感謝の気持ちは永久に
「こんにちはー!ガープくんいますかー!」
そんな突拍子もないというか、場に会わないふざけた叫び声を上げて海軍本部を駆け回っている青年がいると、今日の昼頃に海軍本部ではちょっとした騒動になった。
警備はどうしただとか、そもそもどうしてこんなところに見知らぬ青年がだとか、ガープくんということはガープの知り合いなのかだとか、皆が皆言いたいこと思ったことは多々あったが、原因の青年が捕まえられないことにはどうしようもない。 そのために、今いる海兵がその青年を取り押さえるために総出で海軍本部を駆けずり回ったのだ。なんとも迷惑極まりない。
「あ、お茶じゃなくて酒もらえるか?」
「いや、あんた図太すぎでしょ……」
まるで友達の家に遊びに来たかのような調子で、意気揚々と海軍本部を駆け回っていた青年の名前はディーというらしい。 ディーという青年は、捕まって身動きが取れないというのに、平気な表情でそんなことを言ってのけた。まるで危機感を感じている様子はない。こいつ大丈夫なのか。
そもそも、ここ海軍本部を何か叫びながら駆けずり回るなんて正気の沙汰ではないのだ。そこから既におかしい。 しかも、なんの武器も持たずに手ぶらでである。つまりはテロ行為というわけではないのだろうが、単なる精神が可笑しくなった人というわけでもなさそうだ。謎は深まるばかりだった。
「あんたさ、ガープ中将の知り合い?」
「ん?ああそうそう!今日はガープに一目会いに来たんだった!忘れてた!」
いや忘れんなよ。本筋だろそれ。そうは思ったがクザンは声には出さなかった。 まあ、ガープの知り合いということが本当なら話は早い。さっさとこの面倒事を押し付けてしまおうと心に決め、部屋を出ようとした所にタイミングよく外からドアが開けられる。
「わしに客が来とるらしいなァ!そりゃどこのどいつだ!?」
「ああ、噂をすれば……」
豪快に扉を開けて部屋に入ってきたのはディーが知り合いだというガープだった。ガープはクザンの苦労なんて知りもしないで、いつもの笑顔でずかずかと部屋に入ってくる。 そんなガープを見てディーは「おおおガープ!」と喜んでいるような感動しているような表情で叫んでいた。
「ん?わしに客というのはお前か?」
「そうだ!俺は海の男ディー!ガープに一目会いに来たんだ!あとお礼を言いに!ありがとうガープ!恩に着るぜ!」
ディーはそう言って楽しそうに笑った。 なるほど、ガープに助けられたことがあったのか。しかし、そのお礼を言いに来たといっても大げさすぎではないか。ありがとうの一言を言いに海軍本部に乗り込まれてはこっちとしてはたまったものではない。
しかも、ガープはガープで助けたことがあることを忘れているらしく「そんなことがあったのか?」と言った後「気にするな!ぶわっはっはっは!」と豪快に笑った。いや、助けたやつ忘れるなよ。
「いや、本当に感謝してるんだぜガープ!ケツはやれねぇけどな!」
「……ぶわっはっはっは!そうかケツか!」
なんだこの会話。
そうやってディーとガープはひとしきり笑って話した後、ディーが「じゃあそろそろ帰るな!」といったところで話は打ち止められた。 ちょっとまて、お前本当にお礼言いに来ただけなのかよ。本当わけわかんない、なにこの子。
そう思ったところで、ディーは自分を縛っている鎖を簡単に引きちぎり、窓から外にダイブしてあっという間にいなくなってしまった。その間五秒ほどである。 鎖で身動きが出来ないと油断していたために、反応すら出来なかった。鎖引きちぎれるのかよ。嘘だろ。 なんというか嵐のようにやって来て、嵐のように去るやつだった。追う気にもなれない。 そういえば昔にあんなやつを、見たことがあるようなないような。
「……あいつが外で叫んでいた台詞を知ってるか?」
「ええ……?ああ、“息子のお礼を言いに来た”でしょう?」
あの歳で息子がいるわけがないのに。本当になんだったんですかねあいつ。 クザンはそう言って苦笑いした。
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