わかり合えないらしい


「……ほら」

「お、ありがとうローくん!やったぜ!」

ローくんから弁当を受けとると、横に座っているエースがまた「……なあ、ナマエ」と不機嫌そうな表情で言った。

いや、なんだよその拗ねたような不貞腐れたような表情。どうしたんだ。


「……弁当くらい、俺が作ってやる」

「……え?エース、料理できたっけ」

俺がそう言うと、エースはぶすっとした表情で少し目をそらすと、持っている焼きそばパンを頬張って黙り込んだ。


……うん、あのさエース、出来ないよね。
お前、料理出来ないよね。

だって出来たらお前今、食堂の焼きそばパン頬張ってないもんな……!

そもそもエースが料理作るとか、危機感しか湧かない件について。
適当に野菜とかお菓子とかを放り込んで、暗黒物質的な何かみたいな、人が食す物とはまるでかけ離れた何かを作りそう。
すごく怖いんですが。

というかなんでお前、そんなにローくんに張り合ってんだよ。料理出来ないのに弁当作るとか、ライバル意識やばいな!

「……フン」

「何笑ってんだお前……!」

そして、ローくんがそれを見て鼻で笑って、エースがまた油を注がれたように対抗心を燃え上がらせて睨み付けていた。
な、なんなんだこいつら、まるで磁石のS極とS極、N極とN極のように反発している……!?

というか、こいつらあれだろ、近年まれに見る最悪に性格会わない二人だろ!
ここまで仲悪い奴って、逆にすごい珍しいぞ。犬と猫?いや、犬と猫の方がまだ仲がいいな。

こんな二人の仲を俺が取り持つとか、不可能に近いんですが、それは。
とりあえずこのギスギスしてる空気をどうにかしたいんだが……!こんな状況で弁当食っても美味しくないだろ!


「ま、まあ落ち着けよエース!えーと……あの、ほら、あれだ、んー……あー……あ、そう、すごいイケメンでハンサムすぎる感じの俺があーんしてやるから!」

「……、ぇ、は……?」

俺が笑いながらそう言うと、エースはなんか、理解できない、というような表情でポカンとした表情で俺を見た。

……いや、あのさ、エース、引かないでくれ。やめてくれ。

せめて、“キメェんだよ何がイケメンでハンサムだふざけんな全国のイケメンとハンサムに謝れ馬鹿野郎!”くらいの反応でいいから。
素で引くの本当に止めろよ。むしろ止めてください。今のギャグでその反応は俺の心にダイレクトアタックくるから。


「……ん?」

そう思ってエースをよく見たら、なんかお顔真っ赤だった。
……ああ、そうだこいつ、元ヤン不良野郎のくせになんか変に性格は純情だったわ。忘れてた。

いや、でもさ、俺みたいな野郎にあーんしてやるって言われただけで、この反応はどうなのか。純情ってレベルじゃない気がする。
大丈夫か?彼女とキスしたりなんてしたら、頭に血が上りすぎてぶっ倒れるんじゃない?
なんか、エースの将来心配になってきたぞ俺……!

「ば、馬鹿じゃねェの、おま、」

あ、でもなんか柄にもなくキョドってるエースが面白い。

「……へっへっへ、エースくんあーん」

「……っ、う」

なんか変に純情なエースが面白かったので、悪ノリして卵焼きを顔の前まで持っていってやると、恥ずかしそうに顔を少し後ろに引いて、俺から少し目をそらした。

な、な、なんだこいつ。あ、これがギャップ萌えか……そうか……!
普段あれだけツンツンしてるツンデレのくせに、初々しくてかわいいやつめ!

あー、普段も、これだけ恥ずかしがりやだったら目付き怖くないのにな。

そう思いながら、無理にエースの口に卵焼きを押し込んでやろう、というよくわからない野心のようなものが生まれて、俺はニヤニヤ笑いながらエースの口元に卵焼きを持っていった。

すると、何故か卵焼きがローくんに食われた。


………………は?


「……」

「……うん?……あの、え、ローくん?」

いつの間に後ろに回り込んだのか、ローくんがベンチの後ろに立ってぶすっとした表情をして無言で口をもごもごと動かしていた。

……いや、おま、……は?
え、え?あ、食ったのか。

……え、何故?

なぜか、ローくんが後ろに回り込んで、俺とエースの間に入って卵焼きを奪い取ったらしい。
一瞬、何が起こったのかわからなかったんだが。

俺もエースも突然のことにポカンとしていると、ローくんが少しムッとした表情で「……俺が作ったんだが」と呟いた。

「あ、そうだな。あー、ごめんよローくん」

「……別にいいけどな」

じゃあ何故食った。

でも、なるほど、確かに自分で作った物を敵対視してるエースに食われたくはない?のか。まあそうだな。そうか。

あーあんまりそこんとこ考えてなかった。
貰ってる側なのに、なんかローくんに悪いことしてしまった。すまねぇローくんよ。



「……やっぱりテメェは気に入らねぇ」

「へェ、そうか」

そして、なんでまたお前ら険悪ムードなんだよ。

睨み会わないでくれ。怖いんだよ。
イケメンの怖い顔はすごく怖いな。おかしい、俺なんて怖い顔したらギャグになるのに……!顔面偏差値の格差が、こんなところにまで。


まあ何が言いたいかって、やっぱりこの二人はわかり合えない運命らしい。

初対面から双方がマイナス印象っぽかったし、しかたがないね!
こんな二人組も、地球に一組はいるもんだ。


×××


「……ナマエ、」

「おっ、おお」

なんかエースくんが、すごい絆創膏だらけの手で弁当箱を俺に差し出してきた。

いや、弁当本当に作ってきたのかよ。
というか、その手なんだ。怖いぞ。絆創膏が5枚くらい貼られてるし、ガーゼも当てられてるんだが……。
いやというか、この手、かなりの重症じゃないか?

「エース手どうしたんだよ?ケンカでもしたのか。というか大丈夫なの?わりと本気で」

「たいしたことじゃねェ。……あんま気にすんな」

いや、たいしたことだろ!両手傷だらけって……すっごい気になるんですが!

でもまあ、本人が大丈夫だと言っているなら、無理に心配するのもよくないだろうし、あまりそのことには触れず素直に弁当を受け取っておくことにする。
俺にも言えないことも……あるよね……!
大丈夫だエース!お前が暴力団とかマフィアとつるんでても、俺たちずっと友達だぜ!ズッ友宣言!

「今日食べるわ!ありがとうエース!」

「……おう」

そう言ったら、エースが予想外にも嬉しそうに頷いたので驚いてしまった。
あのツンツンしていたエースに、とうとうデレが?

「エースちゃんはいいお嫁さんになれるよ!」

俺が調子に乗り茶化してそう言うと、「何言ってんだ馬鹿!」と怒鳴られた。
母さん、やっぱりエースは今日もツンだよ。

あ、でもローくんの弁当もあるわ。
……ああ、2つ食うのか……

 

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