終演
「──白ひげ!本当ありがとう!二人をよろしく!!幸せになれよ!」
目の前のディーはにっこりと笑いそれだけ言うと、白ひげの返事を待ちもしないでぱっと起き上がると、背を向けて武器を構えた。 その視線の先には、さっき走り抜けてきた戦場がある。 俺も行きます、と言う道化のバギーを大丈夫だから待ってろと制して、ディーは走り出そうとした。
「待てよ……ッ!」
エースがそう喉から声を絞り出すと、ディーは少し振り返った。
すぐにわかった。行ってしまうつもりなのだろう。 きっと、ディーはエースに何も告げないで行ってしまうつもりなのだ。もう一生、会わないつもりだ。
ゴール・D・ロジャーのことは嫌いだ。 ディーのことだって、そうだ。
しかし、かといって、ディーが自分に何も告げないで、何も言わないで去るというのは何故だかエースは許せなかった。 きっと今呼び止めなければ、もう一生会うことはないというのに。それでいい筈だというのに。
別に、ディーに優しく抱き締めてほしい訳ではない。 かといって、“よくがんばったね”だとか“辛かったね”と慰めて欲しいわけでもない。 頭を撫でて欲しいわけでもない。
それなのに、去っていく背中に手を伸ばさずにはいられなかったのは、どうしてなのか。
「お前には……聞きたいことも、言いたいことも山ほどある……!」
「……そうか」
エースのその言葉にディーは短くそう言うと、嬉しいような悲しいような寂しいような、色々な感情が入り交じったよくわからない表情で少し笑った。 自虐的な笑みのように見えなくもない。それでも、その中に少しの嬉しさが見てとれる。
「俺はお前が生きてるだけでいいけど」
「……っ」
呟かれた一言に、返す言葉は無かった。
「生きてるだけでいい」なんて。まるで自分が父親であるかのような、全てを受け入れるような言葉。 その言葉に、エースは「お前が父親面するな」と思う反面、どうしてか胸が熱くなるような、よくわからない感情が沸き立つのを感じた。ディーが、本心からその言葉を言ったのがわかったからだ。
憎悪ではない。嫌悪でもない。 決していい感情ではないが、かといって考えているほどに悪い感情でもなかった。この感情はなんなのか。
エースがそれを理解する前に、ディーはくるりと体ごとエースの方に向き直ると、にっこりと楽しそうに笑って大袈裟に両手を広げると言った。
「俺はお前のこと愛してる!それだけは絶対変わらない!ありがとうエースくん大好き!」
突然のことに呆気にとられる周囲をよそに、ディーはそんなことを一方的に叫んですぐ仲間の方──レイリーの方に向かって、白ひげの船から飛び降りると走っていった。
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