大番狂わせ
「死んでも助ける。いやー!麦わら少年!嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」
そんな、まるで場に合わない能天気な言葉が聞こえ、誰もがその言葉が聞こえた方を向いた。 そこには、いつしか見た黒髪の青年がにこにこと楽しそうな笑みを浮かべ、いつの間にか戦場のど真ん中に堂々と立っている。
「ディー……!?どうしてここに……!」
処刑台の上のエースが、驚いてそんなことを呟いた。 周りの人間も驚いた表情で、なんだあいつは、というようにディーを見ていた。
それはそうだろう。 ここは海軍本部で、今まさに白ひげと海軍が戦っている、謂わば戦場である。血で血を洗うような、何人もの人が死ぬような戦争。 そんな場所に、いつからそこにいたのか、真ん中に一般人であろう普通の青年がいるのだ。驚かないはずがない。離れた場所にいる白ひげも、少し呆れた表情で「あいつ……」と呟いた。
しかし、そんな周囲の人間とは裏腹に、ディーは自信満々というように笑って、後ろに立っている人物を見て言った。
「ちょっと遅れたけど!ヒーローは遅れて登場するものだからな!なあ、レイリー!」
「ディー、あまり油断はしないでくれよ」
レイリーは少し笑って、ディーにそう返した。 その人物を見て、誰かが「シルバーズ・レイリー……!?」と驚愕の表情で呟く。 それを聞いた周囲の人間も驚きの表情を浮かべた。
冥王、シルバーズ・レイリー。 海賊王ロジャーの右腕。 そんな人間がどうしてここに、と混乱している周りの人間の言葉に、答える人間は誰もいなかった。 誰も、その理由を知らなかった。
周囲の人間が驚く中、しかしディーはそんなことは気にもとめず、エースに向かって大声で叫ぶ。
「エースー!!来ちゃった!!てへぺろ!!」
「──来ちゃったじゃねぇ!!ディー!今すぐ帰れ!!」
「え、やだ」
エースの必死な叫び声とは裏腹に、ディーの方はそれに全く動じず、そう短く簡潔に答えた。 しかし、ディーはどうやら本気で海軍と戦う気らしく、ディーのまるで戦ったことのないというような傷一つない綺麗な両手には、剣と銃が握られている。
それを見て、エースは逆に悲しみと怒りがこみ上げてくる。どうして自分をそこまで助けようとするのか、理解が出来なかった。
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!!死にたいのか!?」
「──死なねぇよ、」
そして、ディーは真っ直ぐに処刑台の上のエースを見つめ、急に真面目な表情をして言った。
「お前に罪はないさ。処刑される必要なんてない」
「は……?えっ──」
「エース姫!!ディー王子が今助けに参ります!!」
なんてね!! ディーはそんなことを叫んで、得意気ににやりと笑うと、持っている武器を構えた。
基本的に、自分は守る側なのである。 そして今回、守られる側なのはエースだ。エースのためだけに、この戦いはあるのだ。後方にいたって何も守れやしない。 誰もが前に進もうとしている中、“帰れ”なんていうのは聞けないお願いである。
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