窓の外から


急に、バリンという窓が割れる音が響いたかと思うと、なぜか急に外から割られる窓ガラス。そのガラスの破片と共に人が部屋に入ってきた。

「……あれ、こっちじゃなかったか!おっかしいな」

そんな場に会わないマイペースな声が聞こえて、全員が注目する。
そこには割られた窓と、外から窓を割って入ってきたのであろう黒髪の青年。

その青年は海軍本部の、しかも会議室で七武海全員に鉢合わせたというのに、まるで全く意に介していないというような、まるで気にしていない表情で辺りをキョロキョロと見渡している。ガラスの破片が頭に乗っかっていて、その拍子にパラパラと地面に落ちた。

「……おい、テメェ、誰だ」

他の六人が笑っていたり無言でいたり驚いていたりする中、苛々した表情でクロコダイルが黒髪の青年を睨み付けた。
すると、青年はきょとんとした表情をして振り向く。恐怖も怯えも感じられない、まるで七武海じゃなく通行人にでも話しかけられたような反応。


実際、誰かなんて聞かなくてもわかる。
こんな状況下で慌てていない、海軍でもない青年、テロ行為の青年の話。
おそらくこの黒髪の青年が、海軍本部にテロ行為を仕掛けているという話の人物なのだろう。
想像していたよりも若い、十代後半ほどの青年だった。それに、きっと血の気が多く海軍に恨みでも持ったやつなのだろうと思っていたのに、その目はまるで濁っておらず、テロ行為をしたなんて信じられないほど悲しみも憎しみも怒りも感じられない。

青年はにっこりとこの場にまるで似合わない楽しそうな笑みを浮かべると、クロコダイルに向かってこう言った。

「俺か?俺は超イケてるメンズな、スーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルやばい海の男ナマエだ!よろしく!」

そうぱちりとウインクしてみせ、クロコダイルの額の青筋が増えたのを見てドフラミンゴは楽しそうに笑う。ミホークやくまは無表情で、ジンベエやモリアはただ呆然とナマエを眺めていた。

「……ここが何処だかわかっておるのか」

「ああ!海軍本部だよな!知ってるぞ」

警戒しているような、呆れたような表情でそう言ったハンコックに、やはりナマエは淡々とした口調で答えた。
まるで話が噛み合わない。このナマエという青年はなんなのか。海軍本部と知っているのなら、なぜこんなに平然とした様子でいるのか。
というより、ガラスが割れた音で近くの海兵は来ないものか。肝心なところで役に立たない奴等だと、ハンコックはため息をついた。

「フッフッフ、それで、そのナマエがなんでこの海軍本部にいるんだ」

「……あ、ああ!そうだった!俺、ガープ探してるんだけどさ、見なかったか?さっきから探してるけど全然見つけられないんだよな」

「……ガープ?知り合いか」

そう聞くと、ナマエは「ああ、そうなんだ!会いに来た!」と笑って告げた。

ガープ、というのは、やはりあのガープだろう。しかし、知り合いというのはどういうことなのか。知り合いなら、海軍からテロリスト扱いされているのはわけがわからない。
かといって、このナマエという青年に他に理由があるというようにも見えなかった。それほどまでに、ナマエの目は意志がしっかりしていて嘘を言っているようには思えない。


──いや、本当に、そうだろうか?
ここは海軍本部だ。こんな部外者であろう青年を、海軍がそう簡単に立ち入らせるはずなんてない。
もし、偶然にもちょっと警備が薄い経路があって侵入できたとしても、ここまで知れ渡っているのだ。普通ならすぐにでも捕まるに決まっている。
それなのに、このナマエという青年は、海軍に追われているにも関わらず捕まらず、慌てたような様子もなく余裕といったような表情で王下七武海を目にしても怯えもしない。
ただのガープの知り合いにしても、テロリストにしても、あまりにもおかしい。

この青年の見た目や正確に反して相当な実力者、という可能性が拭い切れない訳ではないが、そうだとすると傷一つない、武器すらも握ったことのなさそうな綺麗な手や隙だらけなのは矛盾している。
置かれている状況下と、青年の対応がまるで噛み合っていないのだ。

「……お前さん、どこの者なんじゃ」

「どこの?んー……昔の故郷は東の海だけど」

そうじゃない。
誰も故郷なんて聞いてないだろう。


その瞬間。ナマエは「おっと、」という間の抜けた声と共に、急に頭に両手を当ててしゃがみこんだ。
それと同時に、後ろにあるカーテンがスパリと何かによって真っ二つに切れ、床に落ちる。

「うわ、あっぶないな!今のもう少しで真っ二つだったぞ」

「フッフッフ、避けたか」

「そりゃあ、避けないと危ないからな!」

危ないというか、死ぬだろう。
かなり隙だらけだったというのに、不意打ちの攻撃も避けそれでも動揺もしない辺り、ただのテロリストというわけでもなさそうだ。

「……何者だテメェ。賊か」

「フッ、名乗るほどの者ではない……!」

「……」

いやさっき名乗っただろ。
何かよくわからないポーズをとったナマエを見て、クロコダイルがかなり苛立った様子で立ち上がるのを適当にいなし、楽しそうに笑いながらドフラミンゴが言う。

「ナマエだったか。まあそこに座れよ」

「ん?あー……でも俺、ガープ探さなきゃならないんだよ」

「お前について話したらガープの居場所でも教えてやる」

そう言うと、ナマエはさっき自分を真っ二つにしようとした人間を疑いもしないで「おお!本当か!ありがとう!」と言って素直に置かれていた椅子に座った。
それを見て、何をしているんだと呆れる人間や、警戒する人間ややはりただ無言でナマエを見ている人間や様々だが、ナマエはそんなことを気にもとめないで笑っている。

このナマエという青年が何者なのか予想もつかなかったが、やはりこの笑顔はどこかで見たことがある、ような気がした。どこだかはわからないが。

 

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