─にとっての幸せ

「あいつが、火拳のエースを……!」

「奴を止めろ!!」

ディーは処刑されるはずだったエースを連れているということにより、更に海軍の攻撃の標的にされていた。何人もの海軍が武器を持ってディーに襲いかかり、幾つもの弾丸がディー目掛けて飛んでくる。
海軍の誰もが、ディーを止めようと必死だった。

しかし海軍の大将達や七部海の連中は、レイリーや白ひげの海賊達が相手をしてくれているため他の海兵の攻撃を避けるのは難しいことではない。

ディーはエースを抱えていて動きづらいはずだというのに、そんな攻撃を簡単に避け進んでいく。その足取りには、なんの迷いもない。


「……お前は、誰なんだよ」

呆然としていたエースがそう小さく呟くと、前を向いていたディーはエースの方をちらりと見て、少し寂しそうに笑って言った。

「んー、イケメン過ぎる海の男ディーくん」

「……」

「こっちは真面目に聞いてるんだ」と言い返してやろうと思ったが、もう会話するほどの気力も残っていなかったためにエースは黙り混んだ。

この手の、この鎖さえなければ。

そうしたら、きっとエースはディーの手を振り払って「お前に助けてもらう筋合いなんてない」とか「どの面下げて会いに来たんだ」なんて拒絶の言葉をディーに投げつけるのだろう。
幸か不幸かそんな気力もなかったために出来なかっただけで、簡単にディーを否定してしまえるくらいには……それくらいにはディーの存在を受け入れることができなかった。

当たり前だ。急になんの前触れもなく、自分と同じくらいの歳の青年が実の父親であるゴール・D・ロジャーなどと言われて、信じられる人間なんてこの世にいるだろうか?
いや──それ以前に、エースの父親は白ひげだけなのである。目の前の青年でも、ゴール・D・ロジャーでもないのだ。


「そうだ!思い出したぞ!!お前、あのとき酒場にいたやつだ!!たしか、ディー!!」

前の方からそんな聞いたことのある声が聞こえて、ディーは楽しそうに笑った。

抱えられているエースも、大きな声で「ルフィ!」と少年の名前を呼ぶ。
弟の無事な姿を確認できたからか、その顔には安堵の表情を浮かべていた。

「麦わら少年、俺のこと忘れてたのかよ!!まあいいけど!」

ディーは笑ってそう言った後、ルフィを見て「エースは無事だ!走るぞ麦わら少年!」と叫び、周りの海兵を薙ぎ払ってまた走り出す。

「おう!わかった!──ディー!エースを助けてくれてありがとう!!」

相当無茶をしてきたのだろう。傷だらけだがエースを見て嬉しそうなルフィに笑顔でそう言われ、ディーは少し驚いた表情をした後、嬉しそうに笑った。

「俺が勝手にやったことだからな!気にすんな!」

「それでも、ありがとう!!」

「……ああ、こちらこそ、──」

ディーはその先の言葉を言おうとして黙り混み、また笑って前を向いた。

 

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