夢見る麦わら帽子と王様

「少年よ!海の旅はいいぞー海の旅は!海は広いし空は青い。何でも許されるというわけじゃないが、自由なんだよな海賊っていうのは!」

「おー!お前、海賊やってたのか!?」

「ああ、昔の話だがな。今は一人でぶらり旅だ」

とある島の飲食店。
そこは大勢の客で賑わっていたが、その中でも一際大きな声で騒いでいる二人がいた。
一人は黒髪に黒い目のとくに特徴のない二十代前半ほどの青年で、もう一人は、麦わら帽子を被っている十代半ばほどの青年だった。

二人は、海や島の話でとても会話が弾み、かなり意気投合している。
その横では、麦わら帽子の青年──麦わらのルフィの船の船員達が見ていた。その中には呆れたような表情をした人もいれば、興味ありげな様子で聞いている人もいる。

「少年とはいい酒が飲めそうだな。麦わら少年よ、今度一緒に酒盛りやろうぜ。
そうだ麦わら少年、空島には行ったか?」

「空島!ああ行ったぞ!鐘鳴らしたんだ!」

「な、なんだってー!?黄金の鐘鳴らしたのか、凄いな!ああ、空島なんて本当に懐かしいな!あいつ、元気にしてるかな」

そんな黒髪の青年の話を聞いて「え、あんた空島に知り合いいるの?」と、オレンジの髪の女性が聞いた。
それににっこりと笑って、黒髪の青年が答える。

「ああ、いるんだ友人が。また機会があれば会いに行きたい所だ。でも、なんてったって俺は海の男!俺がいるのは空でなく海なんだよな!」

そう高らかに告げて、黒髪の青年は追加の酒を注文した。その青年の頬は赤く少しながら酔っている。だからこんなにハイテンションなのか。

海の男だといっても、その若い年でしかも過去の話なら航海士は愚か、よくても海賊の雑用とかじゃないのか。
なんてことは思っても言わない。それは麦わら海賊団の優しさである。

「そうだよなー!海っていいよなー!」

そして、それに比例するように船長である麦わらのルフィは、そんな黒髪青年の言葉に目をキラキラさせていた。純粋なやつだ。


それからその黒髪の青年は、注文した酒を飲みながら旅の色々な話をしてきた。
それは巨大な海王生物の話だったり、不思議な島の話だったり、はたまたこの広い世界で会った人達のことだったりと様々だったが、その話はいかんせん事実なのかは信じがたい。
なんせ膨大な記録だった。それは二十代前半ほどの青年が体験するにはあまりにも偉大すぎる。

しかし、嘘だとしてもここまでの話を作れるのは凄い。それにどの話も、青年はまるで事実のように話すので、麦わら青年の横に立っている長い鼻の青年もそれに感心しているのか、合図ちをうちながら聞いていた。


そして、そんな話を聞いてしまえば、船長がこんなことを言い出すのは必然だったのかもしれない。

「お前、今は何処の海賊の仲間にもなってないのか?」

そんなルフィの言葉に、黒髪の青年は「ああ、そうなるな。もう俺の海賊団は解散しちまったから」と素直に頷く。

「お前、俺の仲間になれ!」

そう高らかに告げて、回りにいた麦わら青年の船員は同時に「えぇ!?」と驚きの声を上げた。
まあ、この青年がこんなことを唐突に言うのはいつものことだが、やはり慣れない。

「おい、ルフィ……」と、長い鼻をした青年が困惑した表情で言った。ほかの船員もなんだか納得できないような表情をしている。当たり前だ。

たしかにこの黒髪の青年は、悪い人ではないとは思う。しかし、今さっき会ったばかりで、お互いのことを殆ど理解できていないのに仲間に誘うのはどうなのか。

「仲間か……懐かしい響きだな」

そう小さく呟いて、黒髪の青年はルフィを見た。
その目は輝いていて、夢に向かって真っ直ぐに進む青年の気持ちがよく伝わってくる。

それがなんとなく、昔の自分と被って見えて──

「──いや、遠慮しとくよ。今の俺は一人がお似合いだ。
麦わらのルフィ、また会える日を楽しみにしてる。俺の名前を言ってなかったな。俺はロ……ディー。君は将来、海賊王になる……」

かもね!そう言って無邪気な笑顔でにっこりと笑いウインクすると、ルフィの頭をポンポンと叩いた。そして言う。

「あ、俺財布持ってないから麦わら少年達、会計よろしく頼む!」

そう言って足早に黒髪の青年は店を出ていった。

店に残ったのは、目をキラキラさせているルフィと、ポカンとした表情の麦わら海賊団のクルー達。

数秒後、オレンジの髪の女性の悲鳴が店から聞こえてきたのは言うまでもなかった。

 

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