運命と偶然
「ロジャー、」
そう言ってにっこりと、それはそれは嬉しそうに微笑む目の前のその人。 まるで、日溜まりのような暖かい笑顔だった。 何処か物悲しげな、とても嬉しそうな笑み。
彼女とは別に、何処かで会ったことがあるわけではない。見たこともない人だった。
でも、とても懐かしくて、とても嬉しい。
そんな彼女にディーは何を思ったのか、驚いたような嬉しそうな表情でこんな言葉を呟いた。
「るー、じゅ?」
途端に、彼女の綺麗な瞳から、たくさんの涙が溢れ出て頬を伝った。
「会いたかったああああああああ……!大好き!大好き!」
「……私もよ、ロジャー。本当に会いたかった」
子供のように娘に抱きつく青年を、通りかかった人々は不思議そうに眺めたが、本人たちがあまりにも幸せそうだったので何も言わなかった。
その娘と青年の二人の年齢は二十代ほどだというのに、まるで数十年以上ぶりの再会というような、そんな喜びようだった。 娘の方は本当に嬉しそうに涙を流していて、そんな娘を青年は力一杯抱き締めている。
それが実際に、数十年ぶりの再会だということは、本人たちにしかわからない話だったのだが。
ディーは、彼女の言う「ロジャー」ではなかったし、彼女もまたディーの言う「ルージュ」ではなかった。 ディーはもうディーだったし、ルージュもまた、別の人間になってしまっていた。
それでもお互い、必然なのか運命なのか二人は、一度だけではなく二度までも……この世界でまた運命的な出会いをすることになった。 こんなことが起こり得るのだろうか。
「ルージュ、また俺のために毎日味噌汁を作ってくれ!!」
そう叫んだディーに、ルージュは「答えなんて、聞かなくたってわかってるくせに」と言ってとても嬉しそうに笑った。 ディーは、そんなルージュを力一杯抱き締める。
その光景を横目で見て、周囲の人々は「ああ、両想いか。おめでとう」なんて心の中で呟いて通り過ぎていく。
何の変てつもない昼下がり、ある平和な島で、偶然に二人は出会って運命的にもまた結ばれた。 周囲の人々はそれを何の気なしに聞いて、簡単に心の中で祝福する。 小さな結婚式だった。
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