別人だが間違いなく本人だ

青年は、ついさっきまで普通の青年だった。

「わけがわからないよ……」

どうして人間は魂の在り処にこだわるのか。
そんなの決まっている。だって魂の在り処が本来あるべき場所と違うなら、もうそれは自分ではない。入れ物が違うだけ、なんてことで言い逃れはできない。

だからこそこの青年も、この状態に混乱していた。その足元には、直径七センチほどのボールが転がっている。そのボールこそ、青年が普通でいられなくなった特異点であり、そもそもの原因だった。


事件は数分前に遡る。
青年は、ごく普通の島で産まれたごく普通の人間だった。とくに特徴的なことはなく、なんら周りの人と変わりない。
だから青年も、生まれ育ったこの島で普通に成長して、普通に仕事に就いて、普通に結婚して、普通にこの生涯を遂げるのだろうと性懲りもなく信じていた。

しかし、その考えがたったひとつのボールに壊されるなんて、だれが考えただろうか。

青年が歩いているとき、ひとつのボールが飛んできて頭にクリティカルヒットした。それはもう綺麗に弧を描いて、まるで吸い込まれるかのように青年の頭に落ちた。

ガツン、と鈍い音が耳に届いて、青年は軽い脳震盪を起こした。
視界がぐわん、とブレる。

まあ、それだけならよかったのだ。

しかし、ブレた視界と一緒に何か色々な余計なものまで 浮かび上がってきた。

それは、青い空に、広い海。海賊旗を掲げる大きい船と、大勢の仲間たち。

何故だか吐き気と目眩と頭痛がした。
なんだよこの映像、と思うよりも前に、青年はこの映像が自分がその昔に見たものだということに気がついた。
青年が、今の自分になる前の、魂の在り処が見た景色。

それは、飛んできたボールの当たり処が悪かったのか、はたまた脳にボールが強く当たった衝撃のせいなのか、そのほかに理由があるのかはわからない。

ただ、たしかなことは、この事件のせいで青年は思い出してしまったのである。
もう、思い出すはずがないはずの、過去の記憶。
今の青年ではない、しかし、たしかに青年が経験した記憶。
青年が産まれる前の、魂の在り処。

「そうだ、グランドライン行こう」

たんたんと、まるで散歩に行くようにそんな言葉を言ってのけた。

視界の遠くで子供が「おにいさんごめんなさーい!そのボール取って!」と大声で叫ぶのが聞こえる。

青年は、その子供に大きく手を振って、足元のボールを軽く子供へと投げた。

 

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