優しくなること
キリキリと痛む胃を押さえ、俺は今日も働く。 胃が痛いよ、もう疲れたよ。このままだと胃に風穴が空いて死ぬ。間違いなくストレスで死ぬ。
それでも俺は、今日もこのドフラミンゴの下で働くのである。これなんてシンデレラ。
いっつもいっつもこき使いやがって。他に部下なんてたくさんいるというのに、何故かドフラミンゴは俺をこき使ってくる。それはもう集中的に馬車馬のように働かせる。 俺、若にここまで嫌われるようなこと、まるでしてないと思うんだが。全然記憶にないぞ。 むしろそれどころか忠実な部下だろ。なんでこんな風当たり厳しいんだよ。おかしいだろ。
「若、これ以上働いたら過労死します俺。召されます」
「アァ?何言ってる。大丈夫だろ」
大丈夫なわけあるか!若はいいだろうなそりゃあ基本的にソファー座ってるだけだもんよ! そもそも何で俺は、ちょっとしたことで一々呼び出されて命令されなきゃならないんだ。そんなこと、もっと下っ端にやらせろというようなことから、結構大規模なことまでほとんど。 俺昨日、あんま寝てないんですけど。ストレスで胃薬手放せないんですけど。すごい肌荒れてきたんですけど。隈酷いんですけど。食欲ないんですけど。いい始めたらきりがない、これ過労死する。死ぬぞ。
それでも俺は、ここで何故コツコツ働いているのか。そんなの決まってる。俺だって逃げれるなら逃げたい。 しかし、逃げたら存在を抹消されるからだ。
いや逃げたことないけど。これだけは確信めいたものがある。俺逃げたら情報漏れるかもしれないし、まず若がほっとくわけがない。
連れ戻されて死刑。 部下に殺害命令を出して死刑。 この二卓だろう。逃げ場ないじゃん、なにこれ笑えない。逃げられないとか、これなんてシンデレラ?
そこで問題。このストレスマッハで酷い生活習慣を、どう脱却するか?3択、ひとつだけ選びなさい。 答え一、ハンサムすぎるナマエには白馬の王子様が助けに来てくれる。 答え二、傷付いたツバメが遠くの島に運んでくれる。 答え三、どうしようもない。現実は非情である。
「どうあがいても三です。本当にありがとうございました」
「何がだ」
「いえ、別に何も」
俺は遠くを見ながら短くそう答えた。もはや意識朦朧とするレベルである。
ああ俺、過労で若の為に死ぬのか。 実質、かなり寿命縮まってそうだしね。三十路過ぎのおっさんの、所々ギシギシいってる体に鞭打つとかね、もはや罪だよね。
「……ナマエ」
「なんですか。そろそろ休ませてくれないと、さすがにこのまま偵察行けだとか外の警備しろとか言われたらさすがに倒れます」
倒れるどころか、過労でいつの間にか心臓止まってましたとかあったりして。なにそれ笑えん。
俺がそう思って、また若の方を見ているようでまるで違う遠くの方を見ていると、少し黙り混むと無言で俺に何か手渡してきた。 え、何。
「若、……え?若?」
え、なにこれ指輪? もしかしてあれ壊しちゃったから?え、マジでか。嘘だろ。 赤い宝石の指輪。しかも高そう。かなり高そう。だってこれ宝石結構大きいよ?これどれぐらい値が張るんだろう。というかこれ、くれるの?
「え、これ……俺にくれるんですか?」
「……他に何があるんだよ」
マジかよ。本当に?
わ、若、若っていい人だったんですね……! 完璧悪い人で、弱いものいじめ(主に俺)が好きな人だと思ってましたよ。あと、罪悪感とかあったんですね。 さすがに失礼だけど、俺は素でそう思った。
だって、あの若が俺に? ありえねぇぇぇこれ夢なんじゃないのか。 やばいぞ嬉しい。嬉しすぎてもはや泣きそう。というか感動しすぎて手が震えてきた。
「若……!若……!俺これ、大切にしますね……!」
「……捨てたら許さねェからな」
若はそう言ってそっぽを向いた。 冷たいよ若冷たい。でも嬉しいからいいや。俺は幸せな気持ちで、指輪を握りしめた。
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