もはや今は過去の話さ
その昔、海賊王ゴールDロジャーが、この世の全てを手に入れたとか入れなかったとか。
馬鹿と天才は紙一重という言葉がある。 天才はその天性の才能で凡人では考えられないことも常識に囚われずにやってのけるが、いかんせんその考え方は常識の道を外れているために奇行に見えて馬鹿よばわりさてしまうというそれだ。
たしかに、天才は素晴らしいものを天から授かっている。 しかし、その代償に何かのピースが一つ欠けたまま産まれてくるやつのことも、言い換えれば天才と言えるのかもしれない。
「ウホッ、いい海軍。俺と一緒に海賊や、ら、な、い、か?」
そう言って、とてもいい笑顔で海軍に剣を振り回してるその人。三十路を越えてるおっさん(ノンケ)であるが、本人曰くまだまだ現役らしい。 今日もまた、次の島に行く途中で襲ってきた海軍に攻めこまれて力業で退散させようと前線に出て剣を振り回している。
「おーい!ロジャァァァァァァ!」
「ガァァァァプ!またお前かよ!お前どんだけ俺のこと好きなの?でもケツはやらねぇぞケツはな!」
おっさんはそんな間抜けな事を言いながら、しかしそれでも海軍の中でも結構な実力者のガープと互角に渡り合っているというのだから、世の中見た目でも中身でも判断してはいけないのだ。
それにそのおっさん、ロジャー率いるロジャー海賊団のクルーは、この馬鹿という名の膨大な心の広さがロジャーのいい所だと知っていた。その心の広さに惹かれてクルーになったやつもいる。
だからそう、頭からっぽの方が夢を詰め込めるのだろう。だからこそロジャーの頭の中は夢いっぱいで、他の余計なことはあまり考えない。
「俺は海賊王になるんだからーガープくんの相手してる場合じゃないのーストーカーやめてよー」
「ハハハハ!!なら!おれを倒してから海賊王になるんだな!」
しかしながら、まさかこいつが本当に将来この世の全てを手にする海賊王になるなんて、誰が予想できただろうか。
「おい、キャプテン!ここで戦うのは不味い!一旦退け!」
レイリーがロジャーに向かってそう声を張り上げた。 しかし、キャプテンの方はまるで聞きもしないで武器を振り回している。
「アッハハハハハハハァァァァァ!オラオラオラオラオラァァァァ!逃げる奴は皆海軍だ!逃げない奴はよく訓練された海軍だ!ホント戦いは地獄だぜ!」
「退けっつってんだろ!!!」
レイリーがそう怒鳴って、そこでようやく「あ?なんだなんだ?」とロジャーから返事が帰ってきた。 レイリーは頭を抱え、他の部下たちはあきれた表情をしている。
しかし、これが日常だった。 なんだかんだで船員は、この日常が嫌いではなかった。
×××××
にこにことよく笑う人だった。 記憶の中で、その人はいつも笑顔が絶えない人だ。泣いたところは見たことがないし、怒ったときだって笑顔だった。だからこそ、その人の真剣な表情を初めて見た。
「財宝か?欲しけりゃくれてやるよ。探せるもんなら探してみろ!この世の全てをそこに、置いてきた」
その人はそう、高らかに告げて、そして。
「ありがとう。この一生は、とても幸せでした」
いつものようににっこりと微笑み、その首に、刃が──
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