの。カーテンも不自然に切れてるんだけど。

「俺の島にでもくればいいだろ」

「お、本当か!楽しそうだな、じゃあ今度行ってみるな!」

何で七武海が海軍本部不法侵入者を勧誘してるんだ。おかしいだろう。


気味が悪くなると同時に、クザンは訳がわからなくなって頭が痛くなった。
何故、七武海の連中は、見知らぬ青年が席に座っているというのに、なにか疑問を抱いた様子もなく黙認して、しかも普通に会話しているのか。
妙に馴染んでいるのがまた酷い。

「……いやあんたら、何やってんの……」

とりあえずそう力なく呟くと、不法侵入者であろう青年が「ん?」とキョトンとしたこちらを向いた。

その青年は邪念のなさそうな、見た目も普通のどこにでもいるような十代後半ほどの青年だった。
目立った特徴はとくになく、本当に言うなれば一般人の青年といった具合だ。危害があるようには見えないが、確実にこの青年が今回のテロ行為のようなものの当事者なのだから世の中人は見かけによらない。


「青雉か」

やっと来たかというような表情の七武海の連中を見て若干脱力しつつ、「いや、そいつたぶん不法侵入者なんだけど」と痛む頭を軽く押さえて言った。

すると酷いことに、返ってきたのは「フフフフフ!ああ、そうだろうな!」という楽しそうな声だったり、「そうか」というたんたんとした声だったり、“知ってるに決まってるだろう”というような鼻で笑う声だったり、”だよな”というような、予想していましたという表情。

なんなのこいつら、知ってて普通に会話してたの?
やっぱりこいつらが思ってること、全然理解できないんだけど。

「へー青雉!青雉っていうのか!」

「おぬし、元海賊のくせに知らぬのか」

「ああ、俺が海賊だったの、もう二十年以上も前の話だからなー……」

「……お前、何歳だ」

クロコダイルにそう聞かれると、テロリストの黒髪の青年は自分の両手を出して、ひとつふたつと数えて頭をひねって考えた後、「うーんと、19歳?多分そこらへんだ!」と曖昧な答えを笑顔で言ってのけた。

全く何を言っているのかわからない。

会話が全く噛み合っていないのを見るところ、やはりこの青年はおかしいのだろう。

というか、おかしい。
強いて言うなら、青年も、この状況も、ついでに七武海の連中もなかなかおかしい。
頭がまるでついていかない。

きっと、青年のことをよく知らないのであろう所を見ると、七武海の連中も青年と知り合いというわけではないのだろう。
しかし、ならなぜそんなに打ち解けているのか。
そんなに簡単に心を許すような奴等だったっけ、お前ら。気に入らなかったら簡単に人殺すようなやつもいたよね?

「とりあえずさ、えーっとそこの黒髪の……」

「格好いいチョベリグな感じの海の男、ナマエだ!よろしく!」

「えぇー……ああ、うん、じゃあナマエちょっとついて来てくれる?」

取り敢えず、身柄を取り押さえておかなければならないわけだが、目の前の青年が何故か海軍を見ても慌てず逃げず怯えずフランクな態度で接してくるため、どんな切り出し方をしていいかわからずにそう言った。
逃げないように適当に痛め付けなければならないかと思っていたのだが、逃げる様子もないためその必要はなさそうである。

それにしても何故自分まで、不法侵入者に対してこんな普通の態度で接しているんだ。


「連れていくのか」

いや、そりゃあ連れていかなきゃ駄目でしょ。
放置とか、絶対しちゃ駄目でしょ。
なんで少し不満そうな顔をしているんだ。情でも移ったのか。

そして青年は連中に対して、楽しそうに笑うと「話せて楽しかった!ありがとう!」と手を振っている。


「おい待て、いくらだ」

「……なにが」

訳がわからずにそうドフラミンゴに聞き返すと「そいつを引き渡せよ。金は出す」と言って、思わず「……は?」と呟いてしまった。

いや、意味がわからない。

というか、どれだけ気に入ったんだ。初対面じゃないの、あんたら。おかしくない?なんで初対面の不法侵入者にそこまでするんだ。
たしかに初対面じゃないくらい打ち解けてたけどさ。

七武海が不法侵入者を海軍から買うという、不思議なというか奇妙すぎる状況。
意味不明な事が連続して起こって、どうしよう頭がいたい。

「いや、無理に決まってるでしょ……」

というか絶対に無理だ。
そっちも事情があるのかは知らないが(多分ないだろうが)、こっちにも事情があるのだ。そんな金で引き渡すなんてできるはずがないだろう。

すると案の定、不満そうな表情で、「ああ?なんでだよ」というように言われたが、むしろこちらがそう聞きたいくらいである。なんでこの青年にそこまでするんだ。おかしいだろう。この青年いったい何者なんだ。


「じゃあな!また会えたらいいな!」

青年が連中にそう言った所で、取り敢えず青年の手を引いて部屋を出ることにする。背中に突き刺さる視線は無視だ。

この青年どうすればいいのか。取り敢えず、万が一逃げないように捕まえておくべきだろう。
それにしても、何故か短期間でかなり疲れた。こんなことは二度としたくない。

 

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