罪のない人
エースにとって、ディーは友人でしかないだろう。 エースにとっての父親はきっとガープや白ひげで、家族は弟だというルフィや仲間達。
「それでも、俺は」
呟いたディーの言葉は大勢の人間の声にかき消され誰の耳にも入らなかったが、たしかにその言葉には決意が込められていた。 あいつの、エースのために、こんな大勢の人間が必死になっている。こんなにも愛されているのだ。それだけでもう、理由としては十分だ。
「ガープくん!!やっぱりお前を信じてよかった!!」
そう言って、何処かで見たことのあるような笑みを浮かべた目の前のディーを、ガープは酷く驚いた表情でディーを見た。間違えるはずがない。 そのふざけた台詞も、無邪気な子供っぽい表情も、少しくせのある戦い方も、昔、見慣れていたものだ。 まさかとは思っていたが、今確信に変わった。
どうしてか、とても胸が熱くなる。 ここまでの激昂、気持ちの高ぶりを感じたことが今まであっただろうか。 それくらいにまで、今、起こっていることが信じられない。また会うことなんて、絶対に無いと思っていたのに。
それでも、これが真実なのだろう。
「──ぶわっはっはっは!!ロジャァァァァァ!!」
そう、ガープは嬉しそうに叫んだ。
「ロジャー……!?」
その言葉に、誰もが言葉を失った。 一番そうであってほしくない、そうであるはずがないと思っていたことを、ガープが言ってしまったからである。
たしかに海賊王は、ローグタウンで処刑された。生きているはずがない。 それに、目の前の青年はどう考えても若く、容姿がまるで違う。この青年が海賊王だなんてことは、そんなことは絶対にあり得ない。 ──しかし、あのガープが言うのだから、もしかすると本当にゴール・D・ロジャーで間違いはないのではないか。
だが、それにしたって考えられない。 確かに青年は恐ろしく強いが、そんなことが。
誰もが、この事実を信じられずにいた。 誰かが取り乱して「ヤツが、海賊王が生きているはずがないだろう!!」と大声で叫ぶ。
辺りは騒然となり、それを映像と音声で聞いていた全世界の人間もまた、言葉を失った。
「なあ、ガープくん、そこ退いてくれよ」
誰もが唖然として、何も言えずにディーを見る中、そんなことも気にしていない様子でディーはそう言い、真っ直ぐにガープを見た。 ガープは拳をきつく握りしめ叫ぶ。
「──なら、わしを倒して退かせてみろ!!ロジャー!!」
「ガープくん、わかるだろ?産まれてくることが罪の人間なんていない」
それはいつもとは違い、冷静な声だった。
「……」
たしかに、ただ血を引いているだけで、産まれてきただけで罪だなんて、そんなことは理不尽かもしれない。 しかし、それでもだ。
「退かないなら、力ずくで行くぜ!!ガァァァァァァプ!!」
ディーは大声でそう叫んで、拳をガープに振りかぶった。
──ガープの後ろの、処刑台の上に座るエースは、ただ信じられないものを見るような目でディーを見ていた。
← →
back
|