たからもの

結局の話。
多くの犠牲者を出したこの戦争は──予想外もしていなかった事態が起こってしまったために、海軍側の作戦は失敗に終わり、海賊王の息子である火拳のエースを逃がしてしまう結果となって終結してしまった。

こんな結果は、誰が想像がついただろうか。
センゴクにも白ひげにもエースにも黒ひげにも──誰一人として、こんな結末は予想もしていなかった。



「……船長、」

「おう、お前シャンクスだよな!久しぶり!大きくなったなー!元気そうで何よりだ!」

戦争が終わり、沢山の人間が集まっている白ひげの船の中、シャンクスが酒を浴びるように飲んでいるディーに向かってそう呟くと、ディーは酔っているのか少し赤い頬をにっこりと緩ませて楽しそうにそう言った。

──そこで、感情が溢れるよりも、名前を呼ぶよりも、涙が出るよりも先に、その胸に飛び込んだ。

恥ずかしいだとか、子供のようでみっともないという感情はあったが、それよりも今はこうしていたかった。もう何処にも行ってほしくなかった。

今、目の前にいる。
もうどんなに願っても会えないと思っていた人が、もう一生会うことはないと思っていた人が、ここにいるのだ。間違いない。
嬉しさや感動や喜びや驚きが混ざりあって、どうにかなりそうだった。

「なんかシャンクス子供みてェだな!」

肉にかじりつきながら言うルフィに、シャンクスはただその姿勢のままで「……うるせェルフィ」と小さく呟く。
今だけ、今だけなら子供に戻ったって構わないじゃないか。ずっとずっと会えなかったのだから、少しくらい甘えたってバチは当たらないだろう。

「まったくもうシャンクスくんったら、甘えんぼさんなんだから!」

「ロジャー船長、おかえり、なさい」

「……、ただいま」

ディーが目を細めて、シャンクスの頭を撫でた。隣にいるレイリーは少し微笑んでそれを見て、周りの人間は呆然とそれを眺めた。



「なあ……お前は、本当に海賊王なのか?」

船員の一人がそう聞いて、周りの人間も同じように不思議そうな表情でディーを見ている。ルフィは首を傾げて、白ひげは無言でただ椅子に座っていた。エースの表情は伺えない。

このディーという青年が、ガープに海賊王だと騒がれているのは承知の上だし、赤髪がこんな反応をすること自体信じられない。そもそも隣に冥王レイリーがいる時点でなんとなく察しはついているが、それでも誰もが本人に確認せずにはいられなかった。


そんなたくさんの船員が注目する中、ディーは船員達に目を向ける。
そして、楽しそうに笑い、何故かよくわからない決め台詞を格好つけたように顔に手を当て高らかに告げた。

「ハーッハッハッハァ!“お前は海賊王なのか?”と聞かれたら──答えてあげるが世の情け。海の平和を守るため、海の破壊を防ぐため。愛と真実の悪を貫く!ラブリーチャーミーな敵役……!」

「ああ、こいつがそうだよ」

熱唱するディーの横に座っていたレイリーが淡々とそう告げ、船員達は呆気にとられたような表情をして絶叫した。
「本物か」だとか「冥王が言うなら本当だ」だとか「マジかディーすっげェ!」だとか船内が賑やかになり、信じられないという視線でディーを見つめた。

たしかに、この青年の強さは相当なものだったし、海軍大将の攻撃を受け流しているのも目撃した。大勢の海軍なんて赤子のてを捻るより簡単にねじ伏せてもいた。

しかし、やはり今目の前にあの死んだはずの海賊王がいるとなると、現実味がなくて信じられない。
それに、海賊王のイメージというのは、とてつもなく強く恐ろしく、どんな人間も従わせるほどの器の持ち主というような人物。
目の前の、決め台詞のような言葉の途中で水を差したレイリーに対して「俺の見せ場がぁぁ」と少し不貞腐れたように文句を言っている青年が海賊王だなんて、少し信じがたい話だ。
というより、もはやレイリーの孫にしか見えない。

「おいシャンクス!いつまで船長に引っ付いてんだよ!!」

「なんだバギー嫉妬か?」

「違ェよ!!いいから離れろ!!」

バギーがシャンクスの手を無理に引っ張ってディーから引き剥がす。それを見てディーは楽しそうに「俺人気者だな!」だとか言って笑っていた。



「でも、海賊王ってことは、エースの──」

誰かがそう言ったところで、急にガタンッ、という机を叩く大きな音がして、そこにいる人間全員がエースの方に注目した。
どうやらエースが立ち上がる際に手を机に叩きつけて大きな音を出したらしい。

エースは何も言わず、ただうつ向いて立っている。

「ん?どうしたんだ、エース」

ルフィがそう聞いたが、エースはやはり何も答えず、誰の問いにも無言のまま、部屋から出て行ってしまった。

「……」

ディーはそんなエースが出ていった扉を眺めていつもと違って少し寂しそうに笑うと、無言のままだった白ひげの方を見て言う。

「白ひげ、エースのとこ、行ってやってくれないか?」

ディーのその言葉に、白ひげは怪訝そうな顔で「あぁ?……何でだ」と言ってディーを見た。

「お前が行ってやった方が、エースは喜ぶだろ?」

「お前らの問題だろうが。甘えるんじゃねェよ……お前が行ってこいアホンダラ」

白ひげにそう言われ、ディーは一瞬息を忘れたかのような表情をした後に「ああ、そうだな……甘えだな」と言ってにっこりと笑うと「ありがとう白ひげ!ちょっと行ってくる」と走ってエースの後を追いかけ部屋を出ていった。

 

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