幕引き

それは、かなり大規模に報道された情報だった。

何枚ものビラが配られ、新聞を騒がせ、世間の人達に囁かれ、そして誰もが耳にしていた。この情報を知らないものは、もはやいなかった。全世界の人間が、そのことに注目していた。

──だからこそ、新聞もビラも読まない、情報に疎いこの青年の耳に自然とこの話が入ってくるのも、必然だったのである。



おい、お前知ってるか?
なんだよ
ポートガス・D・エースの処刑のことだ
……ああ、当たり前だ。知ってるに決まってんだろ



「……えっ?」

黒髪の青年は、今さっきまで美味しそうにかぶりついていた大きな骨付き肉をぼとりと床に落とし、そんな間抜けな声を上げた。
その瞳は驚きで見開かれ、どうにかその場に留まってはいるが今にも座っている椅子から倒れそうなほどに動揺している。何時もなら、床に落とした肉に対して「もったいない!」だとか「三秒たってないからいける!」だとか反応を示すはずなのだが、今日はそれがない。
床に落ちた肉になんて何の反応も示さずに、青年は自分の座る酒場のカウンターテーブルの丁度真後ろのテーブル席に座っている男二人の会話に耳を傾けた。



白ひげが、黙ってないんじゃないか?
ああ、だろうな。きっと、海軍と白ひげの戦争だ──



黒髪の青年はガタリと無言で席を立った。
そして、そのままカウンターに注文した料理の代金を置いて、何も言わずに店を出ていく。 その表情は笑顔だったが、いつにもまして真剣だった。



あれから、あの時間から、実に数十年も月日は流れたのだ。
結局、顔を見ることは叶わなかったし、性別だってわからない。生死だってそうだ。

もしかしたらもう、この世にいないかもしれない。
もしかしたら海軍に殺されているかもしれない。

しかし、なんとなくだが、ディーにはきっと生きているという確信があった。
ガープなら信頼できるのだ。ガープなら、海軍に引き渡すなんてことはしない。絶対に、生きていると。

「エース、」

 

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