ぼくのしはきみのために
※傷の描写などは適当です
エースもルフィも、レイリーも生きていて、白ひげだって無事ですんだ。 それでも、生きているというのに、この身を裂くような喪失感はなんなのか──いや、皆がみんな、理解しているはずだ。どうしてこんなにも気持ちが沈んでいるのか、わかっている。
「なあ、おっさん……ディーは、」
「……」
レイリーはただベッドの上で横たわっているディーの手を握りしめ、何も言わない。ただ無言で、決して目を開く様子のないディーを呆然と見ていた。 エースは、ベッドより少し離れた場所の椅子に座っている。うつむいていて表情は伺えないが、放心しているような様子だった。
ディーは腹の方の内臓を破壊され燃やされ、ほとんど機能しておらず、他の器官も酷い有り様だった。外傷も酷く、包帯だらけで痛々しい。顔は血色がなく真っ白。 バギーはそんなディーを見て今にも泣き出しそうで、シャンクスは拳をきつく握りしめている。
──それでも、医師やナース達の懸命な処置もあってか、ディーは生きてはいた。 もはや、それはありえないことで、奇跡に近かった。普通なら死んでいてもおかしくないのに、後遺症は残るだろうが目覚めることが出来れば命に別状はないと。
生きているだけ、本当によかったと思った。
また、いなくなってしまうのかと思ったのである。また自分の手をすり抜けて、手の届かない場所へ行ってしまうかと思った。会えなくなるのかと思った。 生きていて、本当によかった。死んでしまったらもう、どうしようもないのだから。
それでも、失ったものはやはりあまりにも大きい。
ディーの胃や肝臓などの器官はもはや役割を果たせる状態ではないため、もう食べ物は食べられない。 脊髄も損傷しており、もう下半身の神経は機能していない。半身不随だった。 リハビリをすれば回復するかもしれないが、その可能性は低く、希望は薄い。
──そんな状態になっても、ディーは自分の半身だけですんだなら安いものだと、そう言うだろうか? もう世界を見て回ることも、好きな冒険も出来ないというのに。 いや、絶対ディーの性格上、絶対にそう言って、「エースが無事でよかった」と、安心させるように笑うのだろう。そんなイメージがすぐに浮かんできて、泣きそうになる。
「……っ、」
どうしてディーが、こんな目に会わなければならないのか。 仕方がなかったことだと、わかっている。全てディーが望んだことなのだろう。 命を賭けてまで、エースを守りたかった。自分に何があっても──例え自分がそのまま死のうが、エースが生きていれば、それでよかったのだ。
結局ディーは、エースを最初から最後まで、心から愛していたのである。 その心に、嘘も偽りもなかった。
「ディー」
早く、目を覚ましてほしい。
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