さん

「俺はスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルやばい、イケイケでチョベリグな感じの海の男ロジャー!よろしく!」

今でも明確に覚えていた。

あいつは自分の昔の記憶の中でたしかに、そんな意味のわからない言葉を使ってにこにこと楽しそうに笑っていた。
あいつの泣き顔だとか、怒りに満ちた顔だとかは見たことがない。もしかしたら誰も見たことがなかったかもしれない。
あいつは誰よりも優しく、誰よりも寛大だった。

自分の記憶の中であいつは楽しそうに嬉しそうに、変な言葉と変な調子を交えて俺に話すのである。


「俺は、……超ぷりちーでスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルやばい可憐な海の男、ディー!世界を放浪しながら旅してる。一応人探しも兼ねて」

酷いほどに同じだった。恐ろしいほどに一緒だった。

容姿も声も年齢だって違う筈だというのに、笑い方が、話し方が、立ち振舞いがそのふざけた台詞が──自分の記憶の中だけにいるはずの男に瓜二つだった。

芯が通った真っ直ぐな瞳と、安心させるような笑顔と、そしてその雰囲気が。無関係とは考えられないほどに。
そんな筈がない、あり得ないと、無理やり他人のそら似だとして納得しようにも、それが出来ないほどには偶然にも出会った青年は似すぎている。

「乗せてくれて本当助かったー!ありがとうな白ひげ!長生きしろよ!朝ごはんは毎日食べろよ!ちゃんと歯ァ磨けよ!」

そう言って、記憶のなかの男にそっくりな青年は、自分の目の前でにっこりと笑う。
その隣にはエースがいて、やれ親父にはそんな軽々しい話し方をするなだとかやれもう少し敬意を払えだとかディーに騒いでいた。どうやらこの数日で随分と打ち解けたらしい。

あれから7日経ち、目的である次の島に着いた。
ディーは、仲良くなった船員から貰った食料だとか本だとか武器だとかの大量の荷物を持って、今からこの船を降りるのだろう。


白ひげは過去には囚われない男だった。死んだ筈のあの男が、こうして生きている訳がないのである。どんなに笑顔が似ていても、どんなに話し方が似ていても、どんなに雰囲気が似ていても、それはあの男ではなくディーという青年である。

しかし、もし彼がそうだったとしたら──いや、もし、そうだったとしても、なんだというのか。

そうだったとしても、あいつが生きているというだけで十分ではないか。


白ひげは言いかけた言葉を呑み込んで、お前もなアホンダラ、と笑うと、自分に手を振り部屋を出ていくディーを見送った。

 

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